ルーツに立ち返るハイランドパーク【後半/全2回】
オークニー諸島とヴァイキングの深いつながりは、ハイランドパークのウイスキーづくりにどのような影響を与えているのだろうか。その答えは、オークニーの人々と蒸溜所のチームが献身を続けるコミュニティの豊かさにあった。
文:クリストファー・コーツ
ヴァイキングの歴史が、ハイランドパークとどんな関係があるのだろうか。まずは最初に断言しておこう。ハイランドパーク蒸溜所が古代スカンジナビアのイメージをコアな商品レンジに採用し、ノースゴッドやヴァイキングレジェンドのリリースに神話のモチーフを重ねたことは完全に理にかなっている。だがそれより重要なこともある。オークニー人の際立った気風と独立独歩の精神は、ハイランドパーク蒸溜所のウイスキーづくりにも色濃く現れている。地元で採掘されるピート、フロアモルティング、フルタイムのシェリー樽熟成、長期間のマリッジなど、「我が道を行く」方針がまさにヴァイキング精神の象徴なのだ。
ハイランドパークは、現代のヴァイキングたちによってつくられている。遺伝子上のつながりを考えただけでも、そんな印象は否定できないだろう。この額面通りの答えを手にして、首尾よく点と点を線でつなげたことに満足してオークニーを去ることもできただろう。だがこれだけの史実を学んでも、実のところ漠然とした「ヴァイキングの魂」とハイランドパークとの間にまだ未知のつながりがあるように思えてならなかったのである。ありがたいことに、ハイランドパーク蒸溜所のチームと会うことができたのはそんな折だった。
率直で、歯に衣を着せない情熱的な人々(ほぼ全員がオークニー人)がそこにいた。みな地域のコミュニティ、オークニーの文化、ハイランドパークで働く素晴らしさについて滔々と語れる人ばかりである。そして何より、彼らの行動が言葉の真意を裏付けている。蒸溜所での勤続年数は平均で約20年にも及ぶ。この事実が、彼らの誠実さをはっきりと物語っているように思えるのだ。実際、最近まで蒸溜所でいちばんの新顔だった生産管理担当のメンバーは「たったの8年」しかハイランドパークで働いていない新米だとみなされていた。
だがそこに、大きな変化が訪れたのは18カ月前のこと。ダフタウンのバルヴェニーで7年間働いてきたマリー・スタントンが、家族と一緒に荷物をまとめて250km北にあるカークウォールに移り住んできたのである。古代のヴァイキングたちのように、マリーはどんな未来が待ち受けているのかも知らないまま、未知の新しい生活へと突き進んできた。「でもハイランドパークのマネージャーみたいな仕事のチャンスが回っていたときは、とにかく飛びつくべきでしょ」とマリーは語る。それでもマリーはすぐに自分の判断が正しかったことを確信することになった。現在でも「毎朝スキップしながら蒸溜所の門を通っている」のだそうだ。
「すぐにわかったのは、ここで働くチームが自分たちの仕事に大きな誇りを持っていること。でもその誇りを表現する方法が、世界市場で蒸溜所を宣伝する通常のやり方とはまったく異なっていました。新しいボックスの側面に印刷された『オークニー産 誇りとともに(Made With Pride On Orkney)』の文字を見たときは泣きそうになりましたよ。本当に実情がその通りなので」
一人ひとりに宿るヴァイキングの多芸性
蒸溜所の人々に新しいパッケージの感想を尋ねると、熱のこもった答えが返ってくる。ブランドチームはオークニーに何週間も滞在しながら調査をおこない、ビジターセンターや生産担当チームに聞き込みを続け、地元の人々を質問攻めにした。いにしえのヴァイキングがティングウォールで開いた議会のように、あらゆる人々に意見を述べるチャンスが与えられたのである。ボトルの底には、長く待望されていたオークニー諸島の地図がエンボスされている。このデザインはとりわけ関係者に好評を博した。オークニー人のアイデンティティにとって、地理的な要素は極めて重要なのだ。マリーの話は続く。
「私にとって、ヴァイキングの魂というのは、単にヴァイキングの子孫であるということに留まりません。あるいは単にオークニー生まれだからということでも説明できないものです。ここで生まれ、この島を抜け出したくて仕方がないと思う気質もまたヴァイキングの魂です。単なる出自ではなく、人間の本質の話。ハイランドパークに惹きつけられる人々の生き方や性格は、他のどんな人たちとも違うんですよ」
そんなマリーの結論に、私はただ同意するしかなかった。
ハイランドパークは、さまざまなエキスパートを抱えるプロフェッショナル集団だ。 蒸溜、モルティング、ピート採掘、貯蔵、ホスピタリティ、ツアーガイド。その他にもさまざまな仕事がある。もちろん小さなコミュニティ内に高度なスキルを集中させるのは、オークニーの歴史を通じて必須の条件であった。かつてはそれが生き延びるために必要な唯一の道だったのである。今でも内情を覗き見るだけで、ハイランドパークのファミリーにそんな伝統が脈々と息づいているのがわかるだろう。例えばマリーは新しいスキルを身につけるのが大好きで、すでに5種類の楽器を演奏することができるのに、また最近になって通信大学でクラシック音楽の学位を取得しようとしている。理由は「ただ面白そうだから」。家族を育てながら、このような新しい可能性にどんどん足を踏み出すのである。
貯蔵庫チームのリーダーを務めるキース・モアは、経験豊富なボート選手だ。だがそればかりでなく、祖先のヴァイキングの伝統に従って自分が漕ぐボートを建造してしまう。貯蔵庫チームのロビー・ドレヴァーは腕利きの大工で、余暇の時間を特注家具の製作にあてている。一脚に100時間を要するというオークニーチェアは、オークションで約1000ポンド(15万円)の値がつく。売り上げは、しばしばチャリティに寄付されている。
またハイランドパーク蒸溜所には、奇祭「カークウォール・バ」の選手がたくさんいる。なかでも特に血気盛んなのは、生産チームでリーダーを務めるエリック・スミスと貯蔵庫担当のロニー・パターソンの2人だ。この祭りはカークウォールの町を二分してボールを奪い合う荒々しいもので、毎年クリスマスと大晦日はストリートが血に染まる。古代フットボールの原型ともいわれる「バ」の特徴を、1980年代のBBCレポーターがうまく言い表している。「バは、ゲームというより内戦に近い」。かつてのヴァイキングたちにとっては、それも望むところなのだろう。
地域とともにウイスキーをつくる
ハイランドパークには、このように多彩な情熱とスキルに恵まれた人々があふれている。だが私が蒸溜所の人材の素晴らしさを確信した理由は他にもあった。それは何度も考えさせられた究極のテーマ、すなわち地域コミュニティとの深い関わりだ。マリーが説明する。
「オークニーへの移住は、ただの引っ越しとは違うんです。地域の活動に協力している姿を見せることによって、初めて受け入れてもらえる風土がありますから」
そんな考えに同意するのはパット・レットソンだ。彼も1990年代にオークニーへ移住して、今ではビジターセンターのマネージャーを務めている。
「地域貢献はオークニー文化の一部ですね。オークニー人は、自分たちのコミュニティへの献身を惜しみません」
オークニー諸島の住民全員について慈善活動の実体を把握している訳ではないが、ここハイランドパークでは間違いなく博愛の精神が徹底されている。スペースの都合上、蒸溜所のメンバーが関わっているチャリティー活動(クリスマスフェア、スカイダイビング、オークニー諸島のボートツアーなど)のすべてを紹介することはできない。だが間違いなく、彼らは周囲の人々にいつも関心を持ち、親族や地元の組織などと手を取り合いながら、島の生活を素晴らしいものにしようと努力しているのである。
ハイランドパーク蒸溜所のチームは、「オークニンガ・サガ・センター」の設立にも協力しようと計画している。オークニーの古代スカンジナビア物語を地元住民や旅行者に伝え、古い伝承が忘れ去られるのを防ぐ拠点を作るためである。
「もちろん、このような活動はエドリントン系列の蒸溜所ならどこでもやっています。 でもハイランドパークの活動は、通常のレベルをはるかに超えていますよ」と、エリックが誇らし気に説明する。この程度の慈善事業や地域との団結は、オークニーではごく当たり前のことなのだ。
当初の旅の目的は、オークニー諸島の面白い歴史について深く学ぶことだった。だが私がカークウォールの丘の上にある蒸溜所で目にしたのは、現代のヴァイキングたちが誇りを持ってシングルモルトをつくるビジネスの流儀だ。蒸溜所で彼らと4日間を過ごし、物語に耳を傾け、働く様子を眺めながら、彼らが大切にしていることを理解して先人たちの足跡を継承する活動を知った。そして今、ようやく「ヴァイキングの魂」がどのようなものであるか理解できるような気がするのである。
ハイランドパーク12年 ヴァイキング・オナーアルコール度数:40度 容量:700ml 希望小売価格(税別):4,200円 ※新パッケージは2017年9月15日(金)より出荷・発売を開始します。アルコール度数、容量、価格、中身に変更はありません。現行の『ハイランドパーク12年』は2017年9月14日(木)をもって出荷終了となります。 |
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