インドの最新ウイスキー事情
ダイナミックに成長を続けるインド経済で、ウイスキー業界にも大きな変化が起こっている。波乱とともに幕を開けた2017年を振り返りながら、サンディープ・アウロラがインドのウイスキー事情を現地より詳解。
文:サンディープ・アウロラ
インドのスピリッツ業界にとって、2017年はまさにダイナミックな変化に満ち溢れた1年間だった。規制や消費者のトレンドなども目まぐるしく移り変わり、古参のブランドが有利な立場を占める一方で、新しいブランドも数多く誕生している。
2017年のインド市場は、2016年11月におこなわれた高額紙幣廃止の影響を引きずりながら幕を開けた。紙幣の流通が不足したことから、人気ブランドの売上は軒並み打撃を受けている。現金によるスピリッツの売上は大きく低下し、30〜40%の収益減を記録した小売店もあった。主要ブランドの販売量も減少し、業界イベントへの客足は鈍り、広告料や投資額も落ち込んだ。このような時期はネットワーキングに力を入れる好機であるが、業界は急場しのぎの策に終止した感がある。
高額紙幣廃止のショックも冷めやらぬうち、2017年4月には高速道路の閉鎖が追い打ちをかける。流通の大動脈を失ったインドのスピリッツ市場は大幅な縮小を余儀なくされた。高速道路に近い販売店では、アルコールの売上が5〜20%も落ち込んでいる。
だが幸いなことに、この1年は悪いことばかりでもなかった。業界を活気づけるようなトレンドが生まれたのも事実である。成長率で世界のベスト5に入るブランドのうち、4つまでがインドのブランドだ。インドではウイスキー人気がスピリッツ市場を席巻しており、その地位はゆるぎそうにない。他の主要なスピリッツカテゴリーが、ウイスキーの市場独占を揺るがすことはしばらくないだろう。
国内ブランドも輸入ブランドも成長
インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・リサーチの調査によると、世界のスピリッツブランドの成長率トップ25のなかに7つのインド産ウイスキーブランドがランクインしている。「インペリアルブルー」は、2013~14年の成長率が27.7%で堂々の第1位。低所得者に人気の「オフィサーズチョイス」が18.4%で後に続く。
またペルノ・リカール・インディアは、傘下のインド産ウイスキー「ロイヤルスタッグ」「ブレンダーズプライド」「インペリアルブルー」を世界市場に投入し始めたところだ。「オフィサーズチョイス」は、すでにスミノフを世界最大のスピリッツブランドの座から引きずりおろした。「ロイヤルスタッグ」とディアジオ所有の「マクダウェルズ」も僅差でその後を追っている。
興味深いことに、年数表示と風味の関係について新しい考え方をする層が増えている。新しい世代のウイスキーファンは、その多くが年数表示のないブラウンスピリッツが増えてからウイスキーを飲み始めた層でもある。そのため年齢層の高い消費者のようにはラベルの年数表示を重視していない場合もある。
グローバルブランドの一番人気はシーバス18年で、シングルモルトに限ればグレンリベットである。ペルノ・リカールは、アベラワーとスキャパを2018年前半に投入する予定だ。
現在、世界中でアメリカンウイスキーが脚光を浴びているが、インド市場も例外ではない。インドにとってアメリカンウイスキーはスコッチウイスキーに次ぐ第2位の輸入ウイスキーカテゴリーであり、ここ数年で着実に成長を見せてきた。多くの消費者がアメリカンウイスキーの風味、品質、価値を好むようになり、人気に拍車をかけている。
このような成長の要因には、可処分所得の増大がある。成人した消費者たちがグローバルブランドを知る機会も増え、個人レベルでアップグレードを始めているからだと見られている。世界を旅する若いインド人たちは、オーセンティックでクラフツマンシップの伝統があるブランドを求めている。
2017年、インドのトップバーではウイスキーのメニューがアップグレードされ、サービス基準も大きく向上した。ニューデリーにあるタージクリシュナ、ハイデラバード、JWマリオット、ベンガルール、ロディなどのホテルでは、「バーのなかのバー」と見なされているホテルバーへの投資が加速している。ウイスキーとのフードペアリングは、今やほとんどのバーで定番化した。有名なアジア料理レストラン「ポー」を経営するインドのトップシェフ、ヴィクラムジット・ロイ氏は「ウイスキーはインド料理にもよくあいますが、他のアジア料理や日本料理も素晴らしいものをご用意しています」とコメントしている。
シングルカスクやジャパニーズウイスキーも需要増大
インドのウイスキーブランドでは、特に「ポールジョン」と「アムルット」の成長が著しい。「ポールジョン」は世界的な販売拠点もすでに設置した。インド人たちは、インド産のシングルモルトの味わいや愉しみ方について独特の見解を持っている。
ベリー・ブラザーズ&ラッドもインド市場にシングルカスクウイスキーを投入している。サゼラックライがポールジョンの株式の28%を購入し、さらに15%を2年以内に買い増すという動きもある。業界の識者たちは、この動きが米国内におけるインド産ウイスキーの販売量を後押しし、サゼラックライもインド国内でのバーボンのボトリングを視野に入れているのではないかと推測している。
ジャパニーズウイスキーは、依然として入手困難な状況が続いている。インド市場で人気の土台をしっかりと固めているものの、免税店以外では購入できないのが現状だ。インドの大手酒造メーカーであるラディコ・カイタンが、2011年にサントリーのプレミアムウイスキーをインド国内の大都市圏で販売したことからジャパニーズウイスキーのブームが始まった。この提携はわずか3年で終わってしまったが、ホテルや消費者はジャパニーズウイスキーを入手しようと努力を続けている。スピリッツを取り扱う大手のカスクスピリットマーケティング社は、2018年前半から「キリンウイスキー 富士山麓」の輸入を開始する。
またウイスキーを楽しむ女性の数も急速に増えており、ひとつの消費者層として存在感を増している。ファッションデザイナーのカマル・モハンダスは次のように分析している。
「ウイスキーは他のお酒よりもエレガントで、楽しむのも簡単。選択肢も幅広いので、インド中のバーで若い女性たちが夜にウイスキーのさまざまなフレーバーを楽しんでいます。多くの人がプレミアムブランドやアイリッシュウイスキーを好んでいるようですね」
ウイスキーの人気が高まるにつれ、ウイスキーの愛好会も人気を増してきた。人々は熱心にウイスキーのつくり方を学び、正しい愉しみ方を知ろうとしているところだ。グルグラムの「ウイスキーサンバ」やムンバイの「コーデ」といったウイスキー主体のバーが2017年に開店し、さまざまなウイスキー体験を提供する拠点となっている。
インドのウイスキー人気は、数年以内に次の局面を迎えるはずだ。2017年に築かれた成長への土台は、これからさらに重要度を増していくだろう。ウイスキーのイメージは若返っており、ウイスキーを取り扱う単体のバーも増えている。幕開けは不安だった2017年だが、終わってみればウイスキーファンにとって画期的な1年となったのである。