WMJ的酒場放浪記・3 【大阪東通り編その1】

May 8, 2013

今年から連載を開始したWMJ的酒場放浪記。弊誌記者がお店を紹介してそのレポートが少しでも読者の方のお店選びの参考になればという趣旨の企画で、いろいろな角度からスポットを当てていきたい。
さて、今夜もウイスキーの香りに誘われてBARという名の止まり木を渡り歩くとしよう。

大阪は北区神山町。東通りと呼ばれる大阪駅から徒歩10分くらいにある歓楽街だ。昼間のうちは学生などの比較的若い人の姿が目に付くが、夕方6時ともなると飲食店の呼び込みがピークを迎え仕事を終えたビジネスマンの姿がどこからともなく現れる。そんな 街の一角にあるTRIBEというBARに立ち寄ることにした。ギネスの看板が出ているので見つけるには苦労しない。

オレンジ色の照明で照らされた店内は木材がふんだんに使われた温かみのある造り。そしてバックバーはシングルモルトを中心に天井までびっしりだ。セレクションはオフィシャルボトルが中心で、オフィシャルスタンダードを大切に扱っていると直感する。それらのボトルに紛れて数々の限定品も多く取り揃えられており、ウイスキー初心者からマニアまで幅広い客のニーズに応える準備が出来ている事を伺い知る事が出来る。

18歳から喫茶店で飲食の道に入り8年の修業の後、このTRIBEをオープンしたのが10年前(今年の9月で10周年)というマスターの福重さん。お店のコンセプトを「オールドスタイル」と定め、お酒を飲むことの格好良さと心と身体が楽でいられると場所を提供することを信条としている。ストックはウイスキーとその他の酒で約700種。カクテルも焼酎もお酒は何でも好きだという福重さんだが、一番好きなものはやはりシングルモルトだという。

そこで定番の質問。

「ウイスキー初心者の方にお薦めするとしたらどのようなものを提案されますか?」

福重さん「基本的にはその方が今まで口にした事のある銘柄を伺って、好みを探ることにしています。といっても、たとえご自分が飲んだことがある銘柄が分からなくても大丈夫ですよ。今でしたらハイボール用に冷やしてある「シングルトン」をあえてストレートでいかがでしょう?」

早速いただいてみることに。

普段からシングルモルトをストレートで飲むことの多い記者Oだが、ウイスキーそれ自体が冷えているものを飲んだ経験はそれほどない。シングルモルトは常温で提供するのが一般的で、これは温度が低いと「香りと味わいが閉じる」ためだ。このシングルトンも温度が低い分香りはやや閉じ気味で、冷蔵庫で冷やしたチョコレートのような香りがする。口に運ぶとその冷たさが手伝って非常にスムーズな口当たりとのど越しになり意外と飲みやすい。アルコールが口の中で暴れるのを温度で抑えている印象だ。

ところがこの飲み方の面白い点はこの後にある。液体の温度の上昇とともに、最初は感じられなかったフルーティな香りがどんどん顔を出してくるのだ。もちろん味わいも穀物系の味わいからフルーツ系の味わいが現れてくる。再度口に含むと温度の鎧から解き放たれたアルコールのボリュームが口、舌、喉、そして鼻を駆け巡る。短時間で起こる大きな変化だ。

 

福重さん「自分も飲み始めの時には小さな変化に感動しました。加水すると白濁したりするものもあったりしますね。この温度の変化によって味わいが変わる点もその一つで、あえてストレートでお出しするのは味わいの変化を楽しんで頂きたいと思ったからです。」

そういえば記者Oもウイスキーが時間と温度の変化により味わいが変わるということを知ったばかりのときはテイスティンググラスのウイスキーをひたすら回し続け、半ば強引に香りを開かせていたことを思い出した。でもその「変化」がなにより楽しいのである。マスターが伝えたいのはそういうことなのだろう。

それでは、ある程度ウイスキーを飲みなれた人やマニアックな人にはどのような提案を?という質問には、

福重さん「ウチのお客様に関して言うなら、なにか原点に戻ってきている感じがしますね。ボトラー物などをたっぷり飲みつくして一周してオフィシャルスタンダードに戻ってきたというような。最近ですとスプリングバンクのカルバドスウッド。あのボトルは素晴らしかったですね。お客様の評価も非常に高かった。そういうオフィシャルボトルで極端に値が張らないけれど特徴がよく出ていて面白いボトルを提案することが多いですかね。」

このBARを紹介する上で必ず書かなければいけないことがある。

なんとこの店の1shotは50mlで提供しているという。しかもハーフショットのオーダーも可能で、その場合は文字通り約25mlでの提供となる。一般的に1shotといえば30ml、ハーフ15mlというのが相場なので、このサービスはたくさんの種類を少しずつ飲みたいというウイスキー愛飲家にとって吉報といえるのではないだろうか?25ml入ったハーフショットであればボリュームは十分、飲み応えも抜群だ。

TRIBEの客層は20代後半から40代までの働き盛りの男性が中心。仮にふらっと初めて立ち寄ったとしても、マスターの福重さんからどんどん話しかけてきてくれるので沈黙のプレッシャーに苛まれることもない。

福重さん「『温故知新』という言葉が好きな言葉です。この店で言えば『古』が『オールドスタイル』に当てはまり、『新』の部分に関しては、そのオールドスタイルを守りながら常に自分が進化していって、それがお客さんの驚きに繋がればと思っています。

 

先ほどまで降っていた雨が止んでいた。
気が付くとあっという間に2時間弱経っていた。実は大阪が初めての記者Oなのだが、大阪バーテンダーのテンポの良いトークにまんまとはまっていたようだ。これが大阪のスタイルなのだろうか?もう一件寄って確かめることにしよう。

…つづく

Tribe(トライブ)

大阪府大阪市北区神山町9-8 オーエムビル1F

TEL:06-6363-8685

営業時間:19:00~07:00

定休日:不定休

【MAP】

 

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