ロンドン バーめぐり その3[全3回]

August 8, 2012

 

ロンドンのバーを紹介するシリーズ最終回は、ソーホー地区の今と昔、そしてソーホーのウイスキー事情をご紹介。

ソーホーというところ

ソーホーはシティ・オブ・ウェストミンスター内のロンドン・ウェストエンドに位置する。
かつては近くの宮殿に住む人たちが狩り場として使う静かな郊外の牧草地だったが、17世紀に開発と都市化が始まった。

しかし、初期の裕福な上流階級の住人たちは長く居着かず、次第に大量の移民が流れ込むようになり、劇場や酒場、売春宿などができた。19世紀後期までにソーホーは自由奔放なボヘミアン的気風という評判がすっかり定着し、この特色と生々しさに引かれて知識人や作家、アーティスト、様々なその取り巻きたちが集まった。

しかしソーホーは過去25年あまりの間に再び変化し、高級市場が傾いたことで豪華なレストランやクラブ、バーやオフィスがどっと流入した。以前のもっと「面白い」住人たちに完全に背を向けたわけではないが、現在のソーホーは復活しつつあるロンドン社交シーンの中心として活気がある。

ここでは新しい方の住人をひとりご紹介しよう。

 

オックスフォード・ストリートの店舗群とシャフツベリー・アベニューの劇場群に挟まれた一帯は、過去200年にわたりロンドンの悪徳の中心だった。数々のパブやナイトクラブが建ち並び、ピーター・オトゥールやジェフリー・バーナード、オリバー・リードなどの伝説的な大酒飲みをもてなしてきた。ピーター・クックがプライベート・アイ(自身が出資していた出版社)のオフィスに行く途中でかのネリーディーン・パブを何とか通り過ぎなければならなかったのも無理はない。

それでも、この時期を通して、ソーホーには本物のウイスキー愛好家向けのバーは一軒もなかった。ミルロイ兄弟やマルコム・マリンの小売店ザ・ビンテージ・ハウスを通して買うことはできたが、友好的な雰囲気の中で本当にいい一杯を楽しめるような場所はなかった。

この明らかな欠陥に苛立ちを募らせていたマルコムは、手頃な価格で様々なウイスキーを試すことができる場所が欲しいという顧客からの要求もあって、数年の間にザ・ビンテージ・ハウスの2階のオフィスをクラブに変えてはどうかと思うようになった。問題は経済面だったが、2階には囲い付きの屋上テラスという切り札があった。そのため、2007年に禁煙条例が実施されたときに、喫煙者というもうひとつの潜在的な顧客グループを引き寄せることができた。

バーの計画には3年以上を要した。最初の難関は新たなライセンスの承認を市議会に納得させることだった。ソーホーは飽和区域(Stress Area)に指定され、市議会は新規ライセンスを承認しない方針をとっている。夜遅くにソーホーを訪れたことがあれば、皮肉にしか聞こえないだろうが。

それでも、様々な計画や許認可の担当者らは、このクラブが第二次大戦以来ソーホーを基盤としてきたビジネスの必然的な延長であるということで合意した。設計は、マルコムが思い描いたクラブの姿と各議会部局の諸条件との微妙な兼ね合いだった。設計が承認された後でさえ、ウェストミンスターの認可委員会からライセンス申請の承認を得なければならなかった。

最終的に、やっとのことでライセンスが承認され、本物のメンバーズクラブ、ソーホー・ウイスキー・クラブの営業が始まった。年会費200ポンドでメンバーになると、オフィシャルでもボトラーズでも、実に多様なウイスキーや多くの興味深い稀少品をリラックスして楽しむことができる。長い旅だったが、ついに夢を実現したマルコムは、これまでの援助に対する感謝も惜しまない。「私たちはウイスキーとシガー両方の会社から相当な支援を受けましたし、シガーとウイスキーやラム、コニャック、シャンペンとのマリアージュを試す会を含め、いろいろと面白いテイスティングイベントを予定しています」

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