大麦の需要と供給【後半/全2回】

August 24, 2013

ウイスキーづくりに欠かせない大麦の供給が足りなくなるかもしれない。ただ供給が追いつけば良いのではなく、大麦に求められる「質」は様々だ。

大麦の加工に大きな影響を及ぼす窒素含有率も大麦に求められる「質」の一つである事は前半でお伝えした通り。では、何が大麦の窒素含有率を変化させる要因なのか。

窒素の量は天候や土質など様々な条件に左右される。

「年間700~800ミリの軽い雨と軽い土は、窒素の少ない大麦を育てる傾向にあります。こうした条件を持つ主な地域はイースト・ロージアン、ボーダーズ、アンガスとブラックアイルで、土壌は水はけの良い肥沃なローム質です」サイモン・バリーは言う。

収穫に至るまでの間、その要因は他にも多くある。

「種を蒔く場合は潜りやすく早く根が張れる、比較的乾いた土が理想的です。時期も重要ですね。一番良いのは種に地中で十分な時間を与えられる3月で、この季節の湿気の少なさも好都合です。ここ最近は4月のほうが湿気が少ないようですが。反対に雪や雨、霜は種蒔きを遅らせます。4月に種を蒔いた場合、作物に許された時間はより少なく、早い成長サイクルは窒素の量を増やすことになります

それ以外に大切なのは開花の時期で、天候が大きな役割を果たす。

「開花は6月下旬から7月上旬で、できるだけ短い時間に一斉に花を咲かせることを考えると、乾燥した暖かい天気が望ましいです。寒かったり雨が降ったりすると、菌性の病気にかかる危険が出てくるので。こうなると種が一部実らなくなり、生産高に影響します。開花期の後は暖かく湿気の多い気候がいいですね。大麦が養分を吸収して種を満たし、ここからやっとデンプンの生成が始まります。雨が続くと土の中の養分が流れ出てしまい、また雨の多い冷夏だった場合、窒素の量は多くなり、デンプンが減ります

もちろん収穫期にも、天候は大切な要素となる。大麦の種類によって収穫の時期が7~10日ずれるので、条件の悪い天気を避けることにも、正面からぶつかることにもなるだろう。場所もまた大事な条件だ。例として海抜の高い地域は、収穫期が訪れるのが比較的遅い。

収穫の前の週に大雨が降ると麦の穂が倒れてしまい、その結果コンバインで刈り取ることができなくなる。一方で窒素の少ない大麦は軽い穂に実ることが多く、それらは比較的倒れにくい。しかし悪い時期に大雨が降ることの影響はそれだけに留まらない。

「収穫期の2週間前は非常に重要です。蒸し暑く雨の多い天気は発芽を早める危険性があり、ひどい場合には製麦用として使い物にならなくなります。雨は収穫を遅らせ、品質を落とすのです。ただし麦は既に成長しきっているので、収穫が遅れたからといって必ずしも窒素の量が増えるわけではありません

窒素の割合に加えて、麦芽を買うには他にも気をつけるべき点がある。

「穀物にはスカスカなものとデンプンがしっかり詰まったものがあり、それを決めるのは麦の種類、土質、天気です。例えば寒く曇りがちな天気は不向きで、中身が詰まりません。つまり穀物千粒の重さが、選ぶ時の別の基準になります

「理想的なのは重くしっかりとして、窒素の割合が低い穀物です」ドクター・ビル・クライリーは言う。

収穫期がどれだけの実りをもたらすか、その結果として大麦の供給と価格がどうなるかは分からない。しかし蒸溜業者と製麦業者の関係がしっかりしていれば、当然だがそれは良いことだ。

「原料が手に入る保証があると非常に安心です。私どもは単一の取引先である製麦供給会社シンプソンズ・モルトと長年の契約を結んでいます。ハイランド・グレーンやリンジーとも、大麦に関して同じような付き合いをしています」

他に注意を払うべきなのは原産地だ。

「私どもはキャンベルタウンからサウスエンドの範囲にある地元の農家から、毎年いくらか大麦を買うようにしています。蒸溜所から10マイル以内の地域で、袋を別にして蒸溜に使うのです。ボトリングは極度に量が少なく、スプリングバンク・ローカル・バーリーとして市場に出しています。ラベルには大麦の種類と農家の名前を記載しています。これらのボトルは通常以上の関心を呼ぶようで、愛好家の方はこうした原産地モノが好きなのですね」スプリングバンクスチュアート・ロバートソンは語る。

大麦というテーマには実に様々な考えどころがあり、当然質問をしたくもなるだろう。
将来的には一体どうなるのか?

「ここ数年の間、スコットランドでは大麦の栽培地の減少が続き、製麦業者も工場を閉めてしまったり、生産のキャパシティを縮小したりしていました。このため製麦用大麦と製麦の両方が減ることになり、現在では全体の供給量が厳しい状況です

「需要の鎖に連なる私たち、つまり農家や製麦業者や蒸溜業者は、互いに力を合わせなければいけないと良く知っています。誰もが納得する価格を安定して保つ必要がありますが、皆ができるだけ効率よく仕事をすることも忘れてはいけません」英国製麦協会で製麦業者取引委員会会長を務めるボールズ製麦のロジャー・ウッドリーは語る。

2008年の大麦の価格高騰が背景となり、スプリングバンク蒸溜所が一時操業休止したことも記憶に新しい。これは大麦だけが原因ではなくスプリングバンクの経営戦略によるものでもあったが、ウイスキー愛飲家にとって原料となる大麦の生産量も注目すべき点である事を再認識させてくれた。

今年度の収穫に期待を寄せざるを得ない。大麦がスピリッツとなりウイスキーへと生まれ変わる。長年にわたるドラマティックなウイスキーの旅のスタートがここにある。

カテゴリ: Archive, テクノロジー