“Single Malt Odyssey” ブルックラディ ジム・マッキュワン氏インタビュー 【前半/全2回】

October 28, 2013

10月23日に新商品5種が発売となったブルックラディ。プロダクション・ディレクター ジム・マッキュワン氏の独占ロングインタビューを2回に分けてお届けする。

まだ暑さの残る9月上旬、日本を訪れたジム・マッキュワン氏にインタビューする機会をいただいた。始めからいきなり「女性がウイスキーマガジンの記者をしているとは、いったいどういう経緯で?私が先にインタビューさせてもらおう、さあ、話して!」とマッキュワン節が炸裂する。ひとしきり雑談で和ませた後、氏はじっくりと語り始めた。以下、ブルックラディが歩んだ12年の軌跡を、マッキュワン氏の言葉で綴ろう。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

ブルックラディ蒸溜所は1994年に閉鎖されていましたが、2000年に操業を再開する際、プロジェクトチームが私に声をかけてくれました。ぜひ参加してくれと。当時私は38年務めたボウモア蒸溜所の一員でした。ブランドアンバサダーとして世界中を飛び回り、そのため空港に近いグラスゴーに住んでいたのですが、故郷であるアイラ島に戻り、ウイスキーづくりに再び携われることは最高のオファーでした。一も二もなく引き受けましたよ。

しかし2001年1月にこの蒸溜所に足を踏み入れたとき、あまりの惨憺たる光景に言葉を失いました。壁は崩れ、蒸溜機器は傷み、まるで再開の望みなどないような状況でした。でも私はアイラ人ですから、ブルックラディが素晴らしいことを知っていました。ここはきっと大丈夫だと信じるに足る、過去の栄光がありました。
そこでまず、閉鎖された際に解雇された元のスタッフたちに声をかけました。幸い、彼らは喜んで蒸溜所に戻ってきてくれたのです。感激しましたよ!我々は蒸溜所を復活させようという目的のもとに、家族のように力を合わせました。ブルックラディはもともととてもエレガントで美しいウイスキーだったので「絶対にこのシンデレラを舞踏会に連れて行くんだ」と誓い合いました。
蒸溜機材は、1881年にこの蒸溜所ができたときからあるものを、そのまま使っています。これは本当に素晴らしい!120年前に戻れるタイムマシンを手にしたようなものですからね。その当時の100%ピュアなウイスキーをつくれるのです。奇跡としか言いようがありません。

再開にあたってはまず修繕作業から始まり、やっと2001年10月に、蒸溜を始めることができました。蒸溜所は、確かに蘇ったのです。あのときの感動は忘れられませんね。その時から、なるべく「自然な」ウイスキーをつくろうと考えていました。全てをアイラ島で行いたいとも思いました。蒸溜も、熟成も、ボトリングも、全て。アイラで育て上げ、チルフィルターも着色料添加もせず、市場に出回るウイスキーの中で最高のものをつくろう…それが最初の目標でした。

当初、ボトリングをアイラ島内で行うのは無理だと人々は言いました。しかし、私はウイスキーをいったん本島に送るのではなく、アイラで行いたかった。アイラウイスキーなのですからね。それに、もう一つの理由があります。若者の雇用を促進したかったのです。

そしてボトリング設備を備え、ウイスキーの出来も上々で、順調に進んでいきました。そこで私は次の「アイラ産の大麦を使う」という目標に向かいました。島の農家へ、大麦を作ってくれと依頼して回ったのです。その当時島内で作られていた大麦はウイスキーには使われていませんでした。
最初に大麦の栽培を依頼した農家は2軒だけでしたが、それが非常にうまくいき、その様子を見ていた他の農家も私たちの考えに賛同してくれました。今では12軒の農家が私たちのために大麦を供給してくれています
大麦の種類は農家によって様々です。風が強い畑ではしっかりと根を張るこの種類の麦、土壌が豊かな土地ではこの種類、と農家と相談しながら選んでいます。とてもいい関係を築けていますよ。こうして年間1000トンのアイラ産の大麦が、ブルックラディのウイスキーになっています。

それから、熟成も重要です。熟成は、他の蒸溜所ではほぼ本島で行っています。しかしそれではアイラとは異なる環境で、本当のアイラウイスキーとは言えないと私たちは考えました。アイラの空気を含み、島の大地の上で眠る…それがアイラウイスキーのあるべき姿です。ブルックラディではそれが実現できています。

これがブルックラディのこだわりで、今回新発売の3つの商品のうちの2つ…スコティッシュバーレイアイラバーレイはその方針のもとにつくられました。ブラックアートは閉鎖前の原酒を使った長期熟成品。このレシピは私しか知りません…気になるでしょう?飲んでみてください!

また、かつてロッホインダール海岸に面したポートシャーロット村には、ロッホインダール蒸溜所がありました。この蒸溜所のピーテッドウイスキーへのオマージュとしてできたの「ポートシャーロット」です。40ppmのピーテッドモルトを使い、50%でボトリングしています。ウイスキーがまだ若いから、度数も高いですね。もちろんチルフィルターもしていないので複雑な風味は本来のままです。バーボンカスクで熟成し、非常に美しいウイスキーに仕上がりました。ピート、潮、樽の香りが感じられ、ゆっくりと蒸溜したふくよかさがあります。上品で洗練された味わいです。

さらに、「ブルックラディではそこまでヘビーピーテッドなモルトはつくれない」と言われていました。そこで私たちは「じゃあ、やってやろうじゃないか」と思い、製麦業者に依頼して、極々弱火でピートをゆっくりと長く焚かせました。低い温度で焚くと、麦の芯まで煙を吸い込むのです。そして驚異的にヘビーなモルトができました。それがオクトモア…非常に力強い、アイラのパワーを十分に備えながらも、繊細で特別なウイスキーになりました。ウサイン・ボルトみたいなウイスキーですよ。単なる短距離走者ではありません。世界で一番速い男です。この世に何人の男がいるでしょう?その中で、世界一足が速い。これはそんなウイスキー、他にはない究極のアイラの魅力を持つモルトです。

私たちはこのように3つのスタイルをつくりました。コンピューターもなければ、科学者もマーケティングエキスパートもいません。古い機材を使って、コツコツと、純粋に良いウイスキーをつくり続けてきました。夢を実現させるために。

【後半へ続く】

関連記事はこちら
ブルックラディ新商品発表会 “Laddie To Go!”
Lost Distilleries―アイラ島
大麦の需要と供給【前半/全2回】

カテゴリ: Archive, features, TOP, , 最新記事