ブレンディングの科学【その4・全4回】

May 28, 2014

ブレンディングについての詳細な検証を行う連載、最終回の今回は「マスターブレンダーとは」を問う。

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「どうやってマスターブレンダーになるのか?」− 私はそれもぜひ知りたかった。何か手がかりが得られるかもしれないと思って、その点もジョニー・ウォーカーのマスターブレンダー、ジム・ベバリッジ博士とその「弟子」のマシュー・クロウ博士に伺った。

彼らが最初に強調したのは、ブレンディングの物語の中でみなさんの目に見えている部分は、物語全体のごく小さな部分に過ぎないということだった。ベバリッジ博士クロウ博士の背後では、一般にはそれほど知られていないが、同じくらい重要な多くの同僚が「ウイスキー専門家チーム(Whisky Specialists Team)」として働いている。彼らが熱心に強調したところによると、2人はブレンダーの伝統的な無名性を振り捨てたかもしれないが、だからと言って同僚たちの貢献が少なくなるわけではない。

以前なら、良い鼻とストックのバランスを取る能力があれば、十分にこの役割を果たせたのだろうが、今では正式な科学的訓練がますます重要になっている。
クロウ博士はストラスクライド大学で物理化学の博士号を取得し、2007年の秋にスコットランド中央部のメンストリーにあるディアジオの研究室に加わった。そして感覚分析に関する傑出した仕事を認められ、外交的な性格も加わって、次第に多くの公開イベントを依頼されるようになった

「科学者は普通、目立たないものです」と彼は私に語った。「このような仕事は私の経歴からするとかけ離れたもののように思われがちです。しかし初めに科学と技能があってこそ、情報の伝達に価値があると思っています」

だからマスターブレンダーは、ある程度メディアが作り上げたものであり、多くの人々の仕事や技能を明確な形で表現する人なのだ 。実際、まずその代表作となるブレンドウイスキーがなくては成り立たない

ベバリッジ博士クロウ博士は広く知られているため、表舞台に立たないブレンダーの立場とは大きくかけ離れている。しかし、2人も認めているように、やはりブレンディングに「個性」は介入しない重要なのは連続性だ。ブレンダーの仕事は前任者たちの知恵と技術をウイスキーに効果的に表現することである。同時に、これまでに培った芸術性と伝統を具現し、それをを刷新・再活性化しつつも一貫して過去に忠実なままで伝えてゆくことでもある。

ブレンディングは誤解されがちであり、複雑でもある。まだ完全には理解されていないかもしれないが、スコッチを有名にしたきっかけであることは今も変わらない。そしてこれからもスコッチの安定した供給のため、そして世界中の新しい愛好家を喜ばせるために不可欠の存在だ。
もちろん、これはスコッチウイスキーに限ったことではない。世界中で素晴らしいブレンデッドウイスキーが次々と登場し、スコットランドのブレンダーを驚かせている。そしてまた新たな挑戦が始まるのだ。芸術と科学を両立させるウイスキー・ブレンディング…興味は尽きることはない。今ではシングルモルト一本やりの方も、改めてブレンデッドウイスキーを味わってほしい…そこにはブレンダーたちの技と知識が集約されている。

コラム:古き良きブレンデッドウイスキー

古典的なウイスキーカクテルに対する関心が復活し、年代物のウイスキーがオークションで人気を集め、棚の奥で忘れ去られていたブレンデッドウイスキーの価格が急上昇している …もちろん長い期間良い状態で保管され、未開封であることが条件だが。

究極の例はおそらく1909年に探検家アーネスト・ヘンリー・シャクルトンが南極に残してきた「マッキンレー ウイスキー」を、ホワイト&マッカイのリチャード・パターソンが甦らせ、再現したことだろう。

それから、1920年代中頃にさかのぼることが確かなハンキー・バニスターのボトルが発見され、この尊敬すべきブレンデッドウイスキーブランドの所有者であるインバーハウスのマスターブレンダー、スチュアート・ハーベイも、その再現という難題に挑んだ。「ハンキー・バニスター 40年」で2008年にWWAワールド・ベスト・ブレンデッドウイスキーを 獲得した後とあって、ハードルは高かった。

この1920年代のボトルは、テイスティングされた結果、現代のブレンドより若干甘く、ピーティであることが判明した。このスタイルを再現するため、現在の「ハンキー・バニスター ブレンド」を ベースとして使い、より熟成の長いピーティなモルトを加えて風味を仕上げた。さらに、このビンテージスタイルのウイスキーをオリジナルボトルのレプリカに詰めて、外観を完成させた。「ハンキー・バニスター ヘリテイジ・ブレンド 限定版」は現在£28程で販売されている。

本物のオールドボトルが少なくなり始めるにつれて、このような過去のブレンドの探求が増えることだろう。それはウイスキーの歴史への挑戦だ。

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