The Proud Whisky ―富士御殿場蒸溜所【後半/全2回】
蒸溜所の様子をお伝えした前半に続き、後半ではテイスティングを通じて御殿場蒸溜所のグレーンウイスキーの真価に迫る。
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見学を終えた後はテイスティングへと移る。こちらもチーフブレンダー 田中 城太さんにご説明いただいた。
まずは比較用の原酒4種。
モルト2種とグレーン2種…モルトは同じ96年11月に蒸留された(恐らく同じバッチの)原酒であるが、サンプル①はアルコール度数51.6%、②は同50.1%。採取日は異なるが、樽詰めの際は同じアルコール度数50.5%なので、①は熟成庫のラックの上部、②は下部にあったと推測される。
①はフルーティでナッツや蜂蜜、②にはパイナップルやメープルシロップ、瑞々しい花の香りがあり、熟成された位置と樽の個性でこれほど違いが出るのかと驚く。
「やはりホグスヘッドやシェリー樽と違ってバーボン樽は小さいので、その分熟成環境(及び樽)の影響を受けやすいですね」と田中さん。
そしてグレーンの2種は28年熟成アルコール度数44.9%の③、26年熟成同57.8%の④だ。ここまで熟成の長いシングルカスクグレーンは珍しい。じっくりと熟成した色合いだ。
③はサワーチェリー、ドライフルーツ、オレンジ、革が感じられ、④では桃、黒蜜、くっきりとしたウッドの輪郭。どちらもふっくらとした香りの奥行きがあり、熟成を経て枯れた印象ではなく、秘められたパワーを感じる。
グレーンウイスキーでありながら、
その後はキリンオンラインショップ「DRINX」で販売されている4アイテムのテイスティングへ。こちらは先日ご紹介した「ブレンド体験イベント」を主催した、御殿場蒸溜所の限定商品などを販売しているショップだ。
まず「The FujiGotemba シングルグレーン40th Anniversary」。蒸溜所操業40周年(昨年)を記念してつくられたノンエイジのシングルグレーンだ。
「御殿場蒸溜所らしさを生かし、様々な原酒…熟成の若いものから長いもの、ライトタイプからヘビータイプまでいろいろな原酒を使用しています。40年間の御殿場蒸溜所の想いが詰め込まれています」と田中さんに説明していただいた通り、非常に穏やかながら深い味わいを感じる。
軽やかでフルーティ、レンゲやマーガレットを思わせる可憐な花の香り。初めてシングルグレーンを手に取る方にも、その面白さが伝わる個性的なボトルだ。
次は「The FujiGotemba シングルグレーン25年」、WWA2014でベストジャパニーズグレーンに選ばれた一品だ。
こちらはぐっと熟成感が強まり、完熟したバナナやパイナップル、洋ナシなどのフルーツが次々と現れる。アンティーク家具のようなウッディさ、濃厚すぎないメープルシロップがボディを形作る。まるい甘さが長く続くフィニッシュ。
そして販売価格10万円という究極のシングルカスクグレーン、「The FujiGotemba シングルグレーン27年 シングルカスク」。アルコール度数は62%、カスクストレングスだ。
こちらは樽の影響がヘーゼルナッツや紅茶を思わせ、トフィーやキャラメルのような甘さ、メロン、焼きリンゴが複雑に絡み合う。しかしかすかなスパイスやドライさがアクセントとなって、決してヘビーではない。
27年もの歳月、ひとつの樽の中で息づいていたスピリッツが大きく花開く…この厳選されたシングルカスクに込められている、つくり手の方々の想いや誇りと同時に。
このグレーンに共通する豊かなアロマは、蒸留液のクリーンさが生み出しているという。連続蒸留器で磨き抜いたピュアなアルコールの中にこれほどの香りの要素があり、二十数年の熟成を経て完成した…グレーンウイスキーとは、なんと奥深いのだろう。
グレーンといえば、ラウド(声高な)ウイスキーであるモルトと比較して「サイレントウイスキー」と評されることが多い。しかしこの富士御殿場蒸溜所のグレーンは、もちろん声を大にこそしないが、はっきりとした自己主張と魅力的なキャラクターを備えている。
「ブレンデッドウイスキーの年数表示が長ければ長いものほど、モルトの比率が高いんです。それは優れたモルトが多いというだけではなく、それだけの長期熟成に耐えうるグレーンが少ないということです」と田中さん。
30年モノのブレンデッドウイスキーをつくる際には、当然30年以上熟成したグレーンが必要だ。モルトのまとめ役となるグレーンが枯れていてはお話にならない…それほどのポテンシャルを保ったグレーンは非常に希少なのである。
ところが、この御殿場では、シングルカスクとして世に出せるほどのものがある…これこそもっと「声高に」世界に知らしめても良いのではないだろうか? ラウドでもサイレントでもない、富士山の如く誇り高い「プラウドウイスキー」として。
最後に、個性的なモルトウイスキー「富士御殿場蒸溜所20周年ピュアモルト」を。
1993年に誕生した、蒸溜所操業20周年記念のピュアモルトである。構成原酒には、通常の御殿場のシングルモルトだけでなく、連続式蒸溜器でつくられたモルトウイスキーを含む、世界的にも珍しいピュアモルトとのこと(しかし、もともとこれほど多様なシステムを持つ蒸溜所自体が世界的には稀なのである)。
かるいピート香がまず現れて、それからパイナップルやリンゴ飴のフルーティさ。シルキーでスムース。グレーンのテイスティングが続いたあとからだろうか、はっきりと麦の甘みと香ばしさも感じられる。もっと探ろうとするとふわりと柔らかく終わる、悩ましく後を引くウイスキーだ。
「私たちは創業当時からグレーンをつくってきました。スコッチだけでなくアメリカンやカナディアンの要素も取り入れたウイスキーづくり、それはどこにも負けないという自信があります。ただ、シングルモルトではまだ遅れを感じているのも事実です。しかし10年先に世界に出せるモルトをと、先を見据えたウイスキーづくりを行っています。ぜひ皆さんにこのバラエティに富んだ富士御殿場蒸溜所のウイスキーを楽しんでいただきたいですね」と田中さんは語る。
世界でも例を見ない蒸留設備を持ち、唯一無二の進化を続ける富士御殿場蒸溜所。個性的なグレーンとモルト、そのどちらをも生かすブレンデッドウイスキー。スタンダードアイテムの「富士山麓」だけでなく、「DRINX」のみで出会える特別なボトルもぜひお試しいただきたい。必ずその価値がお分かりいただけるだろう。