開発担当ブレンダーに聞く 新生「シングルモルト宮城峡」の魅力

September 14, 2015


ニッカの新しい「シングルモルト宮城峡」が、発売と同時に大きな反響を呼んでいる。蒸溜所のポテンシャルを総動員し、史上もっとも宮城峡らしいフレーバーを完成させた設計者が綿貫政志主席ブレンダーだ。開発の裏話から、ニッカの戦略が見えてくる。(前半/全2回)

文:
WMJ

インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ2015で、世界最高の栄誉であるディスティラー・オブ・ザ・イヤーを受賞したニッカウヰスキー。その司令塔ともいうべきブレンダー室は、ニッカ柏工場の一角にある。緑豊かな敷地内では野鳥たちのさえずりが聞こえ、都会の間近にいることを忘れさせてくれる環境だ。
 

緑に囲まれたニッカ柏工場のブレンダー室。静謐な空間で官能評価は黙々と続けられている。

9月1日発売の新製品「シングルモルト宮城峡」を手がけた主席ブレンダー、綿貫政志(わたぬき・まさし)氏もここにいる。これまでに「ブラックニッカ リッチブレンド」、「カフェモルト」、「THE NIKKA 12年」、「ハイニッカ」や「ブラックニッカ」の復刻版シリーズなどの開発を担当し、このたびニッカの看板シングルモルトのひとつを世に送り出したばかりである。
 
「新商品については、安定した品質が維持できていることをしっかりと見届けるためにも、開発者として発売後1年程度は処方(レシピ)の管理も重要な任務となります。その後も基本的には開発者が主になってブランドの品質維持を担っていきますが、処方自体はブレンダー室の全員で共有し、品質を監視していくので、私が余市の処方を組むこともあれば、余市を開発した別のブレンダーが宮城峡の処方を組むこともあります」
 
ブレンダーの仕事は、官能評価が基本である。つまりは、自分の感覚と経験だけが頼りだ。ニッカのブレンダーは、毎年6月頃になると各蒸溜所から代表的な原酒のロット1,500~1,600樽分を約1カ月にわたって官能評価する。すべてのウイスキーは、これらの原酒をブレンドすることによってつくられている。
 
ブレンダー室のテーブルには、目盛り付きの細長いビーカーとスポイトがある。ここでおこなった繊細なシミュレーションが蒸溜所でスケールアップされ、均質な味わいのウイスキーとして瓶詰めされるのだ。それぞれの原酒には量に限りがあるので、ときどき調合を変えながらも、香味だけは一貫性を保たなければならない。そのためのノウハウ共有も、頼りになるのは官能と言葉だけなのだと綿貫氏はいう。
 
「処方の比率などの数字だけ共有しても、実際には何もわかりません。みんなでウイスキーの香りを確かめて、ブレンダー各人が官能評価のコメントを書いて共有します。最初は書き手によって表現がまちまちでも、共有しているうちにバラバラだったコメントがぴたりと合ってくるもの。お互いのボキャブラリーを意識しながら、先代のブレンダーが用いた表現も継承しています」
 

最終的な特徴に向かって香味を組み上げる



1969年に操業を開始した宮城峡蒸溜所は、先行の余市蒸溜所とはあらゆる面で対照的なウイスキーを生み出すべく設計された。これは原酒のバラエティーを増やし、よりニュートラルなブレンデッドウイスキーをつくるという竹鶴政孝の信念に基づくものでもあった。
 
余市と宮城峡のウイスキーの違いは、ポットスチルの構造からも説明できる。もろみの香りをそのままダイレクトに取り出すのが余市のスチルなら、宮城峡のスチルはゆっくりと風味を磨き上げ、軽くてまろやかな味わいを生み出す。石炭で直火加熱の余市に対して、宮城峡はスチームによる加熱のためマイルドだ。
 

「宮城峡らしさ」を詳細に定義し、香味を積み上げていく綿貫政志ブレンダー。原酒のバリエーションは100種類以上に及ぶという。

「ボディ感などに寄与する香味を多く含む、力強い原酒を作るのに適したのが余市のストレート型スチル。一方、宮城峡のバルジ型スチルはくびれ部分で蒸気が液化して再びスチルの底に降りてくる『還流』が起こります。上向きのラインアームでも同様の現象が起こり、このように局地的な還流を繰り返すことで、結果的に重い成分が取り除かれた軽快できれいな酒質になるのです」
 
スチルの条件に加え、80年代には自社で開発した酵母からより華やかな香りを手に入れた。余市の力強さやピート香に対し、宮城峡はフルーティーで、軽快で、華やかな個性を重視した原酒づくりにこだわっている。1989年以降は、その特徴を集約したシングルモルトで世界にその名を知られるようになった。
 
「ウイスキーは、商品ごとにゴールが決められています。その特徴に必要な酒質を定義して、原料酒を用意します。宮城峡なら『フルーティーな原酒』や『シェリー香が強い原酒』などを基本に置きながら、蒸溜所のアイデンティティとも呼べる典型的な香味に照準を合わせます。宮城峡には少なくとも100種類以上の原酒が使用されていますが、単純な足し算ではありません。処方を変更しても、香味だけは変わらないようにアイデンティティを維持しています」

 
(つづく)

ニッカは、なぜシングルモルトの熟成年数表示をやめたのか? 後半ではその真実に迫ります。

2015年9月1日に発売された「シングルモルト余市」と「シングルモルト宮城峡」の詳しい商品情報はこちら<>から。

 

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