アイルランド西岸、ワイルド・アトランティック・ウェイを行く【後半/全2回】
大な断崖絶壁に驚きながら、最果ての地を目指す。アイルランドの魅力が満喫できるワイルド・アトランティック・ウェイの旅では、さまざまなフェスティバルやウイスキーとの出会いも待っている。
文:ショーニーン・サリヴァン
ワイルド・アトランティック・ウェイは、ゆったりとした長旅にも、ちょっとした短い観光にも向いている。ゴールウェイからカネマラに足を伸ばしたり、有名な観光ルート「リング・オブ・ケリー」を周遊する数日間の旅もいい。うねるような海岸線を半年かけて踏破するのも旅人の憧れだ。
いずれにしても、旅の始発点はミゼン岬の橋がいい。岩の上から荒れ狂う海を見下ろし、橋の向こうの古い信号場には、かつての管理人の日常生活が垣間見られる展示がある。
夏の間、ディングルの町は混雑している。それでもアイリッシュウイスキー協会の支部があるパブ「ディックマックス」に足を運ぶ価値はあるだろう。ここには現代のアイリッシュウイスキーはもちろん、珍しいヴィンテージボトルも豊富に揃っている。
北に向かって曲がりくねる道の途中で、ユネスコ世界遺産にも登録されたスケリッグ・マイケルを眺めるために一休みしよう。急峻な岩山の孤島には修道院があり、希少な海鳥たちの楽園にもなっている。そこからさらに海岸にそって北を目指せばモハーの断崖だ。大西洋を見下ろす断崖絶壁が8kmも続く圧巻の光景である。
ドラマチックな美観の断崖は、数々の映画の舞台にもなっている。1987年の『プリンセス・ブライド・ストーリー』では、モハーの断崖が「乱心の岩」のロケ地になった。また2009年の『ハリー・ポッターと謎のプリンス』では、嵐の中の薄暗い西海岸が映画を盛り上げた。そして最新のスター・ウォーズ・シリーズ『フォースの覚醒』では、スケリッグ・マイケルが銀河のはるか彼方にある惑星のモチーフとなっている。ゴールウェイより北の道沿いには、目を見張るような海岸、歴史的な建造物、美味しい食材など、寄り道にぴったりの魅力的なスポットがたくさんある。アラン諸島も一見の価値がある場所だ。アイルランドの言語や音楽に触れながら、夏には素晴らしいウォーキングやサイクリングが楽しめる。
イェイツへの挨拶を済ませ、一路マリンヘッドへ
スライゴ州に入ると、見間違いようのないパンのような形をしたベンバルベンの岩山が海岸線上に現れてくる。このあたりの地域は国民的詩人ウィリアム・バトラー・イェイツにゆかりの深い「イェイツの国」として知られる。フランスで亡くなった後、イェイツの遺骨は故郷に帰ってドラムクリフの教会墓地に埋められた。だが実は、ここに埋められたのがイェイツではなく別人のフランス人兵士だという説もある。墓碑銘には、イェイツの筆跡でこう刻まれている。
生と死を冷ややかに見よ。
馬上の者はただ通り過ぎよ。
スライゴはウォータースポーツファンに人気の場所である。大西洋の大波はプロアマ問わずサーファーの憧れの的で、周辺にはたくさんのサーフスクールが開催されている。波間で1~2時間も遊んでいるうちに、ひどい二日酔いも消え去っているだろう。そんな荒療治を試すパワーがなくとも、手摘みの海藻を入れた風呂に浸かれば前日のウイスキーは抜けていく。どうやら海藻のヨードに二日酔いをさましてくれる回復効果があるらしい。
州境をまたいでドニゴール州に入ったら、マンモア峡谷の美しさを満喫するために小休止し、駐車場からグレンヴィンの滝まで15分のトレッキングを体験しよう。雨が降ったときの迫力は満点だ。ラフ・スウィリーまで連なる岩がちな峡谷は「アメイジング・グレース・カントリー」とも呼ばれ、あの名曲「アメイジング・グレース」の題材となったと伝えられる土地である。さらに先へ足を伸ばし、国境の町ブリジェンドにあるレストラン「ハリーズ」でくつろごう。店主のドナル・ドハーティは、サスティナビリティーを体現するために大企業の商品を取り扱わず、毎日漁師から直接魚介を仕入れ、近所にあるヴィクトリア時代からの庭を再活性化して料理用の野菜を育ててきた。このようにして地元のモダンなアイリッシュビストロを再定義した店がハリーズなのである。ミゼンヘッドからマリンヘッドへ至る道のゴールにもほど近く、この店を旅の目的にしてもいいくらい価値のある名店だ。
ついに到着したマリンヘッド。温帯低気圧デズモンドが残した雲が空を覆っていたため、ドニゴールではよく見られるというオーロラを観測することはできなかった。その代わり、今は廃墟となった見張り塔「バンバの王冠」の上でポケットボトルのウイスキーを片手に旅を締めくくる。海を渡る風の音が響き渡っていた。アイルランドの西海岸は、まさにワイルドな自然美に溢れた場所である。
ワイルド・アトランティック・ウェイへのアクセス
ワイルド・アトランティック・ウェイの起点となるコーク空港には、エアリンガス、ライアンエアー、シティジェットが就航している。コーク空港からは複数業者でレンタカーの手配が可能だ。
ゴールウェイ近郊から旅を始めるなら、ヨーロッパ各地からノック空港までライアンエアーとエアリンガスが就航している。シャノン空港に就航しているのはエアリンガス、デルタ、アメリカン、ユナイテッド、ライアンエアーの各社である。
北から南へ向かって旅を始めるなら、マリンヘッドはベルファスト国際空港から車で2時間。デリー空港まではライアンエアーがリバプール便、ファーロ便、アリカンテ便、ロンドン便、グラスゴーを季節運行している。
ワイルド・アトランティック・ウェイの旅には、レンタカーが不可欠だ。有名なのはドゥーリー(http://www.dan-dooley.ie)とハーツ(http://www.hertz.ie)である。
マリンヘッドからミゼンヘッドは、1日5~6時間の移動時間を想定しても最低4泊は必要だ。1日に複数の場所に立ち寄る場合は、さらに日数がかかるので余裕を持って旅程を考えよう。
アイルランド西岸のフェスティバル ワイルド・アトランティック・ウェイ沿いでは、数えきれないほどのフェスティバルが開催されるが、いくつか代表的なものをご紹介しよう。 テッド・フェス ゴールウェイ・オイスター・フェスティバル パック・フェア リスドゥーンバーナ |