ウイスキー業界の原動力、北ハイランドの蒸溜所【後半/全2回】

May 13, 2016

ハイランドを徐々に北上するウイスキーの旅。ほとんど観光化されていないスコットランドの風景に出会いながら、ファン憧れの蒸溜所が次々と現れる。

文:ガヴィン・スミス

 

前回紹介したティーニニック蒸溜所は、蒸溜所の名もシングルモルトの存在もさほど広くは知られていない。だが同じアルネスにあるもうひとつの蒸溜所は、世界的にも有名だ。

ダルモアの創立はティーニニックよりも数十年遅い1839年だが、シングルモルトの有名ブランドとして長く名声を誇ってきた。最近は「コンステレーション・コレクション」などでザ・マッカランに匹敵するコレクターズアイテムとしても注目を浴びるようになっている。コアな製品も売上を伸ばし、2014年には100万本のセールスを記録した。

ダルモア訪問には贅沢なビジター施設が用意されている。見逃せないのは、オークがウイスキーに与える重要性が理解できるプログラム。蒸溜行程から異なった段階のスピリッツを取り出してノージングするという貴重な体験をするのもいいだろう。ウォッシュスチル(初溜釜)からの最初の1滴とフェイントを比較し、蒸溜による変化の多様性も理解できる。8基のスチルを擁する2棟のスチルハウスはダルモア訪問のハイライト。銅製のウォータージャケットを纏った、珍しい1874年製の第2号スピリットスチル(再溜釜)は特に見ものだ。

ダルモア訪問のついでに、かつてのインバーゴードン海軍基地へも足を延ばして、ハイランド唯一のグレーン蒸溜所(IV18 0HP)を一目見てみるのもいいだろう。一見ただの工場のようであるが、馬車馬のように稼働するグレーン蒸溜所の本質が垣間見られる場所である。ダルモアのような観光目的に沿ったシングルモルト蒸溜所の魅力はない。インバーゴードンに、花籠のような飾りは不要なのである。

古きよきハイランドの伝統を残すバルブレア蒸溜所の内部には、スタイリッシュなビジターセンターもある。タイトル写真はクライヌリッシュ蒸溜所。

再びA9に戻って北を目指すと、道の右側にグレンモーレンジィ蒸溜所が現れてくる。背景にはドーノック湾がある美しい立地。グレンモーレンジィにはスコットランドでもっとも背の高いポットスチルがあり、シングルモルトは国内売上ナンバーワンを誇っている。蒸溜所の創立は1843年で、スピリッツの生産量は年間600万L。これまでも段階的に生産力を拡大し、現在6組のスチルを擁する見事なスチルハウスが自慢だ。ずらりと並んだスチルの壮観は、どんな蒸溜所のツアーにもひけをとらないだろう。

グレンモーレンジィからA836を通って7kmほど西へ走ると、インバーハウス・ディスティラーズ が保有するバルブレアがある。バルブレアの歴史は北ハイランドにある他のどんな蒸溜所よりも長く、その設立は1790年にまで遡る。近隣にある後発の蒸溜所に比べると生産規模はやや小さく、保有するスチルも1組のみである。

バルブレアは60~70年代の増築や改築を免れたおかげもあって、少なくとも外見上は古きよきハイランドの蒸溜所の典型といった趣である。建物の中にはスタイリッシュなビジターセンターがあり、そのときに開いているカスクから自分の手で直接ボトリングが体験できる。スタンダードなバルブレアは2007年以来ヴィンテージ制を採用しており、最新のリリースは2005年のヴィンテージである。

 

いよいよブリテン島の最北部へ

 

再びA9の路上に戻って、北へと向かう。ブローラの北西のはずれで、地平線に見えてくる次の蒸溜所はクライヌリッシュだ。クライヌリッシュはディアジオ傘下の蒸溜所であり、ロイヤルブラックラ、グレンオード、ティーニニックと同様にガラス張りのスチルハウスが目印だ。これは60〜70年代にディスティラーズカンパニー社が好んだスタイルなのである。

現在のクライヌリッシュ蒸溜所は1967年に設立された施設を使用しているが、近隣にあった元祖クライヌリッシュの歴史は1819年にまで遡る。この旧蒸溜所はブローラと名前を変え、1983年以来生産を中止していた。だがその設備が無傷のまま残されていたことから、熱心なファンの間でブローラがカルト的な人気を誇るようになった。

新しいクライヌリッシュ蒸溜所は、一連のジョニーウォーカー製品の主要な原酒として重用されながら、同時にシングルモルトの販路も拡大してきた。クライヌリッシュには第一級のディアジオ流ビジター体験が待っており、蒸溜所限定の「クライヌリッシュ アメリカンオーク カスクストレングス」を購入するチャンスもある。

ハイランドで一番背の高いスチルがあるグレンモーレンジィ蒸溜所。ここからあのフルーティーなフレーバーが生まれている。

さあ次は、かつてのスコットランド本土最北端の蒸溜所を訪ねよう。昔はニシン漁で栄えた漁師町ウィックも、いまではやけに都会的な雰囲気に様変わりしている。プルトニーがあるのは、そんなウィックの裏通り。ビジターセンターでは船舶が主な交通手段だった頃のウィックの伝統について学べ、カスクから自分でボトリングするオプションもある。

プルトニー蒸溜所の設立は1826年。オーナーであるインバーハウス・ディスティラーズが「海のモルト」というイメージを打ち出して商品レンジを拡大したことから、シングルモルト「オールドプルトニー」は近年になってさらに知名度を増している。プルトニー蒸溜所の見どころは、ユニークなウォッシュスチルだ。瓢箪のように大きな「ボイルボール」があり、建物に収めるため切断してしまったというT字型のネックが珍しい。

このプルトニーから「本土最北端」の称号を奪った蒸溜所が、ウルフバーン蒸溜所だ。サーソー郊外のビジネスパークでモダンなビルの一画を借り、とりたてて大きな標識もなく操業している。2013年の生産開始以来、ひっそりと雑音を封じながらウイスキーをつくり続けているため、ウルフバーンにはまだビジター用の施設がない。だがその沈黙も長くは続かないだろう。最初のシングルモルトが今春発売され、北ハイランドのシングルモルト史に新しい1ページが刻まれることになるはずだ。

 

 

 

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