スコットランドの蒸溜所新設ブーム【後半/全2回】

August 8, 2016

スコットランドでは蒸溜所の新設や増設が続いている。夢と野心を抱いた人々の計画を、ガヴィン・スミスがレポート。

文:ガヴィン・スミス

 

アイラ島では、アイラでもっとも新しい、第9の蒸溜所を誰が建設するのかというレースが展開されている。フランスはブルターニュにあるグランアーモー蒸溜所のオーナーであるジャン・ドネ氏に、建設計画の許可が下りたところだ。 ボウモアの南西、ロッホインダール海岸沿いのガートブレックにある農家の建物を蒸溜所にしようという計画が2014年初頭に明らかにされたが、その後はプロジェクトに度重なる遅延が発生している。

ドネ氏は必要となる資金をすぐに全額用意できるよう願っており、プロジェクトの完遂を断言している。

「ガートブレックは実現します。計画はすべて整っており、これからプロセスの根幹に立ち戻ります。ガスによる直火蒸溜と蛇管式のコンデンサーを備え、モルティングフロアをつくって使用するモルトの20%を自家製でまかない、モルトの原料はアイラエステート社が生産する大麦を使用します」

だがこのドネ氏を土壇場で追い抜いて、アイラ第9の蒸溜所を建設するかもしれないライバルがいる。独立系ボトラーにしてブレンディングも行っているハンターレイン社が、アイラ島の北東海岸にあるポートアスケイグにもほど近いアードナホーで、新しい蒸溜所の建設に約800万英ポンドを投じるという。

計画の承認を待って、この夏にも蒸溜所建設は始まる予定だ。建設計画の第1段階は蒸溜棟、第1貯蔵庫、ビジター用施設で、2017年末までにはスピリッツの蒸溜を始める。第2段階では貯蔵庫を拡張しながら生産拡大を目指すという。同社の社長であるスチュアート・レイン氏は語る。

「私たちが世界65カ国のアイラファンにウイスキーを販売してきた経験をもとに、ある特定のスタイルのスピリッツが生産できるよう新しい蒸溜設備を設計しているところです。この蒸溜所が建設されたら、私たちの長年の夢が叶います」

新しい蒸溜所が生まれそうな島はまだある。それはアラン島だ。アラン蒸溜所(アイル・オブ・アラン・ディスティラーズ)は、アラン島で第2の蒸溜所の建設計画を申請したところだ。予定地は島の南岸にあるラッグで、1837年まで公式な蒸溜がおこなわれていた場所である。蒸溜所にはビジターセンターと貯蔵庫のためのスペースも確保し、ここで同社のピーテッドモルトのすべてを生産するという。

 

伝説の地でウイスキーづくりが復活

 

さて話をグレートブリテン島本土に戻そう。フォルカーク・ディスティリング・カンパニーは、1993年に閉鎖されたローズバンク蒸溜所の跡地で、蒸溜施設の再興計画を着々と進行中だ。長期間にわたる500万英ポンドのプロジェクトを率い、ファイフ州リンドレスでのウイスキーづくりを復活させようとしているのはドリュー・マッケンジー・スミス氏である。蒸溜所とビジターセンターの建設予定地は、ウイスキーの歴史で重要な意味を持つ修道院のそば。1494年のスコットランド財務資料によると、この修道院でスコットランドで最初の「ウシュクベーハ」(ウイスキーの元祖)が蒸溜されたことになっている。

リンドレスほどの年月ではないにしろ、長期間の空白を経て再びウイスキーづくりを再興しようとしている場所は他にもある。それがハイランドの町、ディンウォールだ。 ベンウィヴィス蒸溜所が閉鎖されたのは1926年だが、今ではグレンウィヴィス蒸溜所共済組合が150万英ポンドの資金を集めて、ここに新しいウイスキーづくりの拠点を作ろうとしている。

同社の計画では、コミュニティ・シェアーズ・スコットランド(CSS)と協働して、郵便番号にIV(インヴァネス)がつく地域の住民が250英ポンドからこの計画に投資できるよう機会を提供している。グレンウィヴィス計画の主導者は、ヘリコプターパイロットで農家のジョン・F・マッケンジー氏だ。

「プロジェクト始動時から、単なる蒸溜所建設以上のものを想定した計画でした。すべての社会的投資家を対象にして、歴史あるデングウォールの町を再活性化するチャンスを提供しています。ウイスキーの伝統の地に建設されるグレンウィヴィスは、地域のコミュニティに所有され、環境保全の要件もしっかり満たしています」

ディングウォールから北東に50kmほどのドーノックでも、新しい蒸溜所の設立が計画されている。地元ホテル経営者のフィル・トンプソン氏とサイモン・トンプソン氏が率いるドーノック・ディスティリング・カンパニーが、クラウドファンディングのキャンペーンを開始した。これは築135年の消防署を蒸溜所に改装するために資金を募るものである。ドーノック蒸溜所は2016年末にも完成してウイスキーづくりを始める予定で、そのスタイルは極めて伝統的なものとなるようだ。有機栽培の大麦麦芽をフロアモルティングで製麦し、ビール用酵母、オークでできた木製の発酵槽、直火加熱のポットスチルを使用する。共に2,000Lのポットスチルとコラムスチルを備え、ホワイトスピリッツの生産にも使用されるとのこと。サイモン・トンプソン氏が説明する。

「1970年代以来、長いあいだ絶滅状態だったウイスキーづくりのスタイルを確立するのが目的です。わたしたちが史上最高と考えるウイスキー、とりわけ60年代、50年代、40年代、30年代のウイスキーづくりを復興して、決して技術を逆行させるわけではなく、当時におこなわれていた生産の原則を理解してフレーバーを再現するのです。わたしたちはそれが達成可能なことだと信じています」

すでに建設が完了している蒸溜所もひとつある。アバディーンの北、エロンの町にできたローンウルフ蒸溜所だ。所有しているのは一匹狼のビールメーカーとして知られるブリュードッグ。オープンして数カ月間はウイスキーの蒸溜を予定していないが、いざ始まればブリュードッグがビールづくりでおこなっているような革新的なウイスキーづくりが見られるのではないかと期待されている。

同じアバディーン州では、長らく遅延中の計画も水面下で進行中だ。独立系ボトラーのダンカンテイラーが、もともとグレーンウイスキーの蒸溜所だったハントリー蒸溜所跡に、モルトウイスキーとグレーンウイスキーの蒸溜所を建設するという2007年来のプランである。

スペイサイドの心臓部イースターエルチーズにできる新しいマッカランの蒸溜所(完成予想図)

そしてもちろん、スコットランドにおける新設計画のなかでも最大の規模を誇るプロジェクトがいくつかある。ひとつはグレンリベットが2軒の蒸溜所を新設する計画。もうひとつは、スペイサイドの中心地イースターエルチーズにあるマッカラン蒸溜所の建て替え計画である。約1,000億英ポンドと試算される巨大なマッカラン蒸溜所の再建は、12槽の発酵槽、24基のスピリットスチルを土台に、年間1,600万Lの生産量を目指して2014年後半に始まった。2017年の春にはすべての工事が完了する予定である。

現在の状況を見るにつけ、スコットランドではまだまだたくさんのベンチャープロジェクトが生まれそうだ。誰が、どこに、どんな蒸溜所の新設を発表するのか、今後の動向にも注目しよう。

 

 

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