日本で初めてのジン専門蒸溜所

November 23, 2016


プレミアムジンに特化した新しい蒸溜所が京都市内で始動した。10月に発売された商品の初回分はすぐに完売。日本ならではの素材を使用し、和のエッセンスを加えた風味が話題を呼んでいる。日英混合のスタッフで運営される京都蒸溜所を訪ねた。

 
文:WMJ
 
ウイスキー蒸溜所の新設が続く2016年の日本で、国内初となるジン専門の蒸溜所が誕生した。その名も京都蒸溜所。京都市南区から出荷される新商品「季の美 京都ドライジン」は、英国と京都の伝統を融合させたプレミアムクラフトジンである。ジュニパーベリーの効いたロンドンドライジンに、ユニークな「和」のエッセンスを加えた味わいが特長だ。

蒸溜所の扉の中では、スタッフが忙しそうに動いている。蒸溜所を案内してくれるのは、品質の設計開発から参画している洋酒研究家の大西正巳氏。日本を代表するウイスキーメーカーで工場長やブレンダー室長を歴任した蒸溜酒のエキスパートだ。

ジンはスピリッツに、ジュニパーベリーを含む天然の風味素材(ボタニカル)を加え、蒸溜器でゆっくりと蒸溜することでスピリッツにフレーバーを統合させる。通常のジンは使用するボタニカルをまとめて一度に蒸溜するが、「季の美」の製法は非常に複雑だ。選りすぐった11のボタニカルを、特性に応じて「ベース(礎)」、「シトラス(柑)」、「ティー(茶)」、「スパイス(辛)」、「フルーティ&フローラル(芳)」、「ハーバル(凛)」の6グループに分類し、別々に蒸溜した後にブレンドする。2基の銅製スチルはドイツのクリスチャン・カール社製で、ヘルメット部分にボタニカルバスケットを統合したモデル(140リッター)と、サイドマウント型のボタニカルバスケットが付いたスワンネックのモデル(450リッター)の2種類がある。この2基のハイブリッドスチルを駆使して、6種類のスピリッツをつくり分けているのである。あえて手間のかかる製法を採用した理由を、大西氏が説明してくれた。

「スピリッツを分けて蒸溜するのは、素材それぞれの本来の良さを引き出し、スピリッツを最良の状態で取り出したいから。ブレンドの調合は0.5%変えるだけで大きく風味が変わってしまいます。パワフルでキックのあるジンをつくるのは比較的かんたんですが、我々はもっと繊細なジンを志向しています」

原料のアルコールは、国内で調達する最高級ライススピリッツ。日本の主食という象徴性もあるが、酒質にまろやかな甘味があることをテイスティング時に重視した。ベーススピリッツは、マケドニア産のジュニパーベリーと定番のオリスでつくる。ここにヒノキのチップを加えているのが京都蒸溜所のユニークな発想だ。

他のボタニカルは、ほとんどが京都蒸溜所のオリジナルである。京都北西部で育った無農薬栽培の柚子。広島の尾道市からは無農薬有機栽培の完熟レモン。どちらも旬のものを蒸溜所でピーリングして真空冷凍し、年間を通して必要な分だけ使用する。

緑茶は京都の老舗の玉露だ。もともと甘さが感じられる上品な素材だが、蒸溜でホワイトチョコレートのような甘さと、軽くローストしたビスケットの味わいがフィニッシュに顔を出す。

山椒や木の芽も京都らしい素材だ。蒸溜するとオイリーで重厚なスパイスを表現する。笹と赤紫蘇はフルーティでフローラルなエッセンスを加えてくれる。

 

若きヘッドディスティラーを支える日英チーム

 

プレミアムジンのフレーバーについて語り合う大西正巳氏(左)とアレック・デービス氏(右)。京都蒸溜所は、日英のエキスパートたちによって運営されている。

「コストは考えずに、最高品質を目指して素材を選定しました。日本の原材料は素晴らしく、一度比較してしまうと質が劣る素材には戻れません。ある程度、お金がかかるのは仕方のないことです」

大西氏はそう語る。柑橘のピールやスパイスも、ロンドンジンのように乾燥したものではなく、水気を含んだフレッシュな原料からナチュラルな風味を取り出す。それをブレンドしてウイスキーのように後熟し、最後に伏見の銘水でボトリング度数の45%に割り水する。塩素を含まない天然水なので、ボトリング直前に車で取りにいくのも重要な業務だ。

そんな手間のかかる一切の業務を、京都蒸溜所では驚くほどの少人数でこなしている。ヘッドディスティラーは、英国からやってきたアレックス・デービス氏。デービス氏を支えるディスティラーとして、スコットランドでの蒸溜経験を含む業界20年超の経験がある元木陽一氏。そしてナンバーワンドリンクスCEOのデービッド・クロール氏、大西正巳を加えた日英の4人が中核メンバーだ。ボトリングの日は、さらにヘルプのスタッフが加わる。

ヘッドディスティラーのアレック・デービス氏は、エジンバラのヘリオット・ワット大学(醸造・蒸溜学科)を卒業した後、チェイス蒸溜所やコッツウォルズ蒸溜所でジンの生産に携わった。2016年1月に来日し、この新プロジェクトに身を投じている。

「若い頃から、日本には興味がありました。日本で働き、日本語を学び、日本食や和素材について学べるのは自分のフレーバーの裾野を広げるチャンス。イギリスでの仕事にも満足していましたが、この仕事の話を打診されたときは頭の中で即決でした」

だが決して楽な仕事ではない。すべてを1日で終わらせるのがそもそも難しい。生素材なので素材の保存も難問だとデービス氏は言う。

「各素材の旬の時期も学びながら、先回りして確保するための知識と経験が必要です。英国のように、1回の蒸溜でジンがつくれたらどれだけ楽なことか。水運びも大変。それでも品質には満足しています。試飲したイギリスの友達も喜んでくれました。これまでつくってきたジンは力強いタイプでしたが、『季の美』はソフトで繊細。毎日よりよいものをつくろうと努力を続けています」

個別に蒸溜するのは手間がかかるが、ブレンドを変えるとまったく別の顔になる自由度は強みになる。試飲会では、柚子や玉露のスピリッツだけを欲しがるバーテンダーがいた。それぞれの素材の旬に合わせ、季節ごとにフレーバーを変えることもできるだろう。

 

京都らしい最高品質のプレミアムジン

 

このビッグプロジェクトを遂行したナンバーワンドリンクスのデービッド・クロール氏が、蒸溜所設立までのいきさつを教えてくれた。

「これまで手がけてきた軽井沢シリーズのマーケティング活動がひと段落したので、新しいチャレンジの場を探していました。ウイスキーはすでに新しい蒸溜所が生まれているので、まだ日本に存在しないプレミアムジンをつくりたいと思ったのです。理由を見つけては訪ねていた大好きな京都で、2015年始めから物件を探し始め、6月にこの場所を見つけました」

スチルが運び込まれて蒸溜所ができる様子は、設備を担当したラフ・インターナショナルのウェブサイトで視聴できる。

2015年12月から工事を開始して、2016年6月に竣工。だが蒸溜所の前例がない京都では、役所の認可手続きに時間がかかった。ボタニカルの大半が生ものであるため、ライセンス取得前に旬の素材を購入する判断が難しかったという。8月に認可が下り、約2ヶ月で発売に漕ぎ着けたのは、親しいイギリス蒸溜所で検証を続けてきたからである。

「季の美」のパッケージは、1906年創業の酒井硝子のボトルに、400年近い歴史を持つ京都の唐紙屋「雲母唐長(KIRA KARACHO)」監修のデザインを採用。すべてメード・イン・ジャパンに徹している。

「ジンは世界中にありますが、ドイツ産のジンを飲んだ人がドイツを連想するわけではありません。私たちは、飲んだ人が日本や京都を思い浮かべるようなジンがつくりたい。千年以上の歴史がある京都のクラフトマンシップに恥じないプレミアムジンで、世界中の愛好家を楽しませたいと思っています」

 


季の美 京都ドライジン

 

アルコール度数:45%

内容量:700ml

希望小売価格:5,000円(税抜)

※価格は販売店の自主的な価格設定を拘束するものではありません。

 

WMJ PROMOTION

カテゴリ: Archive, features, TOP, 最新記事, 蒸溜所