ブレンディングの芸術

November 25, 2016

ブレンデッドウイスキーは、モルトウイスキーとグレーンウイスキーを組み合わせてつくる。その複雑なメカニズムの一端を、名ブレンダーたちの言葉から読み解こう。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

物事を理解するには、まず土台となるパラメーターをおさえておくのが早道だ。スコッチウイスキーにおけるブレンデッドウイスキーは、たくさんのモルトウイスキーとグレーンウイスキーの組み合わせで成り立つ。そこで使われるウイスキーの数や、モルトとグレーンの割合に注目するのもいいが、両者がどのような相互作用でブレンドを成立させるのかを解き明かすことも、最終的なウイスキーの仕上がりを説明する手がかりになる。ウィリアム・グラント&サンズのマスターブレンダー、ブライアン・キンズマン氏がその基本を説明する。

「グレーンウイスキーはフレーバーの土台を築きます。この土台のフレーバこそが極めて重要なため、グレーンウイスキーをひとつ変えただけでもブレンドの風味が大きく変わります。グレーンウイスキーがブレンドのスタイルを定義し、モルトウイスキーがニュアンスを加えると私が言うのはそんな理由からです」

フルーティなスタイルやスモーキーなスタイルなど、ブレンダーはキーフレーバーのスタイル別に分類されたさまざまなウイスキースタイルを採用することができる。

使用されるカスク(樽)のタイプも、ウイスキーを分類する指標になる。シェリーカスクで貯蔵されたもの(レーズンなどのドライフルーツやリッチな甘味)やバーボンバレルで貯蔵されたもの(バニラ香や軽やかな甘味)がその代表である。

さらに細かく分類を進めるなら、モルトウイスキーやグレーンウイスキーを熟成したカスクがファーストフィル、セカンドフィル、サードフィルなのかでそれぞれ違いが出る。これらは樽の使い回しの回数を意味する用語だが、1回めよりは2回め、2回めよりは3回めのほうが、カスクから引き出される木の影響が希薄になってくる。異なったフィルの原酒があることで、そこからつくりあげるウイスキーの幅も広くなるとブライアン・キンズマン氏が語る。

「さまざまなフィルの原酒を用意するのは、非常に大切なことです。段階ごとにフレーバーが変わるため、古樽熟成のマイルドなフレーバーを使えることがブレンドにニュアンスを加える大きなアドバンテージになるのです」

バランタインのマスターブレンダー、サンディ・ヒスロップ氏も、ここに異なった視点を加えてくれる。

「例えばファーストフィルのシェリーカスクはオークのフレーバーが非常に強烈です。一方、そのデリケートなバージョンであるセカンドフィルのシェリーカスクは、シェリー香も繊細でオークも控えめになります。異なったフィル、異なったカスクタイプ、異なった蒸溜所、さまざまな熟成年の原酒を用いることは、ブレンドに使える風味要素のバリエーションが格段に増えることを意味します」

 

相互作用による重層的な風味の変化

 

大量生産が可能なグレーンウイスキーはブレンドの脇役とみなされがちだが、ブレンドのスタイルを定義する重大な要素である(写真は共にガーヴァン蒸溜所)。

ブレンドに使用されるウイスキーが組み合わされるとき、さまざまな反応や相互作用が起こる。ある種のフレーバーが、最終的なウイスキーの特徴に大きな影響を及ぼすのもそんな作用のひとつだ。ブライアン・キンズマン氏が語る。

「使用するウイスキー原酒は、それぞれすべてが大なり小なり全体のフレーバープロフィールに影響を与えることになります。例えばピーテッドモルトの原酒は、ある種の甘味やフルーティな特徴を抑え込みながら、かすかにドライな感触を表現して突き抜けます。最終的にどのようなウイスキーにしたいのかによって、組み合わせは変わってくるのです」

もうひとつの興味深い例がバニラ風味だ。クラシックな要素であり、それ自体が楽しめる風味ではあるが、さらに他の要素にも貢献しているのだとサンディ・ヒスロップ氏が説明する。

「バニラ風味は、なめらかでクリーミーな感触をブレンドにもたらし、フルーティな風味をより豪華に引き立てて、ある種の洗練を加えてくれるのです」

その他に、ブレンドで重要な役割を果たす要素が「甘味」と「ドライさ」だ。ブライアン・キンズマン氏が語る。

「私は甘味とドライさを基本的なフレーバーとして重要視しています。ドライさは、他のリッチなフレーバーの下層に沈みます。ドライなエッジを持った飲み応えのあるウイスキーは、リッチで甘いバニラ主体のブレンディングスタイルとまったく性質が異なるものです」

エドリントン・グループのマスターウイスキーメーカー、ゴードン・モーション氏がさらに付け加える。

「甘味とドライさ、この2つがブレンドのスタイルの決定に寄与します。甘めのスタイルはよりやわらかで、甘味がフルーツなどの他のフレーバーを強調します。一方、ドライさを高めると、より力強いスタイルになります。ドライさの度合いは、カスクの選び方で調整できます。ドライな感触はタンニンの影響から来るもので、スパニッシュオークやヨーロピアンオークで作られたシェリーカスクのほうが、アメリカンオークで作られたバーボンバレルよりも高いレベルのタンニンを含有しています」

モルトウイスキーとグレーンウイスキーが、ブレンドのなかで引き起こす相互作用について理解するには、もちろんかなりの経験とスキルが欠かせない。長い年月が必要となるこの道程について、ゴードン・モーション氏が自らの経験を語ってくれた。

「マスターブレンダーになる前は、約11年間、マスターブレンダーのアシスタントを務めました。何年も繰り返しグラスに鼻を入れて、さまざまな原酒の特徴をつかむことで、たくさんの経験を積みました。サンプルを定期的に調べていると、そのフレーバーをとても深く理解することができます。そしてそのウイスキーが、ブレンドにどのような要素を授けてくれるのかがわかるようになるのです」

 

テクスチャーは影の主役

 

ブレンデッドウイスキーのフレーバープロフィールに加えて、もうひとつ大切な要素がテクスチャー(口当たり、舌触り)だ。これはウイスキーによって大きく変化する要素であり、デリケートで繊細なものから、よりクリーミーでフルボディのものに幅広く分けられる。テクスチャーは、フレーバーをどのようにして舌の上に届けるかというもうひとつの役割も負っている。

口当たりは、ウイスキーの構成要素やカスクの選び方によっても変わってくる。一般的に、シェリーカスクはよりリッチな口当たりをもたらし、バーボンカスクはより軽めの口当たりになる。この理由のひとつはタンニンの度合いであり、シェリーカスクに使用されるヨーロピアンオークは、バーボンバレルに使用されるアメリカンオークよりもタンニンのレベルが高い。それに加えて、ある種のフレーバーもテクスチャーに影響をあたえることがあるとサンディ・ヒスロップ氏が教えてくれた。

「ソフトで、滑らかで、クリーミーな特徴は、バランタインファミリーにおいて極めて重要な特徴です。この要素は舌の上で感じるバニラ風味から由来するもので、アメリカンオークのバレルによって熟成中に授けられる特徴なのです」

 

 

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