オーストラリア産ウイスキーの基礎知識【前半/全2回】
ワインの世界ではニューワールドの台頭が著しいが、ウイスキーでも5大産地以外から優れたブランドが次々に登場している。日本ではまだあまり知られていないオーストラリアのウイスキーについて、同国のウイスキー業界に精通したクリス・ミドルトンが解説する2回シリーズ。
文:クリス・ミドルトン
オーストラリアは世界第6位の国土を持つ国で、人口の6割が海岸沿いの5都市に集中している。熱帯のジャングル、砂漠、雪を頂いた山々があり、干ばつもあれば洪水もある。サトウキビ農園やワイン畑も、伝統的な麦畑と同様に豊富だ。このような多様性が、オーストラリアのウイスキーの特徴を端的に表している。際立ったバラエティこそが、オーストラリアンウイスキーの魅力である。
そもそもビールが大好きなオーストラリア人は、ウイスキーとのつながりも深い。過去130年、オーストラリアは1人あたりのウイスキー消費量で世界一だった。現在もオーストラリアで一番人気のスピリッツはウイスキーであり、全スピリッツ消費量のほぼ半分を占めている。
1940年後半には、ウイスキー消費量の85%が国産ウイスキーだった。それが1960年ではブレンデッドスコッチが80%になり、現在はバーボンが60%にまで躍進している。国産のウイスキーブランドは、売り上げ全体のわずか0.2%までに減少してしまった。
国産ウイスキーが衰退した要因は2つ。高い値段と流通範囲の狭さである。1960年代以降、オーストラリアではRTDが人気を博してきた。ウイスキーをベースにした度数5%程度のソーダ類は年間約1,300万ケースを売り上げ、多くが缶や小瓶に入ったコーラ割りである。このRTDへの移行が、今日オーストラリアでつくられるウイスキーの多様性を説明するひとつの鍵になる。
オーストラリアの蒸溜酒業界
小規模蒸溜所ブームが始まった1990年代以来、約50社のメーカーがウイスキーを生産してきた。ウイスキー蒸溜所の定義についてはさまざまな見解があるだろう。数年に一度はシングルバッチのウイスキーを生産するのが、正真正銘のウイスキー蒸溜所だという意見もある。だがこの国の蒸溜所はみな小規模で、生産量も安定していない。これも予算に限りのあるオーストラリアンウイスキーの特徴だ。
オーストラリアのウイスキーブランド10傑
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小規模蒸溜所による現代のウイスキーづくりは、1992年にタスマニアで始まった(サリヴァンズ・コーヴとスモール・コンサーン)。その後、本土のオーストラリア大陸でも雨後の筍のように新しい蒸溜所が各地で誕生した(1997年のスミス、1999年のベーカリー・ヒル)。現在、オーストラリアの蒸溜所の3分の2以上が本土にある。
2015年の実績を見ると、48社の蒸溜所から約40万Lのウイスキーが生産されている。生産量の内訳は、上位4社が全体の50%以上。売り上げの上位24社を比較しても、同様の傾向がうかがえる。トップ4が総売上の3分の2以上を占めているのだ。しかしウイスキー関連のアワードとなると顔ぶれは多彩だ。サリヴァンズ・コーヴ、ラーク、ナント、スターワード、ティンブーン、ライムバーナーズ、ヘリヤーズ・ロードにはすべて輝かしい受賞歴がある。業界としては小規模でも、注目に値する上質なウイスキーは各所でつくられている。
このようにたくさんのウイスキーメーカーが成功を収めた理由は何なのだろう。オーストラリアンウイスキーに特有なスタイルを定義することはできるのだろうか。
オーストラリアンウイスキーとは何か
スコットランド、アイルランド、日本では、モルトウイスキーとグレーンウイスキーがつくられている。アメリカはバーボンとライが中心だ。ここオーストラリアでは、上記のすべてがつくられている。それ加えて、この国ならではの要素が盛り込まれることで多彩なフレーバーが生まれる。
現在のところ90%以上がモルトウイスキーであるが、これも急速に変化している。ここ数年で12社以上のモルトウイスキー蒸溜所が他の穀物原料やマッシュビルへと鞍替えをした。特に西オーストラリア州の蒸溜所は、ライ、コーン、小麦、バーボン流のマッシュビルへと大胆に変化を遂げている。バーボンという呼称はアメリカ産のみに許される地理的表示なので、オーストラリアでは「アメリカンスタイルスピリッツ」や「サワーマッシュウイスキー」などと呼ばれるジャンルだ。生産するスピリッツの種類が豊富なのも、オーストラリアの蒸溜所の特徴だ。ウイスキー蒸溜所の多くが、他のスピリッツを並行して生産している。ジン、ウォッカ、シュナップス、リキュールなどのホワイトスピリッツをつくることで、スタートアップの期間や直販におけるキャッシュフローを楽にしてくれるからだ。
オーストラリアのウイスキーは、それぞれどのようにしてフレーバーのニュアンスを組み立てているのだろう。後半では、原材料や生産工程を解読することで理解を深めてみたい。
(つづく)