トマーティン「フレンチコレクション」の魅力をマスターディスティラーが解説

May 17, 2021


去る4月26日、トマーティンは4種類のウイスキーからなる限定シリーズ「フレンチコレクション」を英国内で発売した。その内幕について、オペレーションズディレクターとマスターディスティラーを兼任するグレアム・ユンソンにインタビュー。

聞き手:ステファン・ヴァン・エイケン

 

トマーティンの限定シリーズ「フレンチコレクション」は、それぞれ異なったフランス産のワインとスピリッツの樽で熟成し、そのユニークな影響を表現しているのが特徴だ。2008年に蒸溜されたウイスキーは、まず伝統的なスコッチウイスキー用の樽で熟成されてから後熟用の樽に詰め替え。その樽の種類は、モンバジャック、ソーテルヌ、リヴザルト、コニャックというフランス伝統の樽である。エディション4種類のうち3種類が英国内で先行発売され、他の国でもまもなく登場する。4種類目のコニャックエディションだけが2021年の下半期に発売されて、シリーズが完結することになる。いずれもアルコール度数46%でボトリングされ、チルフィルターや着色料は使用していない。このウイスキーの詳細について、マスターディスティラーを兼任するグレアム・ユンソンに話を聞いた。

 

異なったタイプの樽が、最終的な製品に影響を与えるのは当然のこと。トマーティンはそのように多彩な熟成効果が体験できる製品を積極的につくり続け、熱烈なウイスキーファンたちを喜ばせています。以前にも「コントラスト」や「クアトロ」などの企画ボトルがありました。今回のシリーズのうち3種類は、2017年にそれぞれ別のフランス産のワイン樽に移されています。この時点で、今回のシリーズは構想されていたのですか? それとも当初は実験的な試みだった原酒の仕上がりを見て、後からシリーズのアイデアが浮かんだのですか?

 
「フレンチコレクション」のコンセプトは、かなり周到に計画されていました。これは「クアトロ」シリーズで成功を収めた結果から生まれた新しいプロジェクトなのです。「クアトロ」シリーズでは、フィノ、マンサニージャ、オロロソ、ペドロヒメネスというスペインのシェリー樽4種類による影響を表現しました。熱心なウイスキーファンの皆さんが、それぞれの樽の影響の違いを本気で比較したがっているというニーズはわかっています。そこで今後のシリーズで必要となりそうな樽の調達に動き出したという訳です。
 

ウイスキーは、まず「伝統的なスコッチウイスキー用の樽で熟成」されたとあります。この「伝統的な樽」とは、リフィルのバーボン樽(バレルやホグスヘッド)のことですか?

 
トマーティンの熟成は、大半がリフィルのホグスヘッドで始まります。この樽はスピリッツの熟成を促し、年を重ねるごとに酸化の作用でスピリッツの優雅さを引き出します。それでいて、樽材の影響を受けすぎないという点が素晴らしいのです。このリフィルのホグスヘッドで8〜10年の熟成を経ると、スピリッツはトマーティンのハウススタイルと呼べる香味要素をすべて獲得します。そして後熟に使用する樽の特徴が輝き、しかもその影響が最終的なウイスキーの香味を圧倒しない絶妙な熟成の度合いで仕上げるのです。
 

フランスのワイン樽を調達する過程で、田舎のワイナリーや有名なシャトーなどを訪ねる楽しい体験はありましたか?

トマーティン蒸溜所で、オペレーションズディレクターとマスターディスティラーを兼任するグレアム・ユンソン。樽熟成の戦略について内幕を明かしてくれた。

 
素敵なフランス旅行の思い出についてお話したいところですが、このようなシリーズを用意するときは、もっぱら樽工房とのやりとりが主体になるんです。樽工房の調達力によってさまざまな種類の樽が手に入り、トマーティンのコンセプトが実現します。何社かの樽工房と素晴らしい関係を築いており、最高品質の樽を融通してもらえるのです。
 

公表できる範囲で構いませんが、現在トマーティンでは他のタイプのワイン樽も使用していますか? ウイスキーファンの私たちが、今後も同様のシリーズが続くことを期待してもいいのでしょうか?

 
もちろんです。トマーティンは、樽熟成において業界のトップクラスであることを自負しており、いつも高品質の樽で熟成の実験を続けています。同様のシリーズは、少なくともあと1回お届けできるしょう。どうぞご期待ください。
 

シリーズのウイスキーは、ほとんどがワイン樽の後熟に3年8ヶ月かけています。この後熟の狙いについて教えてください。ワイン樽の影響とスピリッツの特性を拮抗させることですか? それともワイン樽の影響をはっきりと表現することですか? ボトリングの準備ができたと判断するのは、どんなタイミングなのでしょうか? まだテイスティングしていない読者のために、香味のイメージをご説明ください。

 
通常のスコッチウイスキーの後熟期間は、約2年程度であることが多いと思います。でもトマーティンでは、平均で2年半から3年かけて後熟します。これはスピリッツ本来の香味と樽熟成の影響がちょうどいいバランスに達し、なおかつ後熟用の樽の特性が前面に出てくる時間配分なのです。だからこそ、お金も時間も十分にかけて後熟しています。最高品質の樽を調達するだけでなく、その樽が貯蔵していたワインも最高級であることが大事。このシリーズは、いつも合計熟成期間が約12年になるように計画されています。そのため後熟用の樽に入れるのは、9年間の熟成が済んだスピリッツであることがほとんどです。新しいタイプの樽や希少な樽に入れた原酒は、定期的に熟成度合いをチェックしてボトリングのタイミングを見定めています。
 

4本シリーズなのに、最後の1つ(コニャックエディション)だけ秋に発売されるのはなぜですか? 他の3つと同じ日にボトリングされたとも聞いています。

 
類似するシリーズは、いつも2回に分けて発売する計画でした。でも同時に、各ボトルの香味を比較できる要素は維持したいので、すべて12年熟成にそろえています。今回は3種類のワイン樽熟成をまとめ、唯一のスピリッツ樽であるコニャック樽熟成を後発にしました。コニャック樽熟成のウイスキーは、秋の新商品にぴったりだろうという狙いもあります。
 

手塩にかけて育てたウイスキーはどれも愛おしいと思いますが、4種類の中で特に期待を上回ったお気に入りはありますか?

 

どれも大好きなウイスキーなので、1本だけ選ぶことはできません。でもこれまでシリーズを続けてきた経験から、甘口のワイン樽で熟成したウイスキーは夏にぴったりだと思っています。そして秋になれば、きっとコニャックエディションに惹かれることになるでしょう。
 

トマーティンは、本当に多彩なタイプの樽を取り扱っていることで知られています。ずっと探し求めているのに、まだ入手できていない樽はありますか?

 

多彩でマニアックな後熟はトマーティンの代名詞。高品質でレアな樽を調達して、ウイスキーファンの関心に訴えるシリーズを発表している。

長年、パロ・コルタドを手に入れたかったのですが、最近ようやく何本か調達できたので夢見心地です。世界中からオーク樽を調達していますが、まだスコットランド産のオーク樽は手に入れていません。スコットランド産のオーク材は取り扱いが難しく、樽に組むのも至難の業といわれています。あとはお気に入りのワインメーカーもあるのですが、そこは名前を出されるのを嫌がるので、仮に首尾よく調達できてもお知らせできないかもしれません。
 

このウイスキーマガジン・ジャパンで、クボカンについてお話をうかがったのは2019年9月のことでした。あれ以来、蒸溜所の生産プロセスや設備などで変更はありましたか?

 
いつもの保守点検や設備の維持に変わりはありません。でも蒸溜所で最大の素晴らしい変更点といえば、20201月に就任したジャニス・メア蒸溜所長です。彼女は業界での経験がとても豊富ですが、生産方針に大きな変更は加えませんでした。スピリッツ生産と樽熟成の品質には強いこだわりがあり、蒸溜所全域で一貫性のある高品質を保ってくれています。
 

最後に、やはり感染症の影響についてお聞かせください。普段の生活や蒸溜所での業務に、どんな変化がありましたか?

 
パンデミックによる生活への影響はたくさんあります。オフィス採用の社員は、ほぼ全員が自宅勤務です。ビジターセンターも、過去12ヶ月はほぼ休業状態でした。それでもたいへん幸運なことに、生産スケジュールはほぼ影響を受けずにやってきました。蒸溜所チームは、シフトのパターンが変わったので人員を少しだけ減らしましたが、現状の生産方針はしっかりと維持しています。それだけでなく、お客様の需要が増大したのに応えて、会計年度も素晴らしいスタートを切りました。パンデミック期間中の対応と業績には、全員がとても満足しています。この嵐を乗り切るため、普段以上の努力を重ねてくれたスタッフ全員に感謝したいですね。

 

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