泥炭地の保護に続き、ウイスキー業界を支える大切な森林にフォーカス。アメリカとヨーロッパで、ウイスキーとサステナビリティを考える3回シリーズ。

文:ライザ・ワイスタック

 

森の生存競争は過酷だ。1本のオークの木が、樹齢100年を超えて生き延びるには、日光や水などの資源獲得競争に勝ち抜き、外来種や雑草たちから自分の身を守らなければならない。害虫などの絶え間ない脅威も生涯にわたって続く。

ケンタッキー大学のセス・デボルト教授。バーボンの本拠地では、産学一体で森林保護の研究が進められている。

近年、ミシシッピ川西岸の州(アイオワ州、ミズーリ州、アーカンソー州など)の森で、ホワイトオークの苗木はうまく生き残っていない。20世紀初頭から生きているホワイトオークの巨木はあるし、これから成長するであろう小さな若木もある。だが中間サイズのホワイトオークが少ないのだ。

中程度の高さに林冠がない森でオークの大木を伐採してしまうと、森が再生されるのに長大な時間がかかってしまう。これは大きな問題だ。ケンタッキー大学の森林天然資源学部で改善スペシャリストを務めるローラ・デウォルドは、次のように語っている。

「あるべきものがそこにないという状況を目の当たりにしたとき、それは自然からの警告であると認識します。なにか問題が発生していることは明白です。私たちは苗木に生き延びて成長してほしい。この問題を解決していくために、『ホワイトオーク・イニシアティブ』という取り組みが始まりました」

このイニシアティブは、今後15年にわたって続けられる予定だ。この抜本的かつ多面的なプログラムを通して、研究者たちはホワイトオークを繁茂させる環境や農業技術を特定しようとしている。さらにはホワイトオークのDNAを解読した遺伝子情報の系譜をもとに、理想的な生育環境についても理解する。

 

バッファロートレースの植樹実験

 

ウイスキー業界はホワイトオークに大きく依存しているため、この天然資源を将来にわたって使い続けられるようにしなければならない。まさに死活問題なので、バーボンメーカー各社も活動に参加している。

全米各地から、さまざまなホワイトオークの苗木を持ち込んで植樹する。バッファロートレースは、土壌や遺伝子などの検証によって持続可能な樽材の確保に力を入れている。

今年の4月半ばには、バッファロートレース蒸溜所が1066本の苗木を自社農場に植えた。これは親木が異なる40種類の苗木で、アーカンソー州、ジョージア州、ケンタッキー州、メリーランド州、ミズーリ州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、テネシー州、バージニア州から運んだものだ。これから数年のうちに、104種類の親木から得られた苗木が植樹される予定だ。

バッファロートレースのホームプレイス・マネージャーを務めるデニス・ウォルシュは、植樹活動について次のように語っている。

「持続可能な森林再生を進めるとき、どこに注力すべきなのかを正しく学びたい。真っ直ぐに育ち、短期間で育ち、強く育つ苗木はどれなのか。畑や野原などの農業環境で検証し、答えを見つけ出したいと思っています」

このような植樹の実験には、それぞれ異なった土壌での生育状況を調査することも含まれている。農業環境以外にも、砂利や舗装路だった工業環境の場所があり、それぞれの土壌が検証の対象となる。

バッファロートレースが所有する土地では、6種類の異なった「実証済みの技術」が組み合わせを変えて試されている。その技術の内容を詳しく見ると、カモガヤ(イネ科の牧草)や冬小麦の間作を入れて土壌を耕してみたり、除草剤を使用してみたり、フェスクと呼ばれる干し草の上に直接苗木を植えてみたりといったものだ。

大学のプログラム内で実施される蒸溜所の戦略はユニークなもので、州内でおこなわれているさまざまな研究の成果を統合する最初の場所となる。さまざまな品種や環境を試してみることで、 ホワイトオークの成長に特に有益な要因や、逆に有害な要因を特定していくのが研究の目的だ。

このような研究によって、例えば土地を耕すことが実は森林再生には逆効果であるといった事実を学ぶことができた。しかしながら、今のところすべてはまだ純粋な憶測の域を出ていない。これから一体どんなことがわかるのか、はっきりとしたことは何も言えない段階だ。そしてローラ・デウォルドは、以前なら思いもよらなかったような事実が明らかになる可能性を確信している。

 

メーカーズマークとの共同研究

 

西海岸のワシントン州で、新進のウエストランド蒸溜所が進める植樹活動。組織的な伐採によらない樽材の調達も実践している。

バッファロートレースの土壌管理は、ホワイトオーク保護の取り組み全体における一側面に過ぎない。他の大きな要素としては、「ツリー・インプルーブメント」と呼ばれる樹木自体の改善が挙げられる。この研究を共同で推進している代表的な企業がメーカーズマークだ。

ケンタッキー大学はメーカーズマーク蒸溜所が所有するスターヒル農場内で9万平米の土地を使用し、米国東部のさまざまな地域から持ってきた苗木約300本を育てている。土壌や生育環境をコントロールすることで、木の成長速度が環境要因で左右されるのか、あるいは遺伝子の違いで変わってくるのか、その要因を理解しやすくなる。ローラ・デウォルドは説明する。

「森でひときわ成長の速い樹を1本見つけたとしましょう。その木の種(ドングリ)が落ちた場所がどのようにラッキーだったのか、冷静に問いかけなければなりません。違う親木から集めたドングリを同じ地域に植えたら、遺伝子要因による違いを特定できる可能性があります。『ツリー・インプルーブメント』の研究は、ホワイトオーク保護の取り組みを助けています。なぜなら土壌の最善の管理方法がわかってきたら、 この研究によって非常に良い苗木の供給ができるから。好ましい遺伝子を持っていそうな木でも、育て方がわかっていない場合もあるでしょう。そういった小さな条件をつなぎあわせるような研究なのです」
(つづく)