樽造りの美学・2 【クラフトクーパー 後半/全2回】

December 16, 2013

樽職人のこだわりを探るシリーズ第二弾は、家族経営の「キャリッジ・ハウス・クーパレッジ」のレポート後半をお届けする。

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夕方遅く、ブラッドフォードはチャーしたカスクに新しい鏡板を取り付けて、その匂いを嗅がせてくれた。内部の芳香を充満させるために、樽に軽く栓をしていた。彼が言った通りだ。焦げたオークの香りが、押し寄せる甘美な赤い果実に覆われている。「その樽の匂いを初めて嗅いだのはあなたですよ」と彼が言う。
ブラッドフォードの生産目標は1日に樽1個。私は、最初に匂いを嗅がせてもらって名誉に思うと伝えた。

ブラッドフォードは「絶滅種の最後の生き残り」ではない。「かつては大量にいたが数十年前にほぼ死滅した種の現代の生まれ変わり」だ。ひとりだけのクーパレッジを営むが、妻のマーラが手伝っているから家族経営と言える。樽のようにがっしりと厚い胸をした樽職人のブラッドフォードは、見るからに厳しい肉体労働に慣れている。仕事をしていないときの彼は、温かく友好的でおしゃべり好きな様子から、クリスマスにはあの赤と白の衣装を着た楽しいお爺さんの役をやっている姿が直ぐに想像できてしまう。

プリンスエドワード郡は、増水期になると広がるオンタリオ湖に2辺を囲まれた理想的な農地だ。最近では穀物、家畜、果物の農家が葡萄畑に乗っ取られつつあり、毎年新たなワイナリーが出現しているように見える。新参者たちは環境に優しい地元産ワインを生産する −「ザ・カウンティ(この郡)」を週末の別荘にしている裕福なトロントっ子のロカヴォア(地元産のものを食べる人)向けだ。
「あの人たちはガソリン食いのSUVでここにやって来て、有機栽培のトマトを欲しがるのよ」と教会の市場で地元住民が私に言った。彼女が売っていたのは、まさにそれ – 有機栽培のトマトだった。「耳を掃除するのもきっと手作りの高級綿棒なんでしょうよ」と彼女は、私もそのひとりかもしれないと、皮肉っぽく付け加えた。

地元の事情はさておき、ブラッドフォードのクーパレッジはこの郡で増え続けているクラフトワイナリーとひとつの蒸溜所に地元産の樽を供給して繁盛している。独自の技術に注ぐ情熱は紛れもない。本物の職人技で、樽のひとつひとつが別個のプロジェクトなのだ。「高いですよ」と彼は誇らしげに言う。「800ドルですからね、とびきりのワインやスピリッツだけに使われます」。

伝統的に、ウイスキー樽はオークで造らなければならないと言われている。それは何故か?
オークの水密性は他に類を見ないからだ。「蒸溜業者とワインメーカーにとってオークが一番です」とブラッドフォードは言う。「他の木材では中身が漏れ出してしまいます。でも、常に注意深く管理できるのであれば、他の木材を使った樽で新しいフレーバーを出せますよ。ひとつの樽の一部に別の木材を使ったり、異なる木材を組み合わせて使ったりすることで、最高に風味の良い、革新的な樽になります」。
ブラッドフォードはカナダ産ホワイトオークの他に、チェリー、ブナ、トネリコ、ヒッコリーでも樽を造る

翌朝の帰路、車を走らせながら見るプリンスエドワード郡の落ち着いた風変わりな美しさに、驚かずにはいられなかった。
石造りの宮殿のような新しい家のよく手入れされた芝生の上に、花が咲き乱れる低木の合間に半ば隠れてトラクターが鎮座している。ひと昔前のマッセイ・ファーガソン、ジョン・ディア、インターナショナル・ハーベスターなど(WMJ註:いずれもトラクターなど農耕機械のメーカーや機種)は、高級住宅街化したとはいえまだ農業の盛んなこの郡のエリアから退いているようだ。今そこを耕しているのはくすんだ青色のボルボ製トラクターたちだ。

プリンスエドワード郡はまた様変わりしつつある。その変化のひとつ、それも喜ばしい変化は、開拓移民と探鉱者たちがこの郡にやって来て、穀物畑にするために古代の広葉樹林を切り開いた何世紀も前に栄えた商売…カナダのクラフトクーパリングの復活だ。

※写真協力:カナダ・オンタリオ州観光局

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