コレクションされることなど想定せず、リリースを重ねて四半世紀。スペイサイドが誇るシェリー爆弾は、世代を超えてウイスキーファンの心をつかんでいる。

文:ポール・アーチボルド、フェリーペ・シュリーバーク

 

プロジェクトが始まった1997年の時点では、アブーナがここまで長く続くことも予想は難しかったはずだ。だからこそ、すべてのバッチをカバーした完全なバーティカルコレクションがいかに希少なものであるかが想像できるだろう。

記念すべき25周年の節目に、そんなコレクションが再構築されたのはまさに運命的な出来事ともいえる。ウイスキー市場全体を見ても、これに類似したコレクションは2つとない。今年になってこのようなコレクションの可能性に気づいたのは、プライベートブローカー兼ウイスキーアドバイザーのマーク・リトラーだった。

バッチナンバーが振られたシリーズで、数量にも限りのあるアブーナ。だがコレクター向けのウイスキーであるとは認識されてこなかった。その理由のひとつは、あまりにも長期にわたって膨大な数のバッチがリリースされてきたからである。マーク・リトラーはアブーナについて次のように語っている。

「アブーナは、ドリンカーのためのウイスキーです。このようなコレクションを売るのは気が遠くなるほど大変なことで、海外で売るならなおさらです。いちばん大きな障壁は輸送コストでした。ボトル66本を送るのにも個別のカートンが66箱必要になるので、本当に大変な金額になっていました」

だがアベラワー蒸溜所は、みずから提示した買い戻しの条件によって、25年間に発売したウイスキーシリーズを生誕の地に呼び戻した。マーク・リトラーは中身のウイスキーだけでなく、各ボトルの背後にある歴史にも関心があったという。そして何年もかけて各バッチの内容を吟味し、それぞれの違いを文書化してきた。

例えばシリーズの最初の5バッチまでは、バッチナンバーが振られていない。そのためバッチ6以前のリリースは、どれが何番目のバッチなのか知りようがないのだ。パッケージも以前はボックス入りだったが、バッチ32以降はチューブ型の箱に変更されている。

シリーズのファンなら、バッチ43が不在であることにも気づくだろう。このバッチが「AHCスペシャルバッチ」と呼ばれているためだ。おそらくバッチまるごとが私的なイベントでの販売に充てられたことで、欠番になっているものと見られる。このイベント用ボトリングを「バッチ43」と見なすことで、シリーズはバッチ44から再開して現在まで続いている。

コレクションには、まだ興味深いポイントがある。ミレニアムエディション(ボトル全2000本)の一角を占めたアブーナのバッチは、アブーナでただひとつオフィシャルに年数表示(12年)のあるウイスキーとなっており、シルバーの盾の上に熟成年数を印刷したラベルが貼られている。だが同じウイスキーが入った37本のボトルには、紙のラベルを貼ったバージョンもある。マーク・リトラーが蒸溜所に送ってきたコレクションには、このラベル違いのボトルが両方とも含まれていた。
 

希少なのにリーズナブルなシェリー爆弾

 
シリーズのファンは、そんなボトルやラベルの話よりも、中身のウイスキーに込められたアベラワー蒸溜所の意図のほうが気になることだろう。2022年のスピリット・オブ・スペイサイド・ウイスキー・フェスティバルでは、アベラワーがコレクションのボトルを開栓するイベントを初めて主催した。

チケットを手に入れた幸運な来場者のために用意されたボトルについて、アベラワー蒸溜所でマスターディスティラーを務めるグレアム・クルックシャンクが次のように説明してくれた。

2022年のスピリット・オブ・スペイサイド・ウイスキー・フェスティバルで開栓されたアベラワーアブーナのオールドボトル。このバッチ53は、グレアム・クルックシャンクがマスターディスティラーに就任して初めてのリリースだった。

「まずは記念すべき第1号のバッチから始まり、次にミレニアムエディション、バッチ34と続きました。その次にバッチ53を選んだのは、私がマスターディスティラーに就任して初めてリリースしたバッチだから。そして最後は、最新のバッチ71で締めくくりました」

コレクションの希少性を考えると、このボトルを展示用に保管するという道筋もあったことだろう。だがアベラワー蒸溜所は、あえてそのような誘惑に抗って、公衆の面前でボトルを開栓する道を選んだ。このシリーズが「ドリンカーズ・ウイスキー」であるという本意をあらためて示すためである。

他の似たようなカスクストレングスの数量限定商品に比べると、アブーナは比較的手頃な価格のウイスキーだ。その価格設定も手伝って、カスクストレングスとしては珍しくウイスキー愛好家の定番銘柄として認識されることもある。最初の発売時はボトル(700ml)1本で36英ポンド(約6,000円)だった。それがやがて60英ポンド(約10,000円)程度で販売されるようになり、現在は人気を反映して80英ポンド(約13,000円)ほどである。

高品質なシェリー樽熟成のウイスキーには、現在もたくさんの競合ブランドがある。だがそのようなウイスキーが「シェリー爆弾」のシリーズとして定着するには時間がかかる。多くのブランドにとって、アブーナのように長年の蓄積によるコレクション化は現実的に難しいだろう。アブーナの売り上げを文書で振り返りながら、マーク・リトラーが分析する。

「何と言っても、シリーズには25年の歴史があります。いい時期もあれば、苦労もありました。そんな時代の荒波を生き延びてきたシリーズなのです。25年も継続できた理由は、生産者に利益をもたらすウイスキーだったから。なぜ利益を生み出せたかといえば、多くのウイスキーファンが愛してくれたから。カスクストレングス、着色料なし、シェリー樽熟成といったスタイルで、継続的に発売できたウイスキーのなかでも最古のシリーズのひとつといえるかもしれません」

あらゆる意味において、アブーナが25年前に示した方向性は未来を予言していた。小規模ながらも忠実なファン層はアブーナの継続を支え、ウイスキー愛好全体のなかでも特別なブランドに成長したのである。これから始まる次の25年を実り豊かなものにするため、今はただ乾杯しよう。