スコットランドと同様に、独立系ボトラーが誕生しているアメリカのウイスキー界。その第一人者が、現在のアメリカンウイスキーで特に注目すべき地域やスタイルをご紹介。

文:マギー・キンバール

 

ケンタッキーバーボン、テネシーウイスキー、メリーランドライ。これまで地域と関連付けられてきた多くのアメリカンウイスキーは、その土地の気候やテロワールと同じくらい各州の経済的な諸事情から影響を受けてスタイルを変遷させてきた。

だが最近になって全米各地でクラフトディスティラリーが隆盛し、すべての状況が変わりつつある。

テキサス、フロリダ、アラスカ、ニューヨークでつくられるアメリカンバーボン。ライウイスキーもコーンをまったく使用しないライウイスキーまで出現し、新しいスタイルのアメリカンウイスキーが誕生しているのだ。さらにはアメリカンシングルモルトのような新スタイルも注目され、地域ごとに独自のバリエーションを表現している。

アリゾナ州ツーソンで、ウイスキー・デル・バックを創設した父娘のスティーブン・ポールとアマンダ・ポール。メスキートを使用したアメリカ独自のスモーキーフレーバーを導入している。メイン写真は、独立系ボトラー「ロスト・ランタン・ウイスキー」を設立したアダム・ポロンスキーとノーラ・ギャンリー・ローパー。

アダム・ポロンスキーと共同で独立系ボトラー「ロスト・ランタン・ウイスキー」を設立したノーラ・ギャンリー・ローパーは、最近の取り扱いウイスキーについて次のように説明している。

「最近のアメリカンウイスキーには、大きなトレンドが2つあります。その1つは南西部スタイルのシングルモルトで、特にツーソンのウイスキー・デル・バックとサンタフェのサンタフェ・スピリッツがつくり始めている『メスキートシングルモルト』です」

どちらの蒸溜所もスモーキーなシングルモルトをつくっているが、ピートの代わりにメスキートで燻して製麦するのが特徴だ。メスキートは、アメリカ大陸の乾燥地帯で育つマメ科の植物だとローパーは言う。

「メスキートを使うことで、本当に素晴らしいシングルモルトのスタイルが生まれたのです。アメリカならではの風味で、しかも南西部らしく、美味しいウイスキーです。2つの蒸溜所がつくり始めるまで、誰も聞いたことさえなかった世界初のスタイル。このメスキートを使ったスモーキーなウイスキーは、他の場所でもつくられ始めています。新たなシングルモルトのスタイルとして、私たちもワクワクしながら見守っています」

そしてローパーが注目するもう1つの新しいトレンドといえば、地理的条件というよりも環境的条件に根ざしたウイスキーづくりだ。これはペンシルベニアやニューヨークでつくられるライウイスキーのことで、「冷涼地ライウイスキー」と呼ばれている。興味深いのは、冷涼地スタイルのライウイスキーを製造する蒸溜所が地元の農家と協力関係にあることだ。

「冷涼地のライウイスキーには、薬草やコショウのような風味が備わっています。これは、ペンシルベニアがライウイスキーの主要産地だった時代を彷彿とさせるスタイルです。コーン比率が高いケンタッキー流のライウイスキーともまるで違います。コーン比率が高いとオークの影響を受けやすくなるので、甘味が強まってバニラ風味の特徴が引き出されますが、それとは対照的に冷涼地のライウイスキーは、ライウイスキーの好ましい特徴をすべて残しつつ、薬草やコショウのような風味を加えたユニークなひねりが効いているのです」
 

新しいアメリカンウイスキーのスタイル

 
ロストランタンの創業者たちは、独立系ボトラーという特権的な立場を通して、このような新しいスタイルのウイスキーに出会うことができる。スコットランドの独立系ボトラーのように、ロストランタンも米国内のあまり知られていない蒸溜所を探し出し、ラベルに産地を明記してボトリングしている。そんな事業の継続を通して、創業者たちは全米各地の蒸溜所に足を運び、新しいスタイルのウイスキーについて学ぶことができるのだとローパーは言う。

「私たちの仕事は、本当にクールなウイスキーを見つけること。だからアメリカ中の新しいウイスキーを試飲し、まだ広く知られる前のブランドでも試飲できます。いまアメリカの各地で何が起こっているのか、ユニークな視点で見ることができるのです」

ポロンスキーとローパーは2,000軒を超える国内の蒸溜所の中から、新しいボトリングの対象となるウイスキーを選んでいる。まだ現れていない未知のスタイルも待望しているが、そんな期待のひとつが海や沿岸部の特徴を反映したウイスキーなのだという。

ウイスキー・デル・バックでは、ピートの代わりにメスキートを使用したアメリカ独自のスモーキーフレーバーを導入している。このアイデアは後続のメーカーにも採用され、新しいアメリカンスタイルとして定着するかもしれない。

「スコッチウイスキーには、アイラ島などの個性が際立つスタイルがあります。だからアメリカでも、太平洋岸北西部やニューイングランドで、海からの影響をもっと受けたウイスキーが出てきたらいいなあと思っています。ウイスキーに海のニュアンスが加わると、本当に面白い風味に変わっていきますから」

さらにローパーは、テキサス州でウイスキーを製造する200軒以上の蒸溜所にも注目している。これらの蒸溜所には、テキサスらしい共通のスタイルが認識されつつあると考えているからだ。

「急速に台頭しつつあるテキサスウイスキーのスタイルを確立する仕事もやってみたい。テキサス州は、その暑さゆえに独自のスタイルを確立できそうな地域ですから。ずっと注目して、そのようなテキサススタイルの誕生に立ち会いたいと願っています」

ケンタッキー州だけに留まらず、全米でバーボンがつくられるようになっている。地域ごとに新しいスタイルのバーボンが生まれつつあるのだ。ローパー氏によれば、熟成地の気候の違いが、それぞれのバーボンの違いを際立たせる重要な要素のひとつだという。例えば冷涼な気候でつくられたバーボンは、一般にクリーミーで軽やかな印象があるとローパーはいう。

「アイオワ州のシダーリッジ蒸溜所でつくられるバーボンは、オーク樽の影響が少なめで、コーンの風味が豊か。よりデリケートなスタイルになっています。中西部でつくられているバーボンは、これからシダーリッジのようなスタイルなのか、それとも別のオリジナルのスタイルになるのか。興味深く見守っていきたいと思います」

ネバダ州のフレイ・ランチは、テロワールにこだわったウイスキーが話題。原料のすべてを自前で用意する農場蒸溜所(ファーム・ディスティラリー)の代表格だ。

またローパーは、「シード・トゥ・グラス」(種からグラスまで)を提唱するファームディスティラリー(農家兼蒸溜所)にも注目している。このような蒸溜所は、栽培するコーンの品質をウイスキー用にしっかり管理できるのが利点だ。

「いま特に注目しているファームディスティラリーといえば、ネバダ州のフレイ・ランチ。ケンタッキーやインディアナのスタイルにも近いエステート型のバーボンとして、とても豊かな将来性を感じさせます」

ローパーは気候や土壌も重要しながら、次に登場する主要なスタイルは地域よりも哲学に根ざしたものになる可能性も感じている。特に面白いのは、ビール醸造のルーツを持つ太平洋岸北西部の蒸溜所だ。このようなメーカーがビール用に使用する特別な大麦モルトは、アメリカ流のシングルモルトウイスキーに新しい香味を生み出せるかもしれない。

「まったく同じ方法で製造しても、大麦モルトの品種を変えるだけでウイスキーの香味も変わります。シリアルの『ウィーティーズ』や『ココアパフ』みたいな独特の風味が生まれるのです」

今やアメリカのクラフトウイスキーも、黎明期の段階を通り過ぎて本格的な成長期に入った。全米各地の蒸溜所で多くのイノベーションが起こっているが、老舗の大規模な蒸溜所も実験的な試みを進めている。多くのクラフト蒸溜所が10年以上にわたって実験データを蓄積しており、さらに10年後にはもっと楽しみなことになっているだろう。

これまでアメリカのウイスキーづくりでは、テロワールと地域性の影響について逸話レベルでしか語られてこなかった。だが香味の細かいニュアンスに与える風土の影響が、さらにしっかりと理解されるようになるはずだ。

新しい品種や、過去に使用されていた穀物品種。これから生まれる革新的な発酵技術や蒸溜技術。そして多様な熟成気候。小規模生産者が全米各地で実験的なウイスキーづくりに取り組んでいる。ウイスキーファンもそのような新奇性に興味を持ち、一緒に味わいながら新しいスタイルを体験する。アメリカンウイスキーはそうやって絶えず進化を続けていくのだろう。