ウイスキー用語集―AからZまで【M①】

April 28, 2014

ウイスキー用語を学ぶこのシリーズも、とうとうMまでやってきた。前後編の前編にあたる今回はモルトとモルティングにスポットを当てる。

ウイスキー用語集―AからZまで【K・L】

ウイスキーづくりのロマンは、輝く銅製のスティルの形や、スピリットセイフに流れ落ちる無色透明の液体に集約されるか、あるいはしっとりと湿気を帯びた貯蔵庫の中で熟成するアルコールの香りに象徴されることが多いかもしれない。

だが、ウイスキーづくりの本当の主役は、実はその前の段階、つまりモルティングとマッシングにある。どちらかといえば地味なこの工程を間違えれば、その後に続く全てが狂ってしまうからだ。実は今、その重要性が以前にも増してさらに見直されるようになっている。

大麦は、年々栽培量が減っている。その理由は、収穫量の減少もあるが、それだけ需要が減っているためでもある。イギリス北西部のあるブルワリーなどは、アジアや東欧の新しい市場が開かれるのに伴い、大麦の需要を増やしてもらうようディアジオ社にまで掛け合いに行ったほどである。
さらに、環境にやさしい燃料として穀物を供給するため、多くの農家が小麦の生産に転向するようになり、大麦畑が次々とつぶされている。これらの状況によって、今入手できる大麦を最大限に活用する必要性がますます高まり、効率よく大麦を発芽させ、糖化させるという初期の工程がいかに重要なものであるか、ということがようやく気づかれるようになったのだ。実際、ウイスキーづくりにかかる費用の3分の2は、大麦で占められているのである。

したがって、でんぷん質を正しく抽出することが何よりも大事なことになる。モルティングとは、まさにこれを行うためにたくみに組み立てられた3段階の工程なのである。
まず、スティープと呼ばれる大きな容器に張った水に穀物を浸す。すると、穀物は発芽を始める。これにより酵素が発生し、麦の中のでんぷん質が抽出しやすくなる。

大麦は、頻繁にひっくり返されて空気に晒される。これが、モルティング(製麦)のスピードを上げるのだ。この工程は数日かけて行われるが、これは外の天候によって左右される。

最後に、この工程を止めて熱が加えられる。でんぷん質が最も取り出しやすくなった時点で発芽を止めるのである。これが、アルコールの生産量を最大限に増やすのだ。これは古風な趣すらある、手作業の工程だ。今では、モルトを均一に広げ、シャベルや原始的な機械でひっくり返すためのモルティング場を維持している蒸溜所は、めっきり減ってしまったが、ウイスキーの本の中には、当然のことのようにこの工程に多くのページを割いているものもある。

だが現在、この工程はほとんど機械化され、ドラム式モルティング装置サラディンボックスで大麦を発芽させる麦芽製造業者に委託されるようになっている。大麦以外にもこの工程に使える穀物はあるが、アルコールづくりには大麦が最も効率が良いのだ。モルトウイスキー以外のマッシュにも、大麦麦芽がある程度は使われていることが多い。そして業界全体がコスト削減に意識を高めるにつれ、効率の良いモルティングの必要性はますます高まっていくだろう。

用語集―【M】

モルト(Malt)
「騙されて」発芽し、その途中で乾燥された大麦麦芽のこと。本文参照。

モルトウイスキー(Malt Whisky)
麦麦芽、酵母、水だけでつくられたウイスキーのこと。

モルティング(Malting/製麦ともいう)
穀物の内部に控訴を生成させるために発芽させ、途中で発芽を制御するプロセス。本文参照。

マリッジ(Marriage)
様々な原酒をブレンディングしてできたウイスキーをなじませる工程。ブレンデッドウイスキーだけでなく、モルト同士のブレンディング(ヴァッティング)の場合にも行われることがある。

マッシュ(Mash)
熱湯とグリスト(粉砕麦芽)の混合物。挽いた穀物には、でんぷん質が豊富に含まれている。

マッシュビル(Mash bill)
アメリカンウイスキーの製造で使用されるマッシュは、概ね3種類以上の穀物でできている。それぞれの穀物を混合物する割合を指す。レシピともいう。

マッシュタン(Mash tun/糖化槽ともいう)
グリストを入れて熱湯を加え、マッシュをつくる容器のこと。

ミリング(Milling/製粉ともいう)
マッシングを行う前に、乾燥したモルトを粉末(グリスト)にする工程。

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