ウイスキー用語集―AからZまで【P①】
ウイスキー用語を解説する連載、今回は2回に渡るPの前半。ピート(peat)、フェノール(phenols)、PPMの意味をはっきりさせる。
ウイスキーは穀物、イースト、水のみを使ったスピリッツと定義される。シングルモルトウイスキーは1ヵ所の蒸溜所で製造されたもので、麦芽、水、イーストのみが使われる。
味には影響がないとされるカラメル着色を除いて、モルトウイスキーには他に加えられるものはまずない。
しかしこれではまだ話の半分だ。優れたウイスキーの要素のひとつはもちろんピートで、原材料として数えられるわけではないが、その存在はモルトの風味を根本的に決定づける役割を果たす。
ウイスキーのフレーバーが形作られる過程において、ピートの役割は2段階ある。天然水の中に隠れた存在としての影響と、大麦を乾かす時だ。
一般に信じられているのと反対に、ピートが水に及ぼす味の影響はごく限られている。スコットランドとアイルランドの多くの天然水がピートを通過するのは本当で、濃い茶色の水にその存在は表れている。
しかし発酵と蒸溜を経た後、水に含まれたピートの成分がスピリッツに持ち越されることはほとんどない。ピートで乾燥させた大麦を使っていないウイスキーでも、ピートの香りを感じる場合もあるが、それは珍しいことだ。
ピートはモルトにフェノール(煙のような香り)を与え、それはPPMという単位で計測される。最終的な水に対するピートの影響は、計測するとわずか1PPM程度だ。
乾燥の工程でのピートの煙はまた別問題だ。非常に高レベルのフェノールをもたらすので、注意して管理しなければいけない。例えばアイラの強くピートされたモルトは45から50PPMあるので、大半のウイスキーにはピートを焚きこんでいないものを合わせることが多い。最近では、50PPM前後のウイスキーも多くみられるようになったが。
そもそも、ピートとは何であるか? ここは用語集であるから、改めて説明しよう。
ピートは植物と天然の泥の集合体が何十年から何百年もかけて腐食し、炭化したものだ。熱と水と重力により腐食して押しつぶされ、最終的には石炭になる…ピートはその手前の「泥炭」と呼ばれるものなのである。
天然の燃料としては素晴らしく、多くのスコッチウイスキー用の大麦を乾かす場合以外にも昔から使われていた。産業革命と、鉄道網の発達によって石油や石炭などの簡易な燃料の輸送が行き届き、その重要性は低まった。
地理と地域的な経済状態が、主に諸島部でピートが重要視され続けた理由になる。
ピートはどれくらいの深さで採れたものかによって程度が決まり、ウイスキーを製造する場合は3つの型に分けられる。
「フォッグ」は上部の層の最も軽いもので、燃えるのが早く、煙も1番多い。「ヤーフィー」は真ん中の層で採掘される、燃え方がやや遅いもの。「モス」は湿っている時には泥で作ったチョコレート・プリンのように見えて、乾くと石炭に似る。燃え方は最も遅い。
国内で多く産出されるにも関わらず、アイルランドではピートをほとんど使用しない。商業的なアイリッシュウイスキーの輸出が早く始まり、生産が田舎から都市に移ったからだ。まもなく経済的に採算が合わなくなり、使用は早いうちに途絶えた。
用語集―【P】
ピート (PEAT)
泥炭 。本文参照。
フェノール (PHENOLS)
ピートを焚きこむことでモルトに与えられる煙のような香り。本文参照。
ポットエール (POT ALE)
ウォッシュスチルで1回目の蒸溜を済ませた後、スチルの中に残ったものをポットエールと呼ぶ。バーント・エールあるいはスペント・ウォッシュとも言い、タンパク質に富む。
手を加えれば液状あるいは固形になり、主に家畜の餌として使用できるが、肥料にされることもある。
ポットスチル (POTSTILL)
銅製のやかんに似た形の容器で、ウォッシュを入れて熱して蒸溜する。ほとんどの場合、蒸溜はだいたい2回行われる—最初はウォッシュスチル、次はスピリットスチルで。容器は3つの部分、胴体、ネックとライン・アーム、及びコンデンサーからできている。
ピーピーエム (PPM)
ピートによって得られたフェノール値。数字が大きいほど煙の香りが強い。本文参照。
ピュア (PURE)
「ピュア」という用語には明確な定義がないため、最近ではあまり用いられない。シングルモルト、ヴァッテッド、ブレンデッドモルト、ブレンドと、様々な場合に使われてきた用語。