ウイスキー用語集―AからZまで【Q・ R】
ウイスキー用語を取り上げるこのシリーズでは今回、QとRから始まる言葉、特に「ライ」と「還流」について学ぼう
←ウイスキー用語集―AからZまで【P②】
そもそもライウイスキーという言葉に不明瞭な点があるとすれば、それはおそらくこの言葉が、全く異なるふたつのものを表わすために使われているためだろう。純粋に「ライ麦でできたウイスキー」という意味と、「カナディアンウイスキー」の代名詞としてだ。
カナディアン・ウイスキーは近年あまりファッショナブルではないと思われながらも、変わらず世界中で高い人気を誇っている。従来は「ライ&ジンジャー(ライウイスキーのジンジャーエール割)」のように、「ライ」という言葉で呼ばれていた。
その昔、ライ麦はカナディアンウイスキーの最も重要な原材料であったが、現代ではカナダといえばブレンデッドウイスキーで知られている。もちろん多くのライウイスキーがそのブレンドの中に含まれているものの、ライは主要素ではなくなっている。実際、カナダのブレンデッドウイスキーはむしろその「スムースで洗練された味わい」で知られているのだ。
その一方で、アメリカのライウイスキーは、風味の点ではその対極にある。スパイシー、クリスピーといった特徴で語られることが多い。
一時は、アメリカ産のなかで主なウイスキーであったものの、アメリカンライの人気は低迷し、ある時ほとんど姿を消してしまった。しかし、少量生産のクラフトディスティラリーでは、地元産のライ麦を使用したり、様々な副材料とともに新しくも伝統的でもあるライウイスキーをつくり始めている。
アメリカのライウイスキーは、51%以上のライ麦を含有することが法律で定められているが、バーボンに含まれるトウモロコシのように、通常その割合はそれよりもはるかに高くなっている。マッシュにはライ麦以外に、トウモロコシと大麦の麦芽が含まれているのが通例で、ウイスキーの製造にはバーボンのそれに適用されるのと同様の厳しい規制が適用されている。
ライ麦は、大麦とも小麦とも親戚関係に当たる穀物だ。ライ麦については関連記事「ライ麦を知る」で詳細にレポートしているので、ぜひそちらを参考にして欲しい。
還流 (REFLUX)についてもじっくり説明する必要があるだろう。 「還流」とは、蒸溜工程において、銅のスチルを上昇していくアルコールの蒸気が途中で冷やされて液化し、再びスチルの胴部に戻り、凝縮工程に到達することが出来ない、という工程を意味する。スチルに戻った液体は、再び蒸溜過程を繰り返す。
蒸溜工程では、熱によってアルコールと水が分解する。最初に上昇するのは、最も軽く、当然最も揮発性の高いアルコール成分だ。
その後、もっと重いコンジナーと油分を含むアルコールが蒸発して取り除かれる。しかしアルコール成分の中には、スチルの胴部からラインアーム、そしてコンデンサーまでの長い旅路に耐えられないものが出てくる。蒸気は上昇するにつれ冷却され、蒸気から液体の状態に戻る。これが、再び釜に戻るのだ。
スチルからコンデンサーまでの距離が長ければ長いほど、この還流は大きくなる。スチルのネック部分に膨らみがあるもの(バルジ型)なども同様だ。
スチルに対するラインアームの角度も関係してくる。角度が急なアームほど、重い蒸気は上昇しにくくなるのだ。 したがって、大きく背の高いスチルでは、最も軽く、最も華やかな香り成分のみが、最後まで上昇することが出来る。小さくて背の低いスチルでは、その距離が短くなるため、重いアルコール成分も次の工程に進むことが出来る。そしてこのようなコンジナーや油分はもっと特徴的な香りを持っているため、小さなスチルで製造されたウイスキーは、一般的にオイル分が強く、強い香りを持つとされている。
もちろん、時間や蒸溜回数、麦のタイプや熟成に使用された樽など、他にもさまざまな要素が関係してくるため、一概には言い切れないのが用語集としてはツラいところではあるが、それがウイスキーの醍醐味でもあるだろう。
用語集―【Q,R】
クエイク(Quaich)
スコットランドでウイスキーを回し飲みする際に使われる、取っ手をふたつ持つケルトの酒盃。儀式やセレモニーに使われる。
還流(Reflux)
本文参照。
ラメジャー(Rummager)
直火式のポットスチルで使われる。初溜釜で発酵液を熱する際、沈殿物が焦げないようかき混ぜるための装置。
ラン(Run)
蒸溜工程において得られた(スチルから集められた)スピリッツのこと。
ライ麦(Rye)
麦の仲間で、オオムギや小麦と似た特徴を持つ穀物。本文参照。
ライウイスキー(Rye Whiskey)
本文参照。