ウイスキー用語集―AからZまで【S①】

August 22, 2014

ウイスキー用語を扱う最新の回では「S」を前後半に分けて取り上げる。前編ではアメリカンウイスキーにおけるSの意味について考察する。

ウイスキー用語集―AからZまで【Q・ R】

同じ「ウイスキー」というカテゴリーではあるが、スコッチとアメリカンが同じだというのは、ふたりのプレーヤーと小さなボールが登場するからテニスとゴルフは同じだ、といっているのに等しい。

どちらのウイスキーも穀類、水、イーストを使ってつくられているという事実のほかに、両者の間に共通点はない。確かにアメリカンウイスキーはもともとスコットランド人、アイルランド人、ウェールズ人の入植者の手で発展したが、当然ながらそれ自体の非常にはっきりとした個性を持つようになった。

個性と同時に、アメリカンウイスキーには独自の用語がある。スコッチウイスキーと重なる部分はあっても、意味することは全く違っている。
例えば「ストレートウイスキー」。スコットランドでは何も加えていないウイスキーを指すが、アメリカではニューオークの樽で最低2年間熟成されたウイスキーのことで、質を判断する基準として重要視される。使用する機材の違いもあり、それぞれ独自の「ウイスキー言語」を持っている。

バーボンの製造工程に関して非常に誤解が多いのはサワーマッシュで、発酵のプロセスがスコッチとは根本的に違うという事実に関係している。
スコットランドの蒸溜業者はバッチごとに、モルトを湯に浸して麦から得られる最大のものを引き出し、残滓は発酵の前に取り除く
一方アメリカンウイスキーをつくる場合、穀類を液体の中にそのまま残し、お粥のような液体そのものを発酵槽に入れて発酵する。それを蒸溜するのである。蒸溜が終わると糖分とアルコール分の抜けた残滓を含んだ液体が残る。その残留液はやや酸味があるので「サワーマッシュ」と呼ばれている。他にも、スロップ、スティレージ、スペント・ビール・バックセット、セットバックと呼ぶこともある(Bの項参照)。

サワーマッシュ・プロセスというのは、バックセットの一部がポンプで発酵槽に戻され、次の新しいバッチの糖化液と混ぜられることを指す。
蒸溜所によって異なるが、発酵槽に入る液体の4分の1まではバックセットが占めることが多い。それが非常に重要な働きをしている。ケンタッキー州は気候が温暖なため発酵液の中でバクテリアが繁殖しがちだが、それをサワーマッシュの酸が抑制するからだ。
この作用によって、イーストが存分に働くことができる。トウモロコシやライ麦といった穀類は、モルティングされた大麦ほど発酵に向いていないので、イーストには助けが必要なのだ。

対照的に、毎回新しい穀類を投入してそれぞれのバッチの発酵液をつくるスコッチウイスキーの製造過程は、スイート・マッシュ・プロセスとも呼ばれる。「酸っぱい」バックセットは登場しない。

アメリカのウイスキーづくりに独特な用語は他にもある。例えば「シングルバレル・ウイスキー」。ひとつの樽から瓶詰めしたウイスキーのことだ。
スコットランドでは「シングルカスク」と呼ばれることが多い。単に樽という意味の「カスク」と「バレル」という単語の違いだけでなく、アメリカでの「シングルバレル」は特別な意味を持つ。アメリカ、特にケンタッキーでは年間の気温差と倉庫のラッキングシステム(多くの蒸溜所が樽をラックに高く積み上げるラック式を採用している)ため、樽によって仕上がりが大きく異なる。そのため、シングルバレルとして選ばれる樽は特別なのだ。最高級の「ハニー・バレル」は激しい競争の的だ。

用語集―【S】

スモールバッチ(Small Batch)
この用語に関する法律的な定義はないが、主に「選び抜かれた少数の樽から瓶詰めされたウイスキー」を指す。
発酵から蒸溜までの1回の生産量が少ないときにも「スモールバッチ」と呼ばれる。独立資本系の蒸溜所や、少量生産に徹する蒸溜所にはこのスタイルが多い。

サラディン・ボックス(Saladin box)
ウイスキーの製造過程の最初に、発芽を促進するため大麦を機械的に混ぜる装置

シングルモルト・ウイスキー(Single Malt Whisky)
モルティングした大麦のみを使い、1つの蒸溜所で製造したウイスキー

スピリット・セイフ(Spirit Safe)
ガラス張りの装置で、蒸溜されたスピリッツが中を通り、3つの大型容器のいずれかに収まる。ここでスピリッツのアルコール度数が測定され、蒸溜液は前溜(フォアショッツ)、中溜(ミドルカット)、後溜(フェインツまたはテイル)にカッティングされる。ウイスキーになるためのスピリッツは中溜のみで、溜と後溜は

スピリッツ・レシーバー(Spirits Reciever)
蒸溜された原液のうち、中溜(ミドルカット)が入れられる容器。これがニューメーク・スピリッツと呼ばれるもので、熟成されてウイスキーになる。

スティープ(Steep)
ウイスキーの製造過程の最初に、大麦を水に浸して発芽を促進する作業

ソレラ・システム(Solera System)
ウイスキーに関しては一般的ではないが、シェリーにおいては重要な熟成工程。樽を3段に積み上げ、一番下の樽から中身を抜いてボトリングする。その樽には中段の樽からの中身を補充し、中段には上段の樽の中身を移す。味や品質を均一に保つ働きがある。

ロバート・スタイン(Robert Stein)
連続蒸溜方式を発明したスコットランド人。より効果的な方法はイーニアス・コフィーが開発したため、コフィー・スチルと呼ばれる。

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