軽井沢が世界一価値の高いウイスキー銘柄に
この8年間、オークション指標で首位の座を守ってきたザ・マッカランがついに陥落した。新しい王者は、昨年よりニュースを賑わせている軽井沢である。ジョン・マコーミックが、オークション市場の分析から2015年を振り返る詳細なレポート。
文:ジョン・マコーミック
こうなることは以前から予想されていたが、ついに公式発表のときが来た。ウイスキーマガジンのオークション指標で、軽井沢がザ・マッカランを抜いてトップに立った。驚くべきことに、このランキングを開始した2007年初頭から、ザ・マッカランは不動の首位に君臨してきた。ボウモア、アードベッグ、グレンフィディックなどの猛者が次々に挑んでも、豊かなシェリー香で知られるスペイサイドの王者を第2位に引きずり下ろすまでには至らなかったのである。
2015年、軽井沢は香港のオークションで高値をつけ、じりじりとザ・マッカランに迫ってきた。10月後半までは拮抗状態で、数本の受賞作にも恵まれたザ・マッカランが猛追する軽井沢を僅差でかわしていた。2014年のオークション最高値はザ・マッカランのコレクターズアイテムだったが、2015年には軽井沢が多くの最高値に輝き、スタンダードサイズのウイスキーとしてはオークション史上最高額で落札されるという記録も残した。
首位交代劇が起こったのは、2015年11月以降のこと。すでに蒸溜所が閉鎖されていることからカルト的な人気を誇る軽井沢が、ボナムズの主催する年間最後のウイスキーオークションでスパートをかけた。今度ばかりはザ・マッカランが屈し、軽井沢が名実ともに世界でいちばん価値の高いシングルモルトウイスキーとなったのである。
オークション実績から動向を分析
1月は毎年のように世界のウイスキーオークションが波乱含みとなる。そんな中、香港の2カ所でおこなわれたオークションの実績が、軽井沢に王冠をもたらすこととなった。アッカー・メラル&コンディットでは30年ものの軽井沢が何本か出品され、1本26,000香港ドル(約40万円)で落札。2012年の東京インターナショナルバーショーのためににボトリングされた2本組の軽井沢には、32,000香港ドル(約50万円)の値がついた。だが極めつけは、香港ボナムズのオークションである。ここでは131本限定の50年もの「軽井沢1963」が280,000香港ドル(約435万円)、48年ものの「軽井沢 1964 ウェルスソリューションズ」が200,000香港ドル(約310万円)で落札。ザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ ソサエティがボトリングした6本の軽井沢(132.1〜132.6)は60,000香港ドル(約93万円)で取引された。同日の最高額は、1980年代半ばに蒸留された30年ものの軽井沢「サムライカスク」(ロット720)の10本セット。500,000香港ドル(約778万円)でコレクターの手に渡った。
セカンダリーマーケットに目を移すと、軽井沢は主に香港でのライブオークションやヨーロッパのオンラインオークションで取引されている。ウイスキーマガジンの指標はライブオークションでの実績のみを参考にしているが、オンラインでの軽井沢の動きは2次市場を活発化させる大きな要因となってきた。オンラインにおける軽井沢の価格は、2014年末から2015年上半期にかけて急激に高騰。2015年下半期は価格が定まってやや落ち着きを見せたが、依然として品薄状態のため高値に陰りが見えることはない。
英国最大のオンラインオークション「スコッチウイスキーオークションズ」で落札された軽井沢の年間ベスト3は、18年ものの「軽井沢 1995 ゴーストシリーズカスク#5022」(22本限定)が11,000英ポンド(約190万円)、「軽井沢 1983 ゲイシャカスク#8333」(68本限定)が9,000英ポンド(約155万円)、「軽井沢 1983 ネパール震災復興カスク#3557」(50本限定)が9,000英ポンド(約155万円)である。オンラインオークション全体でのベスト3は、「軽井沢 1964 ウェルスソリューションズ」(143本限定)が 17,600英ポンド(約304万円)、「軽井沢 1981 カスク#158」(45本限定)が8,200英ポンド(約141万円)、「軽井沢 1967 カスク#6426」(229本限定)が8,000英ポンド(約138万円)であった。
軽井沢が首位の座を守れるのか、手持ちの数字から予測してみよう。400本のシングルカスクが存在し、1つのカスクから平均250本がボトリングできるとして、控えめにみても10万本のビンテージ商品が潜在的に見込まれる。その後はヴァッティングによる多彩なノンエージステートメントの商品も出てくるだろう(もちろん一部は消費済み)。現実的に考えて、これまでに販売されたのは全体量のほんの一部だと考えたほうがいい。
現在のウイスキーマガジンの指標では、軽井沢の平均評価額は1本2,500英ポンド(約43万円)。これに対してザ・マッカランは1,700英ポンド(約29万円)である。軽井沢の市場だけで、数百万英ポンド(数億円)の規模に達する可能性がある。もちろん、ザ・マッカランには軽井沢の残存量をはるかに凌駕する量の既発商品があり、ブランドも一貫して強力だ。それでも現在の勢いは、日本のシングルモルトに軍配が上がるだろう。
ザ・マッカランが打ち立てた大記録
8年弱に及ぶこのランキングの歴史で、ザ・マッカランは95カ月連続1位という大記録を打ち立てた。ザ・マッカランの平均評価額が1,000英ポンド(約17万円)の大台を初めて突破したのは2013年6月のこと。そして2015年6月には最高額の1,976英ポンド(約34万円)に達している。
ボウモアは2010年初頭に首位を脅かしたが、現在は過去最低の第8位に甘んじている。2013年にアードベッグが猛追した時期もあったが、ザ・マッカランの尾をとらえることはできなかった。
グレンフィディックの最高位は、55年ものの「グレンフィディック ジャネット・シード・ロバーツ・リザーブ 1955」がチャリティーオークションに登場した2012年のこと。だがライブオークションで完売したわけではなく、ボウモアほどの猛チャージは見せられなかった。それでもグレンフィディックは現在第5位につけており、トップ25内にある17のスコッチウイスキーのなかで2番めに取引数の多い銘柄である。
ザ・マッカランが、これ以上に順位を落とす可能性はないだろう。首位に返り咲くことができるのか、できるとしたらいつになるのか、引き続き注目である。