世界中のオークションで、宝石や美術品のように取引されるウイスキーの限定品。その利用法や問題点をまとめた3回シリーズ。

文:ガヴィン・スミス

 

偽物と詐欺の問題

 

オークションで売買される最高レベルのウイスキーは、相当な高額にまで跳ね上がる。そんな状況もあって、ボトルの中身が期待通りの内容からかけ離れたケースも存在することに驚きはない。

レアウイスキーズ101のアンディ・シンプソンによると、19世紀の産品だという触れ込みで持ち込まれるウイスキーは、細心の注意で精査する必要があるという。

「世紀末つまり1890年代のボトリングを謳うウイスキーは、最初からすべてを疑ってかかる必要があります。本物であるという確固たる証拠がない限り、まず偽物でしょう。この分野は、推定有罪が原則なんです(笑)」

2016年、レアウイスキーズ101は、100万米ドル(約1億円)という値がつけられた希少なスコッチウイスキーコレクションの真贋を究明することになった。コレクションの中で、もっとも厳密な解析が求められたのは1903年にボトリングされたというラフロイグ。レアウイスキーズ101のデービッド・ロバートソンとアンディ・シンプソンが、共同で最終レポートをまとめた。

「解析の結果、ボトルのガラスとラベルは本物でした。確かにその時代のものであるという確証が得られたのです。でも中身の液体はどうでしょう。結局、私たちは開封して液体を解析することにしました。その結果は、官能分析でも、技術分析でも、その結果はがっかりする内容でした。正体は若いブレンデッドスコッチウイスキーで、ラフロイグだというのにフェノールがまったく含まれていません。放射性炭素年代測定をやってみたら、蒸溜されたのはつい最近であることもわかったのです」

このように高額なボトルが偽造の対象になるのは珍しくない。だがアンディは、まったく異なるタイプの偽物をつかまされた体験も告白してくれた。かれこれ32年もウイスキーのコレクションに関わってきたのに、購入したボトルがフェイクだったのだ。

「2019年11月、それはオンラインではなく、リアルな空間で取引されるオークションでした。1970年代のジョニーウォーカー赤ラベルを30英ポンド(約4500円)で買ったんです。開封してみると、キャップのカチッという音がしないので、おや?と思いました。明らかに誰かが飲んだ残りのウイスキーを水で薄めて、キャップのリングを丁寧にくっつけてオークションに出したものです。私としたことが、まったく小学生レベルの失態でした。写真だけ見て、現物のボトルを確かめずに購入したせいです。だからオークションには、こういった安い偽物も紛れ込んでいることにご注意くださいね」

ウイスキー・オークショナー設立者兼オーナーのイアン・マクルーンが、1926年ビンテージのマッカランを吟味する。超有名なブランドほど、偽物が出回りやすいので要注意だ。メイン写真は、レアウイスキーズ101のデービッド・ロバートソンとアンディ・シンプソン。

アンディいわく、レアウイスキーズ101は社内で要注意銘柄のリストを作成している。顧客がオークションで手を出さないように注意をうながすための銘柄リストだ。その一例が、「マッカラン ロバートバーンズ デキャンタ」。これは2008年に発売された限定ボトルで、シールもなければキャップのフォイルやプラスチック栓もない。その結果、たくさんのデキャンタが中身をすり替えられてオークションに売り出されることになった。

「まず250本限定なのに、これまで105本がオークションで売られているんです。いくら何でも多すぎますよね。もともとの値段は199英ポンド(約3万円)でしたが、今年の4月には、1本4,000英ポンド(約60万円)で取引が成立しました。これだけ値が上がるので、デキャンタの中身を似たような色のウイスキーにすり替えようという誘惑を呼ぶのでしょう。価値が上がるほど、偽物も手が込んできますよ」

偽装されるウイスキーブランドの代表格はマッカランで、特に「グランレゼルバ」シリーズがフェイク界の常連であるという。

だがすべてに失望する必要はない。用心深い買い手なら、適正な注意を怠らなければオークションの不正に巻き込まれる事態はかなりの部分まで防げる。

ロンドンのウイスキー・ドット・オークションでオークションディレクターを務めるイザベル・グレアム・ユールは、簡単なアドバイスを推奨している。それはボトルのラベルをよく読むことだ。偽物には、けっこうな確率で誤植があるのだという。使用されているフォントや書体を注意深く調べ、字間や行間のスペースの大きさにも気を配る。

アンディ・シンプソンも、購入希望者に同様のリサーチと比較を推奨している。

「オンラインで画像をしっかり比較してみるんです。完全に同じに見えますか? 例えばラベルの印刷にピクセル状のパターンがあったら、それはデジタル印刷なので偽物です。印刷の品質と色にも注目してください」

またイザベルは、封栓の状態を注意して調べてみるようにも助言している。キャップのカプセルがゆるんでいるように見えたら、そのボトルは避けること。封蝋のワックスが不自然だったり、スクリューキャップに工具の跡がついていたりするのも怪しい。40年熟成のダルモアが背後から切開されて中身が詰め替えられ、再びシールで閉じられてオークションに出された事例にもアンディ・シンプソンは出くわしている。

液体の色も大きなヒントになる。ボトルが本物でも、色は簡単に偽れないからだ。可能ならば、同じバッチの本物と色を厳密に比較してみよう。色と同時に、ボトルのネックを見てどこまで液体が詰められているのかチェックする。水面の位置が高すぎたり低すぎたりする場合は、偽物だと疑う合理的な理由がある。

古くて希少なウイスキーに大金をつぎ込む計画がある場合は、放射性炭素年代測定(カーボン・デイティング)で液体の年代を確かめる方法も視野に入れておこう。機器としてはいささか愚鈍な検査で、例えば1888年につくったとされるウイスキーが、本当にその年に蒸留された液体であると証明することはできない。だが1960年代以降につくられたウイスキーは、放射性同位体である「炭素14」を含んでいるので正確に特定できる。

ほとんどの偽物は新しいウイスキーに詰め替えられているので、1960年代以前につくられたとされるウイスキーが本当にそこまで古いのかを断定できるというわけだ。だがこの検査はやや高額で、1本あたり約600英ポンド(約9万円)の費用がかかる。それでも真剣なコレクターなら、恥ずかしい大失敗から財産を守る保険になるだろう。アンディ・シンプソンは語る。

「巷のバーテンダーに、空のボトルはないかと聞いて手に入れようとする人がいます。そしてeBayには、マッカラン30年の空瓶が1,000英ポンド(約15万円)で売りに出されていたりします。そんな空瓶を調べてみたら、実はボトル自体が偽物だったこともありました。つまり、偽物のウイスキーを売ろうとしている詐欺師が、偽物の空瓶をつかまされるようなケースもあるんです(笑)」
(つづく)