ついに新ラインナップを完成させたベンリアック。マスターブレンダーとグローバルブランドアンバサダーが、緻密に構成された商品群の意図を解き明かしてくれる。

文:クリス・ホワイト

 

現マスターブレンダーのレイチェル・バリーが、初めてベンリアックをテイスティングしたのは1994年のこと。早いもので、それから26年の歳月が経った。

親会社のブラウン・フォーマンは、ベンリアックの商品レンジを再活性化すべく検討を重ねてきた。確かにこれまでのベンリアックは、一般的な消費者にとってわかりにくい商品構成だったかもしれない。生粋のモルトマニアなら、それぞれのウイスキーに込められたベンリアックのこだわりは興味深い。だがそれ以外の層にとっては、スペックが必要以上に複雑でわかりにくいこともあった。詳しく説明されるほど、その意図を理解できずに取り残されたような気がした人もいただろう。

2016年よりマスターブレンダーを務めるレイチェル・バリー。グローバルブランドアンバサダーのスチュワート・ブキャナン(メイン写真)と共にラインナップを刷新した。

新しい商品レンジを構築するために、レイチェル・バリーはまず基本に立ち返った。ベンリアックの中核となるエッセンスをしっかり理解しようと考えたのである。

「やはりいちばん大切なのは、まずスペイサイドの風土でつくられるベンリアックのルーツ。そして蒸溜所の個性的なスピリッツを土台とした物語です。初めて出会った人と徐々に深く知り合っていくように、丁寧でわかりやすい商品レンジを作らなければいけないと思っていました」

だがベンリアックは、一筋縄でいかない多面性を持っている。このような個性をどうやって魅力的に表現できるのか。

「確かに難問ですが、私にとっても楽しい悩みでもありました。ベンリアックのスピリッツについて、さまざまな角度から理解を深めていくプロセスを経験できましたから」

異なったスピリッツのタイプをブレンドしたり、それをベンリアックが使用する多彩な熟成樽と結びつけたりすることで、ほとんど無限の可能性が試せることになる。そんなプロセスは、バリーのようなマスターブレンダーにとって無上の喜びでもあるだろう。回想する彼女の口調には、そんな興奮が滲み出ている。

「貯蔵庫に行くと、樽にはいろんな色の天板が嵌め込まれています。それを眺めながら、樽のひとつひとつがそれぞれ異なった色彩の絵の具のように思えてきました。画家が無数の絵の具を操るように、私は多彩なフレーバーによってウイスキーの世界観を描くことができるのです。クリエイティブな特権を与えられ、自由な発想でフレーバーに命を授けていく仕事。ワクワクしないはずがありません」

 

多彩な原酒を組み合わせた理知的なラインナップ

 

ベンリアックの貯蔵庫には、本当に多彩な原酒が眠っている。この詳細を誰よりも知っているのは、グローバルブランドアンバサダーのスチュワート・ブキャナンかもしれない。ベンリアック蒸溜所が2004年に生産を再開したときから、ブキャナンは常にウイスキーづくりの中核を担ってきた。主にスピリッツの生産を担当してきたが、もちろん貯蔵庫の状態をチェックするのも大好きな仕事なのだと語る。

「ベンリアックの貯蔵庫は本当に面白いですよ。ここに一体どんな種類のウイスキーがあって、どんな状態で熟成されているのか。すべて洗いざらい調べ上げて、ベンリアックのポテンシャルを再確認することにしました。一昔前の原酒も含めて、バラエティの豊富さには本当に驚かされましたね」

そんな多彩な原酒のひとつひとつが、バリーのクリエイティビティを刺激する絵の具となる。膨大な種類の原酒をすべて把握して、新しい商品レンジを考えなければならない。その構成全体には、ある種のシンプルさも必要だ。パッケージやメッセージが、難解で複雑な印象を与えないように注意した。

熟成年ごとにノンピートとピーテッドのバリエーションを設け、それぞれのボトルが特徴的な樽で後熟されている。新しい商品構成は、ベンリアックの多面性と独創性をシンプルに表現した内容だ。

パステル調のブルーから、ヒースが繁る土っぽい色まで、パレットに並べられた色彩からは、スペイサイドの風景が浮かび上がる。そして商品レンジ全体を眺めたときに、ブランドの起源ともいえる1994年のボトルへのオマージュを感じさせるものにしたい。コンセプトは徐々に具現化されていった。

さまざまな樽原酒を組み合わせることで、ベンリアック特有の世界が完成する。このような「折衷主義」について、バリーはいかにも楽しそうに説明してくれる。今回の新しいランナップで、まず設定したのは熟成年が10年と12年のバリエーション。どちらも各2本1組という構成になっており、そこには東洋思想の「陰陽」を思わせるイメージが託されているのだという。

10年熟成にも、12年熟成にも、それぞれノンピートとピーテッドの2種類がある。その樽構成の違いも注目に値するだろう。「ベンリアック オリジナル・テン」は、バーボン樽とシェリー樽に加えてオーク新樽も使用されている。一方の「ベンリアック オリジナル・トウェルブ」にはポート樽が使用された。そしてピーテッドモルト原料の「ベンリアック スモーキー・テン」は、バーボン樽、オーク新樽、ジャマイカ産ラム樽でスピリッツを熟成。「ベンリアック スモーキー・トウェルブ」はバーボン樽、シェリー樽、マルサラ樽を使用している。

以上4種類のコア商品に加え、「ベンリアック トウェンティワン」(バーボン樽、シェリー樽、オーク新樽、赤ワイン樽)、「ベンリアック トウェンティファイブ」(バーボン樽、シェリー樽、オーク新樽、マデイラ樽)、「ベンリアック サーティ」(バーボン樽、シェリー樽、オーク新樽、ポート樽)でラインナップの幅を広げた。フィニッシュに使用している樽のバリエーションが興味深い。

またトラベルリテール(免税店限定)では、「ベンリアック ザ・テン 3回蒸溜」(バーボン樽、ペドロヒメネスシェリー樽、オーク新樽)、「ベンリアック クォーターカスク」「ベンリアック スモーキー・クォーターカスク」(共にバーボン樽とクォーター樽)という商品構成でさらにファンの関心を刺激している。

さまざまな熟成樽を使いながら、一体感のある商品レンジを構築してみせたベンリアック。レイチェル・バリーにとっては、やりがいのあるプロセスだったに違いない。「ええ、まるで駄菓子屋に行った子供のような気分でしたよ」と笑顔で語るバリーが、一息入れて内省するように語った。

「ここまで来るのは、とても長い道のりでした。でも今ようやく、ベンリアックの未来を指し示すビジョンが確立できたと実感しています」