ボウモア蒸溜所長の流儀【後半/全2回】

June 7, 2018

16歳から生産現場で働き続け、ボウモアのすべてを知り尽くしたデイビット・ターナー氏。スコッチ最古の貯蔵庫で熟成されたシングルモルトウイスキーを、現役の蒸溜所長とともに味わう。

文:WMJ

 

「2003年以降につくられたボウモアのスピリッツは、すべてシングルモルトウイスキーだけに使用しています。これがボウモアの品質へのこだわりを証明する大きな特徴です」

デイビッド・ターナー蒸溜所長が熱っぽく語る。ボウモアでつくられたウイスキーは、ブレンデッドウイスキーのメーカーや、独立系ボトラーに販売されることがない。量より質を追求するシングルモルトのスペシャリストであり続けることが、ボウモアの大きな誇りのひとつである。

蒸溜所長が特別なボウモアのテイスティングセットを用意してくれた。グラスの数は4つ。そのなかにひとつだけ透明な液体がある。樽入れする前の「ニューメイクスピリッツ」だ。通常なら、現地で蒸溜所を訪ねない限り試飲できない熟成前のウイスキー。これは非常に貴重な体験である。

蒸溜所長は、蓋をしたままグラスをグルグル回すように促す。香りが開いて、フレーバーの要素がわかりやすくなるのだ。

「樽入れ前なので、色はクリアで透明。度数はスチルから流れ出したままの68%です。香りはフルーティかつフローラルですが、ボウモア独特のスモーク香は感じられますね?」

口に含むと、舌にスパイスを感じる。そして旺盛な塩気や海藻の味。スモーキーな感触が舌の上に広って、背後には甘みも控えている。これが樽の影響を取り除いたボウモアのスピリッツの特性である。

「今度は水を加えて回してみましょう。そうすることで、香りが完璧に開くはずです」

加水したニューメイクスピリッツには、シリアルや緑の草のような香りが現れた。ボウモア独特のスモーク香も顕著である。フルーツ風味も増して、塩っぽい感触と鮮やかな対比をなしている。

 

定番品「ボウモア12年」と新商品「ボウモア ナンバーワン」を飲み比べ

 

今度は熟成後のボウモアを味わう番だ。最初のウイスキーは「ボウモア12年」。度数は40%で、色はあたたかみのある琥珀色である。使用しているのは、バーボン樽原酒65%とオロロソシェリー樽原酒35%の組み合わせだという。

「ボウモアには極めてユニークな行程があります。それはボトリング前に、樽を全部集めてヴァッティングすること。木の影響が出にくいフォースフィルの樽を使って、6ヶ月から1年ほどマリッジさせます。樽熟成を進めるのではなく、2種類の樽の原酒を馴染ませてミックスするための工夫です」

グラスに鼻を近づけると、スモーク、レモン、ハチミツの香りを感じる。口に入れると舌の上にクリーミーな感触が広がり、ダークチョコレートのようなコクもある。フィニッシュは長くて穏やかだ。キャラメルのような甘みもあり、背後にはボウモア特有のスモーク香が漂っている。

「ボウモアはシーフードとの相性が抜群です。特におすすめなのが生牡蠣。殻を開いてボウモアを振りかけたら最高の味わいになります。海や塩のフレーバーが、ボウモアによって際立つからです」

次のグラスは、日本で発売されたばかりの「ボウモア ナンバーワン」。アルコール度数は同じだが、ファーストフィルのバーボン樽100%である点が異なる。色もアメリカンオークらしく鮮やかな黄金色だ。

「香りはバニラ、ファッジ、海風。もちろん世界最古の貯蔵庫である第1貯蔵庫の原酒も使用しています。味は軽くてフレッシュで、バニラや塩の風味も感じられますね。ピートのスモークの他に、ファーストフィルのオーク材由来のスモーキーさもあります」

 

長期熟成で生まれるトロピカルな風味

 

品質と人材が何よりも大切だと語ったデイビッド・ターナー蒸溜所長。生粋のイーラック(アイラ島人)が、伝統の味わいを未来へと継承する。

そして最後にサプライズが待っていた。名前が伏せられていたウイスキーは、蒸溜所長からの特別なプレゼントだったのである。2008年にボトリングされ、世界701本限定で発売された「ゴールドボウモア1964」。44年もののウイスキーで、度数は42%だ。バーボン樽原酒とシェリー樽を原酒を併用しており、色はリッチなゴールドである。

「香りは、パイナップルやマンゴーのようなトロピカルフルーツ。口に入れると、滑らかでクリーミー。舌の上でフルーツ風味が爆発して、パパイヤっぽい味もあります。ボウモアらしいスモーキーなフレーバーもかすかに残っていますね」

熟成年数が15〜17年になる頃にはピートのスモーク香が弱まり、17年頃から熟したフルーツのフレーバーが強まってくるのだという。それがさらに年月を経ると、トロピカルな印象に変化する。ターナー蒸溜所長は、15年熟成のボウモアが個人的な好みだと明かしてくれた。

「一通り体験していただいたところで、もう一度すべてのウイスキーをテイスティングし直してみましょう。舌がアルコールに慣れ、味わいが変化しているはずです」

「ボウモア12年」を口に含むと、確かに先ほどよりもダークチョコレートやナッツが強い。レモンの印象もより明瞭だ。鼻に抜けるスモークの刺激は弱まっているが、ボウモアらしい穏やかなピート香は健在である。

「ボウモア ナンバーワン」もより軽やかで、フレッシュな味わいになっている。塩や海の香りが際立ち、背後にはバニラとオークの味が漂う。やはりボウモアは、時間をかけてじっくりと味わうべきウイスキーだ。

「この海のようなフレーバーが、第1貯蔵庫の特徴なのです。海抜0メートルの気候がくれたご褒美といってもいいでしょう」

デイビッド・ターナー蒸溜所長が16歳でボウモアの扉を叩いて以来、世界は大きく変化してきた。だがボウモアでのウイスキーづくりは、四半世紀以上を経てもほとんど変わっていない。昔ながらの手づくりを大切にして、伝統を次世代に受け継いでいくことも蒸溜所長の責務だ。シンプルなようでいて、これほど覚悟の必要な仕事もないだろう。

「これまでの蒸溜所長は、だいたい4〜6年で交代してきました。私もすでに6年が経ちましたが、できるかぎりこの職責をまっとうしたいと思っています」

ボウモアは品質と人材を何よりも大切にする。蒸溜所長は最後に改めて明言した。アイラの男は真実しか語らない。このような精神に守られたウイスキーの未来は安泰である。

 

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