「美酒一代」復刊
「鳥井信治郎伝 美酒一代」が復刊された。
日本で初めてウイスキーをつくることに情熱を傾けた人物…サントリーの創始者、鳥井信治郎氏。1983年に文庫版が刊行された鳥井氏の伝記「美酒一代」が、30年の時を経て復刊された。改めてその本の内容をご紹介しよう。
本書は三つの章から構成されている。
第一章は薬種問屋への丁稚奉公で幕を開けた鳥井氏の商人としての人生、洋酒との出会いから始まる「ワイン編」だ。明治初期、薬種問屋は洋酒を扱っており、時代の先端をゆく「ハイカラ」な商売であった。薬の調合にも似た洋酒の調合…鳥井氏のブレンディングの才はこの時点から芽を出し始めていたのである。
30歳にして独立、氏の優れた嗅覚と味覚を生かし品質にこだわりぬいた「赤玉ポートワイン」(現在の赤玉スイートワイン)が生み出され、寿屋洋酒店は急成長していく。同時にデザインや広告の重要性をいち早く察知し、名作と言われるポスターをはじめ、洗練されたセンスで人々の関心を惹きつける。
しかしただ商売に徹していたわけではない。無料診療院開設を機に創立された老人ホームなど、社会貢献事業への取り組みも、この頃から始まっていた。明治・大正・昭和という激動の時期において、大阪から全国へとビジネスを展開するには「モノが良ければ売れる」というだけではなかったのだ。
まだ個人商店の色合いも強い創成期には従業員を家族のように気遣い、厳しくも優しい鳥井氏の人柄を偲ばせる心温まるエピソードの数々が描かれている。
第二章は、洋酒だけでなく食料品や日用品まで手掛けるなかで、ついに念願のウイスキーづくりに着手する「ウイスキー編」である。
当時日本で売られていたのは、高価な輸入ウイスキーで、貴重な外貨が費やされていた。それに対し、なんとしても国産ウイスキーをつくりたいという鳥井氏の洋酒屋としての思いがあった。しかし莫大な費用をかけて蒸溜所を建設し、蒸溜から数年経たなければ製品にならないというウイスキーづくりは、これまでの成功があったとはいえ、大きな賭けであった。
好調だった「赤玉ポートワイン」などの利益をつぎ込んで、周囲の反対を押し切ってまでも国産ウイスキーにこだわり続けたのは「断じて舶来を要せず」…日本人としての誇りではなかっただろうか。輸入品に負けない品質だけでなく、日本人の味覚に合った、それ以上のものをつくる。そこから鳥井氏の挑戦が始まったのだ。
鳥井氏は山崎で熟成する原酒を日々テイスティングし、ブレンドし、出来上がったものをウイスキーの味を知る学者や著名人に持参する。まだ若すぎる、スコッチには及ばないと評される。そしてまた樽を調べ、比率を変え、嗅覚を研ぎ澄まし、ただただウイスキーと向かい合う… その努力の末、ついに日本初の本格国産ウイスキー「サントリーウイスキー 白札」が誕生したのである。
「赤玉」という太陽の下に自らの名前を置いた、夢の集大成。1929年、鳥井氏50歳にして成し遂げた偉業だった。しかしその後も試行錯誤は続く。より良いウイスキーをつくるために、決して妥協しなかった。戦時中は軍からの指示でビタミン入りのウイスキーをつくれと言われたが、「こんなものはウイスキーではない」と断固許さなかったという。鳥井氏は、商人である前に職人だったのだ。
第三章は厳しい戦後の時代にありながら、さらに前進する晩年の姿を綴っている。トリスバー、カクテル教室…国民が気軽に洋酒を楽しめるよう、さまざまなアイデアを取り入れていく。敗戦後の自信を喪失した日本人の心に明るさを取り戻そうと、「赤玉」の日の丸のあかりを灯し続けた。
多くの人は、その華やかな成功だけを見ていただろう。しかしウイスキーが長い熟成を経て完成するように、長い春秋を耐えた果てに得た栄光… 単なる立身出世の物語ではなく、頑なにものづくりにこだわり抜いた鳥井氏の生き様には、ただ感銘を受けるばかりである。
現在のジャパニーズウイスキーの成功は、皆さんも良くご存じのとおり… しかし、心血を注いでウイスキーづくりに挑戦し続けた鳥井氏がいなければ、世界的コンペティションを総なめにするほどのジャパニーズウイスキーの今はなかったことを、決して忘れてはならないだろう。
酒一筋に生きた鳥井信治郎氏の軌跡を記す「美酒一代」、ぜひ改めてご一読いただきたい。
「必死で乗り越えた高い壁は、後に自分の背後を守る砦となる」―その言葉をしみじみと実感する一冊だ。
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