カナディアン・「ミステリー」・クラブ (後半/全2回)

June 26, 2015

謎に迫るべくカナディアンクラブに突撃した本誌英語版記者。しかし真相に近づけないばかりか、次々に現れるウイスキーに心を奪われてしまう。アドベンチャータッチの蒸溜所レポート、後半をお届けする。

【←前半】

ハーカスが禁酒法時代のウイスキーをたっぷり掘り出したちょうどそのときに、「その音」が心を騒がす歌を歌い始めたのは偶然なのだろうか? 我々は蒸溜所内で耳をそばだててみた。1時間に20トンの穀物が粉砕ミルにパイプ輸送される音は、それ自体が紛れもないハム音だが、この謎より前からあるものだ。
カナディアンクラブは3つの原酒のつくり分けを行っている。とうもろこし等を原料にコラムスチルでつくるライトでマイルドな「ベースウイスキー」、ライ麦・とうもろこし・ライ麦芽・モルトを原料にビアスチルで蒸溜した後にダブラーで再溜する、複雑で濃厚なフレーバリングウイスキー「スタースペシャル」、ポットスチルでつくるリッチでフルーティなフレーバリングウイスキー「スター」
カナディアンクラブがユニークなのは、これらのスピリッツをブレンドしてから樽詰めする点だ。プレ・ブレンディングと呼ばれるこの手法は、それぞれの原酒を良くなじませ、まろやかに仕立て上げるための、カナディアンクラブ独特のものだ。しかし、そのどれも、謎の音に結びつくものではない。

我々はブランドセンターでハーカスと落ち合い、まず「カナディアンクラブ 20 年」を味わった。クリーミーなボディに、より複雑で穏やかなフルーティさ。甘く、優雅なオーク感、控えめなコショウを伴う。ソフトで生姜っぽいスパイスが終始あり、フィニッシュまで長く後を引く。素晴らしい味わいだ。この一杯を味わっただけで満足してしまいそうになったが、我々の目的はまだなにも達成されていない。

それから我々はハーカスが用意してくれた6本のボトルに目をやり、「カナディアンクラブ」のスタンダードを注いだ。以前のものよりフレーバーが強くなっているように思える。「レシピを変えましたか?」と私は尋ねた。「いいえ」とハーカスが答える。
「ただ、ビーム社がオーナーとなってから、樽を変えました。再度チャーリングしてバーボンの風味を取り除いたファーストフィルの樽を使い始めています」。
以前よりスパイシーでフルーティだがアルコール感が少ない、エントリー層向けに新しいウッドポリシーを採用したウイスキーだ。焦げたオークとぴりりとしたスパイシーさが支配的で、背後に生姜とプルーンが感じられる。このスパイシーさが、我々を現実に引き戻してくれた。

ハーカスはゆっくりと「ウィンザー・ハム」以上の謎を、ウイスキーとともにいくつも提供してくれた。
その一つは2013年5月のグランドオープンに先立ち、カナディアンクラブの従業員たちが6ヶ月を費やしてブランドセンターを一新したときのことだ。ハーカスが自らアートギャラリーの木の床を磨いた後、疲れ果てたスタッフはドアを施錠し、家路についた。
翌朝、ハーカスが出てくると、その磨いたはずの床に汚れた足跡があり、壁に掛けた絵画が曲がっていた。以来、スタッフは2人ずつ組になって通路を歩くようになったという。首筋に誰かが触れたとか、息を感じたと言う者もいる。空っぽのホールにパーティのざわめきが響くのを聞いた者も。ハム音よりぞっとする。
我々はその気持ちをごまかすように「カナディアンクラブ  トリプル・エイジド(WMJ註:日本未発売)」をグラスに注いだ。「トリプル・エイジド…3回熟成?」と私はわざと話題を変えようと、つっかえながら言う。「いいえ」と面白そうにハーカスが答える。
「カナダの法律では少なくとも3年熟成しなければなりませんが、ここでは9年熟成しています。だから、トリプル…3倍という意味です」。ハーカスが微笑む。
ビッグでクリーミー、たっぷりのトフィーを思わせるウイスキー。カナディアンクラブの特徴的なフルーティさを伴う。鋼鉄のようなライ麦がかすかに、そしてコショウっぽい辛さとそこはかとないタンニンの中にシャキッとしたオークのフィニッシュ。よし、まだウイスキーを味わう余裕はあるようだ。

しかし、「かつて、ハイラム・ウォーカーのセールスマンをしていたジョン・マクブリッジは、豊かな口ひげが特徴の身なりの良い紳士でした」とハーカスは続け、爆弾を落とした。
「私が夜遅くオフィスから帰宅するときに出会ったのはまさに彼の幻です」。マクブリッジは、彼女に頷いてからスッと消えたと言う。我々はもう一度部屋を見渡した。何もない。ハーカスがまたウイスキーをなみなみと注いでくれた。

次に、ハム音は酔っ払った天使たちの声なのではないかと考えた我々は、20分ほどのところにあるパイク・クリーク貯蔵庫に向かった。それぞれ12万5,000丁の樽を入れた倉庫が16棟もあれば、天使たちも忙しい限りだ。近くのカエデの木はアルコール好きのカビ菌で黒光りし、蒸溜所が繁栄していることを示している。
我々は黒ずんだ樽の列に挟まれた通路を抜けて、何事かあれば直ちに退散する構えで超常的な存在の印を探し求めた。何もない。ハーカスがヴァリンチを樽に突っ込み、70%のバレルサンプルをたっぷり取ってくれた。彼女はウイスキーメーカーとしての客のもてなし方を心得ている。そして、恐怖心に打ち勝つためのウイスキーの飲み方も。

追求を続け、ウォーカーのスピリッツの宿った蒸溜酒(スピリッツ)で元気付けるほどに、我々の冒険はかつてのジェラルドのチャレンジを思わせる様相を呈してきた。このまま何も真実を掘り当てずに終わってしまうのか? 「ウィンザー・ハム」の謎を解くのに失敗しただけでなく、むしろ多くの謎を掘り起こしている。ハイラム・ウォーカー自身が我々の調査を妨害したのか? いや、この調査を邪魔したのは、彼ではなくそのウイスキーかもしれない。だが我々にはそのウイスキーが与えてくれる勇気が必要だったのだ。

ウォーカービルを去りながら、ふたりとも自然にジョセフ・ルイス・マックエヴォイの「カナディアンクラブの歌」のリフレインが口をついて出た。「カナディアンクラブよ…大いに、ゆっくりと飲むぞ。さぁ、飲もう!」 。
全くその通り! 生半可な飲み方よりも、大いに飲むほうが頭は冴えわたる。我々は密かにお互いに目をやり、黙って待った。「ウィンザー・ハム」は聞こえてこない…ただ、カナディアンクラブの芳醇な琥珀色の思い出が我々を包み込むばかりだった。そう、それが真実だ。

蒸溜所インフォメーション
蒸溜業者:ハイラム・ウォーカー & サンズ
蒸溜所生産量:年間4,500万L
樽:リチャーしたファーストフィルバーボンバレル(4回使用)、一部はシェリーバット仕上げ
グレーン:トウモロコシ、ライ麦、ライ麦モルト、大麦モルト、それぞれ個別に蒸溜

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