ウイスキークッキング・2 【鴨のサラダ】
ウイスキーを使った料理をご紹介していく連載「ウイスキークッキング」。第2回はアンゴスチュラ・ビターズとともに、鴨料理を作る。
レノン&マッカートニー。ビクトリア&ベッカム。アイラの潮風&ウイスキー。
ぴったりのカップルに説明は要らない。だが、「ドリンク」については、もう少し深く掘り下げなければならない。
単純に「飲み物と食べ物は相性がいい」と言ってしまっては、「呼吸することと生きていることは相性がいい」と言っているようなものだ。この二者は深く結びつき、お互いを支え合っているので、片方が欠けた世界など想像するのも難しい。
例えば、ノルウェーの漁師に「スコッチ」という言葉を言ったら、彼はおそらくヘビーな、オイリーかつピーティな昔ながらのアイラ島のウイスキーを思い浮かべるだろう。しかし、同じ言葉を香港の超一流ホテルに滞在しているニューヨーカーに言ったら、甘く、ハチミツのようなスペイサイドモルトを思い浮かべるかもしれない。私たちひとりひとりが、それぞれの経験に基づいて、耳にするすべての言葉に対して異なる解釈をしているのだ。
それでは「フード」という言葉はどうか? 何が想起されるだろう? 日本にいる人なら、刺身かもしれない。あるいは、バーボントレイルを終えて飛行機を降りたところなら、バーベキューの大きな肉の塊だろう。
ここでそれを一歩進めてみよう。「材料」という言葉はどうだろう? この記事を読んでいる皆さんそれぞれが世界のどこの出身かによって、あるいは同じ国でもどの地域の出身かによってさえ、この言葉は全く異なる意味を持つ。しかし、確実に言えることは、「材料」と言われて液体を思い浮かべる人はいそうにない。
だが、スープ、ドレッシング、油、醤油…液体は料理に不可欠のものであり、キッチンには見事なバーの酒棚のように瓶入りの調味料がずらりと並んだ戸棚があるかもしれない。ホットソース、ウースターソース、あのとき誰かが旅先で買ってきた調味料…実際、特定のもの以外はなかなか減らないのが現実だ。
しかしこんな状態にうんざりしたら、料理にもう少しばかり、そう、「酒の力を借りた元気」をつけるときかもしれない。
まず、ウイスキーのボトルを掴んで、キッチンまで引っ張ってゆく。ウイスキーは風味がぎっしり詰まっている、世界最高の飲み物のひとつだ。グラスに入れるだけがベストとは限らない。
アイラ島を訪れてジュラ海峡の傍らに立ち、フライパンの中で泡立つバター、レモンジュース、そしてたっぷり注いだアイラモルトと共に新鮮なホタテが焼けているのを想像したら、ウイスキーが料理に役立つことを否定する人はいないだろう。
料理に風味を加えるためにボトルキャビネットをひっかき回しているあなた、一番忘れられているものにしてはどうだろう? アンゴスチュラ・ビターズだ。ウイスキー愛好家を自負する人であれば、コレクションの中にあるかもしれない。しばらく使っていなかったのなら、蓋をとって嗅いでみるといい。絶対に忘れられない芳香を感じることだろう。
多くの古典的なウイスキーカクテルの材料でありながら、料理の重要な決め手にもなる。本当だ。
トップシェフで、テレビ番組「サンデーブランチ」の司会を務めるサイモン・リマーが、このビターズを使ったレシピをまとめているほどだ。
リマーは食べ物と飲み物の組合せを知っている人間として(彼は様々な料理に合わせるために独自にビールをも取り揃えている)、ウイスキーについてこう言っている。
「ウイスキーの場合、私は特にスモーキーなものに惹かれます。あの強い風味が大好きなんです」
リマーによると、彼とそのチームはウイスキーが料理に実に多様な風味を与えることに魅了され続けてきた。「私のレストランで、私たちはゼリー作りに少し取り憑かれてしまい、オレンジとウイスキーのゼリーといったものを試しました。それから、サーモンをウイスキーで漬けましたが、これは素晴らしかった」
好みのカクテルがオールドファッションドとあっては、リマーが実験的なレシピの主要材料としてアンゴスチュラ・ビターズを挙げたのも当然に思えた。彼が創作したこれらのレシピの一部は、ブランドのウェブサイトとyoutubeで間もなく発表される予定だ。
結果的に、ヴィクトリア・グレアはリマーが一番好きなカクテル、オールドファッションドからインスピレーションを得て、レシピを創作した。忘れないで。ドリンクキャビネットの奥に並ぶボトルたちのことを。パンチの材料にするしかないわけではありません。料理の材料としても楽しんでみて!
「鴨とウイスキーチェリーのサラダ」
レシピ<4人前>材料:
サラダ
・鴨胸肉 (皮付)2枚
・サラダ用レタス類
(ロケット、クレソン、ラムズレタスまたはホウレンソウ) 200g
・チェリートマト 10個(半分にカット)
・分葱 4本(輪切り)
・フレッシュチェリー 250g(半分に切り、種を取る)
・アンゴスチュラ・ビターズ 大さじ2杯
・バルヴェニー12年 ダブルウッド 大さじ2杯ドレッシング
・オレンジ 1個(皮はすりおろし、ジュースは絞って分けておく)
・オリーブオイル 大さじ3
・ディジョンマスタード 大さじ2
・塩、胡椒 少々
手順
①半分に切って種を取ったチェリーをボウルに入れ、ウイスキーとアンゴスチュラビターズに2時間程度漬け込む。
②葉物野菜、トマト、分葱を混ぜて皿に盛る。
③ ドレッシングを作る。オリーブオイルとオレンジ1個分のジュース、マスタード、塩胡椒を混ぜる。
④ 鴨の皮部分に軽く切れ目を入れ、塩胡椒をして揉み込む。熱したフライパンに皮の部分を下にして入れ、焼き色がつき皮がパリッとするまで(5分ほど)焼く。
裏返して、レアが好きならあと5分ほど、ミディアムでは10分、ウェルダンなら15分ほど、焦げつかせないように焼く。
⑤焼きあがった鴨をまな板にのせて5分ほど休ませ、スライスする。①のチェリーを②の上に、さらにその上に鴨を盛りつける。
⑥ ドレッシングをかけ、すりおろしたオレンジの皮を散らす。
今回は「バルヴェニー12年 ダブルウッド」を使っている。
最初はバーボン樽で熟成されているためウイスキーの特性が和らげられ、その後のシェリーカスクフィニッシュがチェリーの甘さと土っぽさを引き出している。そして、アンゴスチュラ・ビターズ。カリブ海料理にたっぷり使われるこのビターズは、オールドファッションド・カクテルを彷彿させながら、ここでも他の材料の自然な風味を高めている。