ウイスキークッキング・7 【ティースモーク・サーモン】

January 7, 2015

ウイスキーをさらに美味しくしてくれるフードをご紹介する連載「ウイスキークッキング」、第8回目は王道のスモークサーモン。しかしウッドチップではなく紅茶の葉を使う手軽な方法なので、ぜひお試しを。

まるでエニッド・ブライトンの、古典的な童話の絵本の中にいるようだ。
私たちはアイルランドのコーク州を流れるブラックウォーター川の土手に座り、固ゆで卵とチャツネ添えローストチキンのランチを、ステンレス製フラスコに入れた濃い紅茶で流し込んでいる 。紅茶はもちろん、アイルランドのNo.1ブランド「バリーズ」だ。
土手の向こうでは川面が陽炎のようにちらちらと輝き、ときおり水流が渦を巻いて穏やかな水面を波立たせる。我らがギリー(WMJ註:スコットランドやアイルランドでハンティングやフライフィッシングを手ほどきするガイドの意)、ノーマンが慎重かつ念入りにロッド(釣り竿)を組み立てる。
2本は完熟プラムの濃い紫色、もう1本は蛍光グリーンだ。彼が大切に持ち歩く頑丈な箱の中には、色とりどりの羽根や糸やビーズのフライ(毛針)が華やかに収まっている。

短いバシャッという水音に注意を引かれる。「多分、マスでしょう」とノーマンが軽くいなす。「マスを釣ることもあるの?」と尋ねると、彼は否定する前に少し間を置いた。私は愚かな質問だったとちょっと後悔する。相手は自分の技術について情熱的に…静かな、意思を持った熱意を込めて話す人なのだ 。
「魚の王者だけです」と彼はきっぱりと言った。それが今日の目的…私たちはサーモンを釣りにここに来ている。ブラックウォーター川のインクのように黒い深みにはサーモンがたくさんいて、流れ動く表面の下に心地よく身を落ち着けている。川は息づき、抱きかかえているようだ。私たちは防水ズボンをはいて、中に入る。

フライフィッシングには3つのルールがある、とノーマン。
まず何よりも肝に銘じておくべきことは、「重力は下向きである 」ということだ。当たり前だが、意外と忘れてしまう。
「ロッドが垂直になるまで加速する」。ノーマンは「キャスト(ロッドを振ってラインを投じること)する前に、フライラインがピンと張っていることを確かめる。緩みは大きな敵だ」と説明する。
そして「フライラインは、止まるとロッドが向いている方向に行く」。
私がフライラインのもつれをほぐそうとして屈むと、ノーマンがもうひとつ付け加えた。「絶対に魚に頭を下げないこと」。

数時間が過ぎ、釣りが醸し出す穏やかで物憂い優雅さに満たされて、全てがゆっくりになる。これはセラピーのひとつにに違いない。私は時間を、締切りを、半分完成した冬のメニューを忘れた。
釣りのリズムに川の引き潮と流れが加わってシンコペーションのリズムをつくり、私は川底の岩場をしっかり踏みしめて腰まで川に抱かれている。フライラインは緩やかなループや渦を描いて頭上を飛び、川は野性的に生き生きと急いで通り過ぎてゆく。私と川、そしてプル、ポーズ、キャストの一定した繰り返し以外に何もない。

少し前から降っていた小雨が上がり、魚が時折住処から飛び上がっては、穏やかな音をたてて川面を破る。
川は変化し、季節は移ろい、天候も変わるが、サーモンは毎年戻ってくる。生まれたところで産卵するから、ここ、命を授かったブラックウォーター川に戻ってくるのだ。
陽が落ち始め、川に沿って釣りをしていると水面で影が踊る。サーモンが毎年戻ってくることにはどこか心地よさがある。望郷の念の不器用な暗喩か。フライラインに引きがあり、夢想が破られる。リールを巻き上げるが、サーモンはフライを外して逃げ、私はまた繰り返す―プル、ポーズ、キャスト。

残念ながらこの日はワイルド・サーモンを手にすることはできなかったが、見事釣り上げることが出来たらこれでと思っていたレシピをご紹介しょう。紅茶を使ったスモークサーモンだ。

【ウイスキークッキング・8に続く】

「ティースモーク・サーモン」

レシピ:
サーモン(皮をとったもの) 300g
白米 90g
紅茶の茶葉(フレーバード・ティーなどもお好みで) 30g
三温糖 100g
シーソルト 大さじ2
油(ラックに塗る)
好みでスターアニス、シナモン、レモンの皮、フェンネルなどのスパイス

道具:
ロースト用トレイ、または大きな鍋
アルミホイル
トレイや鍋よりも一回り大きい金属製ラック

手順:
1.サーモンの表面(両側)に塩をなじませ、1時間ほど置く。
2.オーブンのトレイにぴっちりとアルミホイルを敷く。
3.砂糖、米、紅茶の茶葉をよく混ぜ、トレイの最下段に均等に敷き詰める。
4.オイルを塗ったラックをトレイの上部に乗せ、サーモンをラックの中央に乗せる。
5.BBQまたはオーブンに着火し、中火で10~15分(サーモンの厚さによって調整)燻す。
 厚さ5cm以下のサーモンでおよそ10分程度。
6.火を消して、風通しの良い場所でサーモンの乗ったラックを取り出す。
7.マッシュポテトや豆、レモンを添え、ラフロイグ・クォーターカスクカネマラ12年と一緒に。

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