古き良き時代のウイスキーづくりを復活させるため、トンプソン兄弟の挑戦は続く。蒸溜所だけでなく、運営するバーも特別な伝統回帰と実験精神を見事に両立させている。

文・ガヴィン・スミス

 

効率重視のウイスキーづくりとは一線を画し、1960年代以前の風味を取り戻そうとしているドーノック蒸溜所。運営者の1人であるフィリップ・トンプソンは、使用される樽にもこだわっている。

「これまで130本に樽詰めしました。そのなかには50Lのオクタブ樽が100本ありますが、これはクラウドファンディングの出資者用です。オーガニックであることにこだわっており、バット、ホグスヘッド、シカゴにあるコーヴァル蒸溜所から取り寄せた樽も揃えました。現在の貯蔵庫は、冷凍トレーラーを改造したものです。温度管理は外気の気温まかせなのですけど」

トンプソン兄弟の挑戦は、ひとまず第1ステージを終えて大きな成功を収めている。おかげで業務の拡張が計画されているほどだ。新しい蒸溜所は、スレートふき職人の庭になりそうだという。場所はドーノック城からも遠くない。

現在クラウドファンディングの第2弾を準備中だが、今度は地域内で65万ポンドを調達しようという大スケール。この資金で新しい事業所の土地を購入して再開発し、生産量をさらに拡大して、ショップとテイスティングルームも整備する計画だ。フィリップ・トンプソンが語る。

「1口2,000英ポンドで、50Lのオクタブ樽(バーボン樽)。1口4,000英ポンドなら100Lのバーボン樽が出資者に配当されます。オロロソシェリーでシーズニングしたアメリカンオークのオクタブ樽も用意していましたが、もう完売してしまいました」

大きさの異なる多彩な樽が、所狭しと並んでいる。貯蔵庫は冷凍トレーラーを改造したユニークなもの。

既存の設備を移動して、新しいレシーバーも導入する。だが工程はまったく変えずに、従業員の負担だけを減らすのが目標だ。

「直火式だと予熱にかかる時間が長すぎるので、新しい場所では新たにオイルヒーティングを採用するかもしれません。そうすればアランビックの初溜釜2基とアランビックの再溜釜1基という体制になります。さらには特注で鉄製の貯蔵庫を造る計画があります。現在使用している貯蔵庫と同様の環境温度を生み出せるものにします」

新しい蒸溜所での作業は、2018年の末までには始まる予定だ。フィリップ・トンプソンは語る。

「これから8〜9ヶ月は、オロロソシェリーやペドロヒメネスのモンティージャでシーズニングした樽に詰めて蒸溜所用のストックとし、新しい蒸溜所に移ったら出資者用と蒸溜所用の割合を1:1にしていこうと考えています。クラウドファンディングのときに、3年熟成のウイスキーを100人の出資者のために発売する約束もしました。その頃には、おそらく蒸溜所オフィシャルのシングルカスク製品もご用意できるでしょう。販売する製品をすべてシングルカスクの限定品にできたらいいなと考えています。ニューメイクスピリッツも少し販売しますよ」

伝統回帰を志向したドーノックのアプローチは、彼らの実験精神と見事に融合しているようだ。フィリップ・トンプソンの言葉も弾む。

「これまでに実現した面白いことのひとつは、ジェイコブがダンロビン城から調達した地元産の大麦で仕込んだこと。昔ながらの石臼と水車の動力で脱穀して、10マイルしか離れていないゴルスピーの地元産ピートで製麦したんです。蒸溜も済ませました。こんな試みはとてもやりがいのあることなので、どんどん推進していきたいと思っています」

 

古城バーはスコットランド屈指の人気

 

ドーノック城のウイスキーバーはスコットランド屈指の人気を誇り、数々のアワードにも輝いている。2014年と2016年には「スコティッシュ・ライセンスト・トレード・ニュース」でウイスキーバー・オブ・ザ・イヤーを受賞。「Whisky Base」のウェブサイトではウイスキーホテルの第1位にランキングされている。

フィリップ・トンプソンは、このバーの魅力的な品揃えについても説明してくれた。

「現在ここでいちばん古いウイスキーは、オークニーのストロムネス蒸溜所がつくったシングルモルト『OO』です。おそらく1900〜1910年のボトリングでしょう。1杯350英ポンドで量り売りしていますが、とてもお値打ちだと思っています。訪れるたびに新しいボトルがあり、いつも適切な価格で提供できるのが理想。ここで飲みたいと自分たちが思えるようなウイスキーバーにしようと頑張っています」

とはいえバーではコレクションの大きさを誇りたいわけではない。魅力はコレクションの数字ではなく質である。

「1970年代の面白いボトルがありますよ。多くがスコッチモルトウイスキー・ソサエティによるボトリングで、80年代に閉鎖されたグレンモール、グレンアルビン、ミルバーンのトリオは自慢です。ソサエティとは、現在「パートナーバー」として提携しるんです」

多くの賞に輝いているドーノック城のバーは、スコットランドでも屈指の人気。この店のコレクションも兄弟が管轄している。

ジャパニーズウイスキーもかなり力を入れており、秩父蒸溜所のシングルカスク商品も8種類揃っている。

「店に置いてあるウイスキーは、全部で300〜400本くらい。オークションや個人的なルートから入手したり、年に一度イタリアで買い付けたりします。自宅には600〜700本のボトルがあって、随時店に移動させることもできます。バーでよく注文が入るのは地元のブルブレアやクライヌリッシュですが、クライヌリッシュなら素晴らしいシングルカスク商品がたくさんありますよ」

ボトルの購入だけでなく、蒸溜所から購入した樽を管理してオリジナルのシングルカスク商品もボトリングしている。

「ちょうど1989年のブナハーブンと、2005年のアイラシングルモルト(蒸溜所名は非公開)を発売したところ。ベッシー・ウィリアムソンの写真をラベルにデザインしているんです。年間に12~14樽をボトリングしていて、海外のコレクターから引き合いがあります」

サザーランドでいちばん新しい蒸溜所は、世界のコアなファンの心をすでにしっかりと掴んでいるようだ。