実験的な穀物原料、蒸溜方法、樽材などで新しい領域を開拓するメーカーたち。イングランドで生まれるアイデアは、ウイスキーの未来を先取りする最前線でもある。

文:ヤーコポ・マッツェオ

 

ケントにあるコッパーリベット蒸溜所も、2022年になって革新的なウイスキーの第3弾を発売している。アルコール度数42%の「マストハウス・グレーン・ポット&コラム・ディスティルド」は、蒸溜所に近いシェッピー島で2016年に収穫された穀物原料を使用している。

この穀物の内訳は、ベルグラビア種の大麦モルト、クレア種の小麦、アランテス種のライ麦だ。同じ比率のグレーンビルが、コッパーリベットの「ドックヤード・ジン」「ヴェラ・ウォッカ」「サン・オブ・ア・ガン イングリッシュ・グレーン・スピリッツ」にも使用されている。

コッパーリベット蒸溜所のチーム。大麦モルトだけでなく、さまざまな穀物原料で新しいグレーンウイスキーの風味を切り拓いている。

商品名から推察できるように、「マストハウス・グレーン」のもろみは2回蒸溜される。1回目はポットスチルで、2回目はコラムスチルだ。コッパーリベットからは、次いで「シングルモルト・ポット&コラム・ディスティルド」も昨年夏に発売された。それに先立って、2020年11月には蒸溜所初のウイスキーである「マストハウス・ダブルポットディスティルド」もリリースされている。

同じ2020年には、デヴォンでダートムーア・ウイスキーも創業された。もともとコニャック用に製造された1966年製の蒸溜器を使用している変わり種だ。ダートムーアは2015年にグレッグ・ミラーが創設し、現在はマスターディスティラーのフランク・マクハーディが生産全体を統括している。

フランク・マクハーディは、キャンベルタウンのスプリングバンクとアイルランドのブッシュミルズで50年もの経験を誇るベテランだ。ウイスキーの仕込み水は地元の水源を利用し、原料の大麦は蒸溜所と同じ道沿いにあるプレストン農場から調達している。

製麦はサマセットにあるウォーミンスター・モルティングズでおこなわれる。ウォッシュ(もろみ)はカスクエールの生産で知られる地元のダートムーア醸造所がフランク・マクハーディの注文通りに醸造してくれる。

ダートムーアのポートフォリオは、現在のところ6商品だ。そのなかにはバーボンバレル、ボルドーワイン樽、オロロソシェリー樽でそれぞれ熟成されたシングルカスク商品も含まれる。まもなくバーボン樽熟成の「ファウンダーズ・リザーブ」も加わり、ポートフォリオの充実が図られる予定だ。
 

新時代を切り拓く型破りなアプローチ

 
シュロップシャーにあるヘンストーンも、2021年1月に最初のウイスキーをリリースしている。蒸溜所の創業は2017年で、所在地であるオスウェストリーはウェールズとの国境から東にわずか数キロだ。創設メンバーは、クリス・トラーとアレクサンドラ・トラー。さらには共同創設者であるシェーン・パーとアリソン・パーも、保有するストーンハウス醸造所のスペースを蒸溜所用に提供している。

デヴォンのダートムーア・ウイスキーは、スコットランドから経験豊富なフランク・マクハーディを招聘。個性的なシングルカスク商品にも注目が集まっている。メイン写真は創設者のグレッグ・ミラー。

ヘンストーンによる最初のリリースは、バーボン樽熟成のシングルカスク商品だった。数量わずか400本限定ということもあり、発売と同時に売り切れた。現在は第2弾の商品を販売中で、今後もさらに多くのウイスキーが発売を予定されている。蒸溜所チームは、バーボン樽、オロロソシェリー樽、ペドロヒメネス樽を組み合わせてニューメイクスピリッツを熟成しているが、その他にもまだ秘密の熟成樽はあるようだ。

イングランドの新興蒸溜所が初めてのウイスキーを発売するニュースは、これからもまだ続いていくことになるだろう。ヨークシャーにあるクーパーキング蒸溜所も現在はウォッカとジンのシリーズのみを販売しているが、今年の秋に最初のウイスキーが熟成開始から3年を迎える。第1弾のリリースは、2023年の夏を見込んでいるようだ。

ヨークシャーの天使たちが時を刻んでいる間に、待ちきれない蒸溜所チームは容量100Lのバーボン樽(ファーストフィル)とコーンウイスキー樽(セカンドフィル)で1年熟成したモルトスピリッツをボトリングした。この限定商品は、クーパーキングのファウンダーズクラブ会員のみが購入できる。さらには容量100Lのフレンチオーク赤ワイン樽で2年熟成したモルトスピリッツも発売さる見込みだ。

クーパーキングは地元産の原材料を使用することにこだわっており、可能な限りサステナブルな生産体制を目指している。パッケージに使用するのは、FSC(適切な森林管理)認証を受けた紙や再生紙でできた段ボール。ウイスキー生産に必要なエネルギーも、100%グリーンエネルギーで賄っている。

クーパーキング蒸溜所の年間生産量は、容量100リッターの樽が50本分。アメリカンオーク樽の調達先はケンタッキーのMBローランド蒸溜所だ。そしてフランスからもさまざまな樽を仕入れている。共同創設者で社長のクリス・ジョームが語る。

「フレンチオークの樽は、NEOC(STRに似た再生樽)、赤ワイン樽、コニャック樽、アルマニャック樽、デザートワインの熟成樽などの組み合わせで使用しています」

ヨークシャーで、クーパーキング蒸溜所を設立したアビー・ニールソン博士。サステナビリティにこだわったウイスキーを2023年の夏に発売する予定だ。

クーパーキングのウイスキーは世に出るのは1年後だが、それよりもっと早く楽しめるウイスキーが他にある。それがサーカムスタンス蒸溜所による初めてのウイスキーだ。サーカムスタンスはブリストルにある独立独歩の蒸溜所で、近頃約250本のウイスキーを発売する予定が発表されたばかりだ。

このウイスキーは今年の秋に発売され、繊細な香りを研ぎ澄ませながらもリッチなフレーバーにまとめあげられている。このウイスキーの原料は85%が大麦モルトで、残りの15%が未製麦の大麦だ。熟成にはファーストフィルのバーボン樽とスパニッシュオークの新樽が使用されている。

2018年の創業以来、サーカムスタンスは実に多彩なグレーンスピリッツを生産してきた。それぞれが興味深く、個性にあふれ、革新的な存在として注目されている。ウォッシュの発酵にも、さまざまな酵母が使用されている。ベルギー風のセゾンビール、英国風のエール、ミード用の酵母株などもその一部だ。

そして使用する穀物原料といえば、大麦モルト、ライ麦、小麦、未製麦の大麦、オーツ麦、コーン、米、さらには古代の穀物やダークビール用のモルトなどだ。サーカムスタンス蒸溜所は、変わり種の樽で熟成を実験するのに熱心なのである。樽材の種類、サイズ、産地などにバリエーションをもたせ、スペイン、アンデス、イングランドのオーク材でグレーンスピリッツを熟成している。

サーカムスタンスのリアム・ハートは、「実験中のウイスキーは、すべてこれから10年くらいでリリースされます」と語っている。どれも数量限定のシングルカスク商品になる予定で、今年の第2弾以降にはライ麦や小麦が原料のウイスキーが発売される見込みだ。
(つづく)