スコッチウイスキーとエコロジー 【その1/全3回】
より効率のよい生産と環境への配慮のために、ウイスキー業界が選んだ手段。ガヴィン・D・スミスが調査する。
シングルモルト・スコッチウイスキーの製造は理論的にはとても単純な工程であり、使用する原材料も少ない。基本的に必要なものは水、大麦、酵母、それにオプションとしてピートだ。
その方が経済的という理由にせよ、蒸溜業者は常にできるだけ資源を効率的に使おうとしてきたが、2009年からスコッチウイスキー協会(SWA)の環境戦略が始まり、「エコ方針」とでも言うようなものの認識、開発、実施がさらに奨励されている。これには大麦の生産とモルティングから水とエネルギーの使用、樽用木材に関する長く継続可能なプラン、さらには水の処理と廃棄や再利用可能な包装材料までスコッチウイスキーにまつわるすべての事項が含まれる。
今回はそのウイスキーを構成する、自然からの恵み― 水、大麦、ピートについて、スコッチ業界がいかに心を配っているかを、各項目についてご紹介しよう。ウイスキーづくりの意外な側面…味や品質だけではなく、次世代へ繋げていく意識の高さについても、職人たちのこだわりの一つとして知っていただければと思う。
1. 水<Water>
最初から始めよう。蒸溜業者にとって最も重要な要素は「信頼できるきれいな水源」で、スコットランドのあらゆる蒸溜所はそのような水源のある場所を基盤としている。水は大麦のモルティングとマッシングに不可欠な上、冷却のためにも大量に必要だ。事実、スコッチウイスキー蒸溜業者が使用する水全体の約80%は冷却のために「一時的に借用」されて、最終的には水系に戻される。
ウイスキーづくりのための水は試錘孔や井戸、公共給水を水源とし、河川は冷却水用に使われることが多く、水に関連したスコッチ蒸溜業者の行動はスコットランド環境保護庁(SEPA)が監督している。
シーバス・ブラザーズ社の蒸溜所マネージャー、アラン・ウィンチェスターはこう話す。
「初期の蒸溜業者は大小の川の傍に蒸溜所をつくり、冷却用と機械を動かすための水力を得ていましたが、今日では冷却に使用するだけです。施設内に引いてよい水量、川に戻す際の温度について、SEPAは厳しく管理しています」
「14ヵ所の蒸溜所を抱える大手として、当社は水の使用にとても気を遣っています。スコッチウイスキー産業は歴史が長く、水は無駄にされていません。私たちは常に水の使用を最小限に抑えようと努力しています。昔は乾燥する夏を除き、水は蒸溜業者にとって貴重なものとは見なされていませんでしたし、どのみち夏は通常、蒸溜所は休止していました。今は可能な限り熱を再利用していますから、少ない水で済みます」
現代のスティル・コンデンサーは以前のものより水の使用量が少なく、その水も「閉水路」に保持して再利用できる。一方、エルギン近くのローズアイルにあるディアジオの最新の蒸溜所は大変に環境に配慮して設計され、ここの水需要の約95%は水回収プラントから供給されている。
節水が重要なのは蒸溜段階だけではない。ファイフにあるディアジオ社のリーベン包装工場では2006年以降、水の消費量を12%減らし、さらにボトリング工程で使われる容器とパイプに効率的な「定置洗浄」(CIP)手順を用いることで年間22万2,000リットルの節水が見込まれている。
明らかに、節水方策は有効性が証明されつつあり、SWAの発表では2010年のウイスキー業界の水総使用量は3,702万4,340リットルと、主に水量計の設置により2008年から40%減少している。2010年の水の純使用量(環境に戻された冷却水を除く)は2007年から20%減少した。
【その2に続く】