冒険好きなディスティラー その1【全4回】

November 12, 2012

動きを速める米国のクラフトウイスキーづくり。そこで使われている「代替」グレーンを見てみよう(第1回/全4回)

スコッチウイスキー業界はモルトを使用し続けているが、今やその他世界の蒸溜所では、伝統的なグレーンへの忠誠を離れた試みが始まっている。そして、素晴らしい結果を示しているところもある。ウイスキーマガジンはまず、あらゆる代替グレーンを用いた実験を重ねているコルセア蒸溜所ダレク・ベルに、最新の状況と、何が優れた蒸溜酒を作るための鍵かをたずねることにした。

「なぜ代替穀物を使うのか」

ダレク・ベルによるレポート。

現在大部分のウイスキー(とビール)は、4種類の穀物を使って作られている。大麦小麦ライ麦そしてトウモロコシだ。もしウイスキーの視野を拡大したいと望むなら、ディスティラーたちには、考慮に値する興味深い穀物がある。あるものは古く、それどころか前世紀からの代物で、またあるものは新しい穀物。これらを採用する理由には、味、実用性、コスト、あるいは安定供給性などが挙げられるだろう。ウイスキーの新しいレシピを案出したり、古いものを変更したりしようとするときに、これらの穀物は最終的なスピリッツにより多くのオプションを与えてくれるのだ。ソバ、キビ、およびジュズダマのように、いくつかの穀物は既に他の文化ではアルコール飲料に用いられてきたが、こうしたものは西洋文化の中では商業的には用いられてこなかった。それではいくつかの「代替」グレーンを詳細にみてみよう。

 

オーツ麦


オーツは中世には主要な醸造用穀物であったが、今ではその地位を失っている。オーツはビール醸造には長い歴史を持っているものの、ウイスキー蒸溜の歴史の中には事実上存在していない。不思議な事だ。ウイスキーは蒸溜されたビールじゃないか。蒸溜家にとって、ビールとは単にその真の潜在力に達していないウイスキーに他ならない。良いビールがあれば、良いウイスキーをつくることができる。そうだろう?
オーツは高レベルのタンパク、脂質、脂肪を含み、ウイスキーの口当たりを変える粘性を持ち、麦芽汁よりは微かなオートミールのような好ましい甘さを与えてくれる。オーツはまた、非常に安価で容易に入手可能である。これを蒸溜したとき、私たちは何が抽出され、また何が抽出されないのかを知らなかった。実際、オートミールスタウトビールのようなクリーミーなボディが蒸溜液の中に現れたときには、とても驚きだった。

 

ミロ

しばしばミロと呼ばれるソルガム(モロコシ)は、甘いシロップにすることができる樹液、または穀物の両方を産生することのできる植物である。私が知るかぎり、樹液からラム酒、穀物からウイスキーの両方を産出できる可能性のある唯一の植物である。燃料用エタノールのために潜在的に重要な作物として研究されてきた。この穀物は比較的安価で、調達しやすく、とても扱いやすい。なお発芽させた場合、ミロは大麦に比べて遥かに低い糖化力しか持っていないため、外部から糖化酵素を追加してやる必要がある。

 

キビ


キビは、食用のために世界中で栽培されている小粒の穀類である。過酷な環境でも良く生育し、干ばつに優れた耐性を発揮する。このため主作物が不作の際に、すばらしいサバイバル食料となる。私の故郷テネシー州には、トウモロコシが収穫できなかった際にキビを用いたという密造家の口伝がある。当時キビはしばしば水鳥を引き付けるために猟師たちによって植えられていたが、そのたくましさと風味によっても高く評価されたのだ。この時代の多くの人々が、トウモロコシを用いるよりもなめらかで優れた密造酒だったと信じていた。だが、取り扱いは難しそうだ。これが北米でこれまで蒸溜酒への商用利用が進まなかった理由だと思われる。キビはいくつかの文化ではビールを醸造するための伝統的に重要な穀物である。例えばアフリカの多くの文化で使われている。キビは最も調達が容易な穀物で、とても安価であるが、その小ささのために最も製粉が難しいもののひとつである。ごく最近まで、キビは発芽させていないものだけが用いられてきたが、モルト業者であるコロラド・モルティング・カンパニーが地元の醸造会社向けに発芽キビの生産と販売を始めた。

 

キノア

キノアは南アメリカのアンデス地域産の穀物である。約7000年前にはその地で栽培されていた。歴史的にはチチャ(蒸溜されていない、低アルコール発酵飲料)を作るために使用されていた。キノアは、他の穀物に比べると、実際にはビーツやほうれん草に近いものである。キノアは、ウイスキーに土臭さとナッツの風味を加味する。キノアには、赤、黒、または白の種がある。赤と黒は、より多くの特徴を持っているものの、入手はより困難。容易かつ素早く発芽するため、他の穀物に比べてモルトとして利用することが簡単だ。トウモロコシと同様に、混合マッシュあるいはボイル工程を必要とし、より長い時間がかかる。
私達がコルセア蒸溜所で作った代替グレーンのウイスキーのなかでも、キノアは味の面で最高のフィードバックを得ることができた。

 

スペルト小麦

スペルト小麦は、青銅時代から栽培されている、現在の小麦の古い親戚である。これは、健康食品推進派の間で人気の高いナッツの風味を持ち、過去20年間に劇的に人気が高まった。
発芽させた場合、澱粉を糖化させる能力において小麦と同等の能力を示す。小麦に比べてグルテンの量が少なく、粘性が低い。ウイスキーにした場合の味わいは小麦に似ていて、より土臭くトーストの香りがする。

 

ソバ


ソバは、クラフトビールと日本の一部の焼酎に使用されているが、ウイスキーづくりには使われていない。
これは残念なことである、なぜならとても素晴らしいナッツの風味を加えてくれるのだ。ローストするとピスタチオと似通った味となる。
ソバは簡単に発芽させることができるが、大麦に比べて糖化酵素の量が少ない。多くの場合3分の1ほどにとどまる。そば粉にはグルテンが含まれないため、グルテン不耐症の人には価値がある。

 

ライコムギ

ライコムギは、ライ麦の耐寒性と小麦の生産性を目指して、小麦とライ麦の特定の種を交配することによって作成された新しい品種である。発芽ライコムギは発芽ライ麦に似ており、醸造、蒸溜業界から大いに期待される穀物として認知されている。未発芽のライコムギは、高い糖化力を持ちゲル化温度がとても低い。またライコムギは、事前にボイルせずともマッシュすることができる。味の面では、ライ麦のスパイシーな特徴を持つものの、あまり目立つことはない。多大な可能性に満ちた魅力的な穀物である。

 

ブルーコーン

ブルーコーンは、その優れた味のためにコーンチップスを作る際に重宝されている。標準的なフリントコーンではなく、ブルーコーンで造られたバーボンは、より豊かでナッツ風味の強い特徴を持っている。蒸溜酒がとにかく多彩な特徴を持つのだ。油分とタンパク質が多く含まれるために、ブルーコーンの醸造は難しくなりがちである。マッシングを始めると、マッシュがまるで茄子のような明るい紫色に変化するので、いつも驚かされる。どのバーボンも定義によって51%以上のトウモロコシを含んでいる。このウイスキースタイルにしたがって実験を進めることは、新しいレシピ作りに対する大きな制約となる。それでもバーボンとして正統でありながら、ブルーコーンバーボンは、異なる味わいの特性をもつものとなる。

 

私自身はまだ試す機会を持てていないが、ディスティラーたちにとって大いなる期待の星のひとつが、トリトデウムである。このとても新しい穀物は小麦と大麦の間の交配によって作られたもので、とても素晴らしい特徴をひとつ持っている。それは大麦よりも高い糖化力を持っているのだ。言い換えればデンプンを転換する酵素をたくさん持っているということである。実際、現在ビール生産のために用いられ得る全ての穀類の中で最高の糖化力を持っているのだ。なぜこれが重要なのだろうか。そう、例えば可能な限りトウモロコシをふんだんに使ってトウモロコシの味を押し出したバーボンをつくりたいとしよう。ただし人工的な酵素追加は行いたくない。このようなときに、トウモロコシのデンプンを糖化させるために加えるトリトデウムの量は大麦を使う場合に比べて遥かに少なくて済むのだ。このためウイスキーのマッシュレシピの中のトウモロコシの比率をより高めることができるのである。

ここまで紹介してきたこれらの穀物の調達はまだ難しく、それがディスティラーたちによって受け入れられていない理由となっている。モルトのような発芽形式で調達することはさらに難しい。いくつかの小さなモルト業者がこうした穀物の発芽版を提供している。例えばネバダ州のレベル・モルティング社はキビ、エマーコムギ、ソバを発芽させたものを提供しているし、またバレーモルト社は燻製ライコムギを扱っており、コロラド・モルティング社はキビ、テフ、キノア、ソバの発芽版を提供している。

穀物の協奏

代替穀物たちは、私の経験によれば、単独ではなく組み合わせて用いられると真価を発揮する。コルセア蒸溜所は、9種の穀物を使った「グレイニアック」バーボンによって、アメリカン・ディスティリング・インスティテュートのコンペにおいて最高位を得ることができた。このバーボンはそれまでの様々な実験の集大成であり、とても複雑なものに仕上がっている。使われたのはトウモロコシ、ライ麦、小麦、大麦、ソバ、ライコムギ、スペルト小麦、オーツ麦、およびキノアである。これが、私が考えるところの互いを補い合う代替穀物の最良の組合せである。マスターブレンダーたちが異なるウイスキーを少量ずつ加えて異なる香りを足していくように、少量の異なる穀物を使うことによって、その全体は個々のものよりも更に素晴らしいものになったのだ。そこではソバとオーツ麦が口触りをもたらし、キノア、スペルト小麦、およびライコムギがナッツと土臭さを与えている。

 大麦、小麦、そしてライ麦の中の代替候補

キノアやソバのようなエキゾチックな穀物だけでなく、ほとんどのディスティラーが決して利用しない、ありふれた「モルト」もたくさんある。多くの醸造家が新しいビールを作る際に、使われているモルトを見れば、70種類を超えるモルトが使われていることがわかるだろう。にもかかわらず、ほとんどのディスティラーは、普通の二条大麦を使うだけである。ウイスキーにたくさんのものを与えることができる素晴らしいモルトがいくつもあることを思うと、これは大変残念なことだ。
チョコレートモルトはカカオのような豊かなコーヒー風味を加えるし、キャラメル120は、焦げた砂糖とレーズンのヒントを含んだ素晴らしいローストキャラメル風味を追加する。キャラメル60は、樽の焦げとうまく寄り添うトフィーの風味を加える。またモルト化していない焙煎大麦はウイスキーにトースト、ビスケット、そしてサワードウの風味を与える。ハニーモルトは甘い蜂蜜の香りを加え、チョコレート小麦チョコレートライ麦も強いトフィーとチョコレートの風味を追加する。ディスティラーたちは、生産性が低いとしてこうした「モルト」を使わないが、さらなる風味を与えてくれる用途としてもこれらのモルトは使いこなされていない。

著作を書くにあたり、私は代替ウイスキーをつくる試みがこれまでいかに少なかったか、そしてウイスキー業界が伝統主義で固まり、歴史的にも新しいものに対して開かれていなかったことを知って驚いた。ウイスキーの種類によってはそれ独自の厳格なルールを課している。例えばバーボンにおいては51%以上のトウモロコシが含まれていなければならない、といったたぐいの。もしウイスキーがこの先も新しい飲み手を魅了し続け、他のビールやワインといった飲料からファンを引き寄せようとしているならば、代替グレーンやこれまではあまり使われてこなかった種類のモルトなどの利用もウイスキーの裾野を広げるためのひとつの手段である。新しい風味と特徴を持つ新しいウイスキーは、ウイスキーづくり全体に好影響を与える。そして、新しく革新的なウイスキーのスタイルへとつながるのだ。

【その2へ続く】

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