ジャパニーズウイスキー100周年の今年は、サントリー白州蒸溜所の50周年でもある。10月2日から一般公開が再開されるビジター体験を一足先にレポート。

文・写真:ステファン・ヴァン・エイケン

 

サントリーの山崎蒸溜所と白州蒸溜所が、それぞれ開設から100周年と50周年にあたる2023年。それなのに両蒸溜所は、これまで1年の大半にわたって一般公開を休止してきた。

今年2月の発表によると、サントリーは両蒸溜所に約100億円の巨費を投じてウイスキーづくりの質を高めている。同時にビジター体験も向上させ、10月2日には、まず白州蒸溜所が待望の一般公開を再開する予定だ(山崎蒸溜所の一般公開は11月に再開の予定)。

おなじみ「南アルプス天然水」の故郷でもある「白州の森」。サントリーの企業理念である「人と自然と響きあい、生命のかがやきをめざす」を体現しような場所だ。

去る9月15日の木曜日、ウイスキーマガジン・ジャパンは栗原勝範氏(ウイスキー原酒開発生産兼ブレンダー室長)と有田哲也氏(白州蒸溜所工場長)が同席する白州蒸溜所でのプレスプレビューに参加した。読者の皆様に、この内覧会の模様をいち早くお届けしよう。

現在の白州蒸溜所は、敷地全体が「白州の森」と呼ばれ、「シングルモルトウイスキー白州」と「南アルプス天然水」の故郷になっている。まさにサントリーの企業理念「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、人間の生命のかがやきをめざす」を体現したような場所である。

敷地内に入ると、すぐに真新しいビジターセンターが目に飛び込んでくる。建築資材やデザインには、花崗岩、森、水などのイメージが取り入れられている。いずれも周辺の自然環境を語る上で欠かせない要素だ。

このビジターセンターは、白州蒸溜所とサントリー天然水南アルプス白州工場に共通の玄関として機能し、小さなギフトショップも併設されている。ビジターセンターの中心にあるのは、敷地全体を視覚的に理解できる見事なジオラマだ。

このジオラマはPLA樹脂(トウモロコシやジャガイモなどから生成される植物由来のプラスチック素材)でできている。製造過程で二酸化炭素を発生させず、堆肥に埋めると約1週間で分子レベルまで分解される。白州の森を俯瞰する独創的なジオラマは、大勢のビジター(特に子供たち)を魅了することになるだろう。

地球環境にやさしいPLA樹脂で制作されたかわいらしいジオラマ。自然保護に取り組むサントリーの思想が随所に表現されている。

ビジターセンターは、来訪者が施設を見学する入り口となる。いずれはビジターも「バードブリッジ」を通って「バードサンクチュアリ」に入ることができるようにもなるだろう。このバードブリッジは現在建設中で、完成は2024年4月の予定。敷地内の主要道路をまたぐように横断して、バードサンクチュアリに向かう起点になる。

サントリーは、ウイスキー愛好家のために2種類のツアーを用意した。ひとつは「ものづくりツアー」(所要時間90分、税込価格3,000円)で、もうひとつは「ものづくりツアー プレミアム」(所要時間130分、税込価格5,000円)だ。ウイスキー製造エリアの見学が含まれているのは以前と同じだが、このたびサントリーはさらに斬新な体験をいくつか用意した。

まずウイスキー製造エリアに入ると、ウイスキーづくりの原料と工程を掲示した新しいディスプレイがある。世界中の蒸溜所が同様のビジター体験を用意しているが、サントリーはプロジェクションマッピングによる印象的なプレゼンテーションだ。糖化からブレンディングまで、ウイスキーの製造工程を説明するアニメーションに目を奪われる。専門用語を多用せず、どんな人でも実際の工程に興味が惹かれる仕掛けだ。

ツアーの狙いは、ビジターの五感に訴えかけること。そのため木製のウォッシュバック(発酵槽)でもろみの熱を感じ、その香りを嗅いでもらう。敷地内に18棟ある古い貯蔵庫のひとつを見学し、樽づくりの工程を見学する時間も楽しみだ。樽の加工に使われる道具を手に取り、樽職人になった気分を楽しむこともできる。サントリーが使用している様々なサイズの樽や、いわゆる天使の分け前を視覚的に説明した展示もある。
 

五感で体験する森の蒸溜所

 

プレミアムのツアーでは、ウイスキー愛好家にとって魅力的な2つの新しい体験が用意された。

蒸溜所の見学は、五感に訴える体験を重視。ウォッシュバック(発酵槽)では、発酵中のもろみが発する熱や匂いを間近に感じられる。

そのひとつは、グレーンウイスキー製造施設の見学だ。グレーン原酒づくりの実験を目的として2013年に設立された小規模な施設だが、これまでは一般公開されていなかった。そしてもうひとつのプレミアム体験は、貯蔵庫内で約2万個の樽に囲まれながらウイスキーをテイスティングできること。愛好家なら魅了されること請け合いだ。

どちらのツアーにも、ウイスキーの試飲は含まれている。「ものづくりツアー」では「サントリーシングルモルトウイスキー白州」(ノンエイジ)、希少な「モルトウイスキー原酒」、「白州森香るハイボール」がテイスティングできる(お持ち帰り用「白州オリジナルテイスティンググラス」付き)だ。

「ものづくりツアー プレミアム」では、「サントリーシングルモルトウイスキー白州12年」、希少な「モルトウイスキー原酒」などをテイスティングする(お持ち帰り用「白州オリジナルテイスティンググラス」と「グラスホルダー」付き)。サントリーのスタッフによると、どちらのツアーもオンライン予約制だ。従来は先着順だったが、今後は抽選制を導入するという。

セントラルハウスは全面的に改装された。広々としたテイスティングラウンジには、森を見渡せる長いカウンターがある。リラックスしながら様々なウイスキーを注文できるほか、品揃え豊富なギフトショップも併設されている。

世界の需要に応えた増産計画だけでなく、自社内での酵母培養などでさらなる高品質を目指すサントリー。ビジター向けのツアーはオンラインで申し込める。

博物館の隣には、堂々たるウイスキー博物館がある。世界各地の蒸留やウイスキー製造の歴史にまつわる品々が展示されているが、1階には白州の森を紹介する魅力的な展示も加わった。そして博物館の隣には、真新しいレストラン「フォレストテラス」が建設中。完成は2024年7月の予定である。

サントリーは、2024年夏までにウイスキーの原料を完全に自主管理することでニューメークの品質をさらに向上させようとしている。そのためにフロアモルティングと酵母培養プロセスを導入して、高品質な原酒のつくりこみと熟成後の品質向上を目指す。

リニューアルした「白州の森」が一般公開を再開すれば、多くのビジターを集めることは間違いない。コロナ禍前の2019年に来場したビジターは、白州蒸溜所が約14万9000人、天然水工場が約7万4000人だった。改修後初の通年営業となる2024年には、白州蒸溜所が16万7000人、天然水工場が5万3000人ものビジターを迎えるものとサントリーは予測している。

このビジターの1人になるため、ウイスキー愛好家が時間をかけて現地を訪ねる価値は十分にあると断言しておこう。