ハイランドパークとヴァイキングの魂【後半/全2回】
ハイランドパークのシングルモルトウイスキーには、ヴァイキングの誇りや精神が宿っている。ユニークな環境や品質へのこだわりを感じながら、ゆっくりとグラスを傾けてみよう。
文:WMJ
スコットランド本土のアバディーンからは、オークニー諸島やシェトランド諸島に向けてフェリーが運行されている。寄港地のカークウォールは、オークニー諸島で最大の町。それでも人口はわずか8500人ほどだ。
スコッチウイスキー業界で「北の巨人」と親しまれてきたハイランドパーク蒸溜所もこのカークウォールにある。ハイランドパークの公式な創業は1798年とされているが、これはあくまで政府が公式に酒税徴収を開始した年。実際には、それ以前からスピリッツの密造がおこなわれていた。
その密造を主導し、ハイランドパークの創業者となった男が、ヴァイキングの末裔であるマグナス・ユンソンだ。本業は精肉業で、夜にウイスキーを密造するというライフスタイル。しかも驚くべきことに、日曜日には教会でミサを取り仕切る聖職者でもあった。密造したウイスキーは、大胆にも教壇の下や教会の壁に隠していたのだという。
ハイランドパークという名称は、蒸溜所の所在地であるハイパークからとったものだ。良質な湧き水が出ることでも知られるが、何より高台なので徴税官の船が港に近づいてきたらすぐに気づける。密造酒を隠す時間稼ぎにも最適というわけだ。税吏の目を欺くため、ユンソンはあらゆる知恵を絞った。樽に布を被せ、当時の欧州で猛威を奮っていた天然痘の患者だと説明して役人を退散させた逸話も残っている。
個性を生み出す5つのキーストーン
ハイランドパークでつくられるシングルモルトウイスキーには、反骨心旺盛な先人たちへのリスペクトが込められている。他のウイスキーと明らかに異なる特徴は、5つのキーストーンで理解できるのだという。
1つめのキーストーンは、創業以来の伝統であるフロアモルティング。ハイランドパークは、使用する大麦モルトの20〜30%を蒸溜所内のフロアモルティングで製麦している。これは8時間ごとに人の手でかき混ぜ、合計5〜7日間もかかる重労働だ。
2つめのキーストーンは、アロマティックなピート。一般的なピートは樹木や海藻などが堆積した化石燃料だが、強風が吹きすさぶオークニーにはそもそも樹木がほとんどない。だからピートの原料になるのは、地表を覆うヒースが主体だ。ヒースからできたピートには、薬っぽいフェノールよりも甘いアロマのあるグアヤコールが多く含まれる。このオークニー産のピートを使用した唯一のウイスキーがハイランドパークである。
3つめのキーストーンは、こだわりのシェリーカスク。スペイン北部で伐採したヨーロピアンオークを4年かけて乾燥し、ボデガで18~24カ月かけてシェリー酒を貯蔵する。ヨーロッピアンオークは、 レーズン、乾燥アンズ、コーヒー、ダークチョコレートなどの香り。アメリカンオークは、トフィー、バニラ、柑橘類、ココナッツなどの香りを授けてくれる。
4つめのキーストーンは、冷涼な気候での熟成。オークニーは真夏でも12〜14℃と涼しく、真冬でも海流のおかげで2〜4℃までしか冷え込まない。この穏やかな寒暖差のおかげで、いわゆる天使の分け前と呼ばれる蒸発が年間わずか0.5〜1%程度に抑えられる。要するに、オークニーでは他の場所よりも熟成がゆっくりと進むのである。
5つめのキーストーンは、カスクハーモナイゼーション。熟成を終えた樽は船でグラスゴーへと送られ、ゴードン・モーション(マスターウイスキーメーカー)が100本以上の樽から原酒をバッティングする。デッドカスク(古樽)に詰められて過ごすハーモナイズ期間は、複雑な香味を統合する重要な工程だ。
このようにユニークなこだわりによって、ハイランドパークは唯一無二のフレーバーを獲得するのである。
4種類のシングルモルトを飲み比べ
それではハイランドパークの代表的なランナップを味わってみよう。まずは定番の「ハイランドパーク 12年 ヴァイキング・オナー」。 ヘザーハニーやフルーツケーキ、温かみのあるスパイスやだいだいなどの芳醇な香りがある。英国風クリスマスケーキを彷彿とさせる要素が強いため、現地では「ウインタースパイス」と表現されることも多い。ストレートでも楽しめるが、ハイボールは鹿肉などのジビエ料理、熟成チーズ、寿司などとも相性がいい。
「ハイランドパーク 15年 ヴァイキング・ハート」は、度数がやや高めの44%。ファーストフィルのヨーロピアンオークシェリー樽を贅沢に使い、ドライかつ温かみのあるスパイシーな境地を実現したウイスキーだ。ファーストフィルのアメリカンオークシェリー樽からもバニラやクリームブリュレの香りが加わり、ハイランドパークのDNAと言えるリフィル樽の原酒がスピリッツの特性を押し出す。パイナップルケーキを思わせるトロピカルな風味があり、ヘザーピートの心地よいアロマが抜けていく。ユニークな白いセラミックボトルは、花瓶にアップサイクルできるサステナブルなデザインでもある。
オールラウンドな食後酒として名高いハイランドパークの中でも、「ハイランドパーク 18年 ヴァイキング・プライド」は究極のオールラウンダーだ。ウイスキーバイブルのジム・マレーが95.5点という超高得点を付け、スピリッツジャーナル誌の「ベスト・スピリッツ・イン・ザ・ワールド」にも2度輝いている。ヨーロピアンオーク由来のドライフルーツ香が華やかで、フィレステーキ、鴨のロースト、濃厚なチョコレートやアーモンドケーキなどにもよく合う。220年にわたる伝統製法から、複雑なハーモニーを完璧に表現したウイスキーである。
アロマティックなピートとシェリー樽由来の豊かなフレーバー。どちらかといえば異端的なアプローチを受け継ぎながら、ハイランドパークはスコッチウイスキーを代表する銘柄として確固たる定評を築いてきた。堂々たる風格と繊細な味わいも、先祖から受け継いだヴァイキング魂の賜物なのだろう。
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