ハイランドパークとヴァイキング・ソウル【前半/全2回】

November 27, 2017

傑出したオールラウンドなウイスキーとして定評の高いハイランドパークが、大幅なイメージチェンジをおこなった。何が変わり、何が変わっていないのか。ハイランドパークファンのクリストファー・コーツが、ブランドアンバサダーに真意を問う。

文:クリストファー・コーツ

 

エドリントンのウイスキーづくりにおいて、ハブ的な機能を果たしているのがグレート・ウェスタン・ロード・オフィスだ。ここに到着しながら、自分が感じている不安について思い返していた。

1年ほど前、私はハイランドパークのブランドディレクターを務めるジェイソン・クレイグと話し込み、新しいハイランドパークのブランドイメージの基礎となる最初期のノート、スケッチ、ムードボードなどを見せてもらう機会があった。

それはウイスキーに新しいパッケージを用意して、一貫性を高めたスタイルにリニューアルするアイデアだった。多くの人々と同様に、ハイランドパークはいつも個人的にお気に入りのウイスキーだ。原則として、リニューアルのアイデアは大して驚くべきことでもない。ちょっとしたイメージチェンジなら、毒にも薬にもならないだろうと思っていた。

だがその後で、大幅なパッケージの見直し案が議論され始めた。完全に新しい表現。雄大なストーリー。繰り返し語られる「ヴァイキング・ソウル」というフレーズ。いったいどういう意味なのか。隣の部屋から、会話の断片が聞こえてくる。「プレミアム化」という言葉をはっきりと耳にしたあたりから、手のひらの汗が止まらなくなった。

そして今日、ジェイソンは最終的な結果について説明してくれるというのである。スタート時から経過を目にしてきたプロジェクト。ジェイソンだけでなく、同僚であるマスターウイスキーメーカーのゴードン・モーションとも会って、リリース前にデザインを見せてもらった。数週間後には、デンマークで大規模な発売イベントが予想されている。その数日後には酒屋の棚にボトルが並ぶだろう。もう後戻りはできない。

最大の懸念は、もちろんウイスキー自体に関することだ。現行のラインナップは再構成されるのだろうか。なんだかんだ言っても、偉大なウイスキー評論家のマイケル・ジャクソンが「モルトウイスキーの世界で最高のオールラウンドなウイスキー」と評した蒸溜所だ。しかしそのようなバランスの良さは、センセーショナルな話題になりにくい。

ハイランドパークはついに誘惑に負けてしまい、一部のマニアを喜ばせるような極端なピート香やシェリー香に走るのか。ひょっとしてその両方を狙っていたりするのだろうか。ジェイソンが語り始める。

「ハイランドパークについて語るとき、過去にはそんな会話もよくありましたよ。マッカランほど甘みがなくてごめんね。ラフロイグほどスモーキーじゃなくてごめんね。ローランドやスペイサイドのウイスキーほどマイルドじゃなくてごめんね。そんな感じで、ある種の極端な特徴に欠けていることをいつも引け目に感じていたんです」

 

最高のオールラウンダーである価値を再発見

 

目指しているのは、一貫性のある風味を将来にわたって保証すること。マスターウイスキーメーカーのゴードン・モーションは語った。

実際のところ、2005年にハイランドパークで仕事を始めた頃から、ジェイソンはすでに同じような懸念を語っていた。オールラウンドなウイスキーというのは、結局何の取り柄もないというイメージに受け取られかねないのではないか。だがありがたいことに、そんな迷いもすぐに消え失せることになる。そのきっかけは、グラスゴーのウイスキーライヴで、他でもないマイケル・ジャクソン本人とハイランドパークを何杯か酌み交わしたことだったという。

「その日の会話から、重要なことを理解できた気がしました。ウイスキーは意外と簡単なんです。ピーテッドかノンピーテッドか。バーボン樽かシェリー樽か。もしノンピーテッドでバーボン樽なら、大半のスペイサイドがそうでしょう。ピーテッドでバーボン樽なら、大半のアイラがそうです。ノンピーテッドでシェリー樽なら、グレンファークラスやマッカランなどのブランドが思い浮かびます。でもピーテッドでシェリー樽という組み合わせだけは異質です。特別品として出している蒸溜所もありますが、この分野の象徴はやっぱりハイランドパーク。極端なウイスキーをつくるのは簡単ですが、バランスの良いウイスキーをつくるのは非常に難しいことなのです」

そしてジェイソンの言葉が真実であることもわかった。蒸溜所特有のフレーバー構成は、確固たる信念とともに守られるという確証を得たのである。新しいデザインのボトルに入っても、10年、12年、18年の風味は今まで同様に一貫している。それでもまだ私の不安が完全に払拭されていないと察知したゴードンはこう付け加えた。

「最終的に、私たちがいつも目指しているのは一貫性のある風味。しかもその一貫性をこの先14年間続けていける状態を維持することです。参考小売価格も、そのまま据え置きますよ」

安心しろと言わんばかりの言葉に、私はおずおずと安堵のため息を漏らした。

(つづく)


ハイランドパーク ヴァルキリー

アルコール度数:45.9度

容量:700ml

希望小売価格(税別):7,500円

WMJ PROMOTION

 

カテゴリ: Archive, features, TOP, 最新記事, 風味