ハイランドパークとヴァイキング・ソウル【後半/全2回】

November 30, 2017


スコットランド最北端の蒸溜所として独自路線を歩み続けるハイランドパークから、新作「ハイランドパーク ヴァルキリー」はいかにして生まれたのだろうか。一貫した本物の味わいを守りながら、ヴァイキング・ソウルを伝えるアプローチの真意を読み解く。

 

文:クリストファー・コーツ

 

イメージチェンジの後でも現行品の風味がまったく変わらないという事実は、ハイランドパークのファンにとって朗報だった。では新商品「ハイランドパーク ヴァルキリー」の話はどうなのだろう。原酒ストックの戦略が一貫性を念頭に置いたものであるなら、新商品用の原酒はどこにあったのか。

マスターウイスキーメーカーのゴードン・モーションによると、計画は堅実に遂行されてきた。ここ15年ほど、蒸溜所でつくる原酒の約1%は通常のモデルに該当しない樽に詰められていたのだという。その一例が「ハイランドパーク ファイア・エディション」で使用した100%ポート樽熟成の原酒である。ここ10年は、ときどきピーテッドモルトのスピリッツだけを集中的につくる時期もあり、現在でも1年に1週間だけ実践しているのだという。

オークニー産のピートは、ヒースが堆積したユニークなタイプ。木が主体である他地域のピートとは異なる風味が、ハイランドパーク特有のスモーク香を生み出す。

「私のせいなんですよ」とジェイソンが認める。10年以上前、エドリントンで働き始めてから間もなく、ジェイソンは積極的にこの変則的なスタイルの原酒をつくった。ゴードンが「ジェイソンは、今になって自分で巻いた種を刈り取らなきゃいけないのさ」と笑い、ジェイソンは少し恥ずかしそうにする。

だが私にとって興味深いのは、これまでの原酒ストックの使い方だ。蒸溜所のスタイルを完全に打ち破り、ヘビリーピーテッドのウイスキーを発売して、短期間のPRでスモーキーなウイスキーのマニアにアピールする方が明らかに簡単だっただろう。だがそうではなく、ハイランドパークはストック原酒を繊細な手腕で料理した。

そして生まれたのが最新の限定ボトル「ハイランドパーク ヴァルキリー」である。蒸溜所の風味プロフィールに変化をつけることはあっても、決して破壊的な変化を起こすことはない。そんなジェイソンの言葉を裏付けるようなボトルが「ヴァルキリー」なのだ。ジェイソンが率直に語る。

「かつてのハイランドパークは、ただのウイスキーでした。とてもいいウイスキーで、素晴らしい物語にも恵まれていましたが、私たちはその物語をまったく語ってこなかったのです。宣伝用のアプローチといっても、ただグラスに入れて差し出すばかり。ある意味で、ハイランドパークはずっと鏡を見ながら自問自答をしてきたようなものです。でもこれからは違います。他のブランドのような特徴を持たないことに引け目を感じたり、謝ったりするつもりはありません。これが私たちのウイスキーで、私たちのやり方。他とは明確に一線を画したウイスキーであることに誇りを持とうと決めたのです」

 

天賦のユニークな魅力を伝える

 

新しさを打ち出した劇的な革新ではなく、ただ伝え方を変えるのだ。これはブランドの自己評価や自尊心の表現を新たに作り出す作業だと考えてもいい。ジェイソンによると、重要なのはハイランドパークのユニークな特徴にフォーカスすること。その基本となるのが5つの「要石」だ。要石の1つ目は、オークニー産ピート。これはヒースが堆積したオークニー諸島特有のピート(通常のピートは木が堆積したもの)で、使用している蒸溜所はハイランドパークだけである。要石の2つ目は、今もなお続けられている蒸溜所内でのフロアモルティング。必ずしも質素倹約のためにおこなっている訳ではないところもポイントだ。要石の3つ目は、高品質なシェリー樽を使用していること。これはエドリントンの優れた自社樽調達システムのおかげでもある。要石の4つ目は、贅沢なくらい時間をかけるマリイングの行程。そして要石の5つ目は、オークニー自体の特殊な風土だ。ジェイソンが説明を続ける。

ヴァイキング・ソウルとは、ハイランドパークに備わった天賦の資質。ハイランドパークのブランドディレクター、ジェイソン・クレイグは本物のウイスキーづくりを実践する誇りを新商品でも表現している。

「実際には、なかなか難しいところもあります。現代の消費者は、いつも新しいものを求めていますからね。でも肝心なのはバランスです。ハイランドパークのようなブランドだって、進化していかなければならないのは事実。それでも歴史と忠実に向き合いながら、中核となるDNAを保持することも必要不可欠です。大切なのは、流行に左右されるブランドにならないこと。上辺のイメージだけに気を取られて流行を追いかけても、ロクなことにはなりませんから」

なるほど筋の通った話である。だがこれから新しい「ヴァイキング・ソウル」をどのようにビジネス展開していくのか、やや曖昧な部分もぬぐえない。ジェイソンが答える。

「ハイランドパークと出会った人に、表層だけではなくウイスキーの歴史も掘り下げて、背後の物語を知ってもらえるようにしたかったのです。この素晴らしいウイスキーは、ほとんど天の恵みのようなものなのですから」

つまりジェイソンにとって「ヴァイキング・ソウル」とは、ウイスキーが持つ天賦の資質のことなのだ。それはハイランドパークとオークニーを形作る価値観、文化、人々を表現したテーマである。

だがこの「ヴァイキング・ソウル」という言葉は正統な主張なのか。さまざまな食品会社や飲料会社(ウイスキーメーカーも含まれる)の前例が頭をよぎる。最初はお洒落で気取ったマーケティングキャンペーンに見えても、やがてでっち上げやでたらめが明らかになって幻滅させられる例は多い。ジェイソンはそんな疑念も打ち消す。

「ここには数千年に及ぶオークニー諸島の伝統があり、ハイランドパークもこの地で220年にわたってウイスキーをつくり続けています。最近はビジネスで成功するのに”深み”が必要になりました。背後に素晴らしい物語があること。そして内輪の秘密はなくしたほうがいいということ。言行が一致しているブランドが理想のブランドなのです。お客様は、かつてないほど素早く真実を暴き出せるようになっています。嘘っぱちを見抜いて、ファンをやめるのは一瞬ですよ」

ジェイソンの力強い言葉にすっかり納得させられ、私は安堵の心で車で帰路についた。

 


ハイランドパーク ヴァルキリー

アルコール度数:45.9度

容量:700ml

希望小売価格(税別):7,500円

WMJ PROMOTION

 

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