アイコンズ・オブ・ウイスキー 2019【前半/全2回】
今年で第17回目を迎えた「アイコンズ・オブ・ウイスキー(以下IOW)」は、ウイスキーマガジンの発行元でもある英国パラグラフ・パブリッシング社主催の世界的なコンテスト。「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」が製品としてのウイスキーを対象とするのに対し、IOWは世界のウイスキー業界に著しい貢献を果たした企業、蒸溜所、人物、小売店、バーなどを表彰する。2019年の受賞者を2回に分けてご紹介。
ディスティラー・オブ・ザ・イヤー
ディステル(南アフリカ)
性急な成功を模索しようとはしていない堅実なメーカーでありながら、ここ1年でも力強い成長を感じさせてくれたディステル。「スリーシップス」「ベインズ」「ブナハーブン」「ディーンストン」などの卓越したウイスキーを一貫して生産し、南アフリカのジェームズ・セジウィック蒸溜所では傑出したビジター体験を提供してくれた。このような成果だけでもディスティラー・オブ・ザ・イヤーの称号に相応しいのだが、2019年の初頭(本アワードの選考前)には傘下のトバモリー蒸溜所から新たに「トバモリー12年」を発売し、ブナハーブン蒸溜所へ追加投資をおこなうことも公表した。以上の企業活動を鑑みて、世界のウイスキーメーカーの中でも特に優れた成果を収めたと判断するものである。
入賞
ブランドイノベーター・オブ・ザ・イヤー
ザ・マッカラン(スコットランド)
イノベーションはさまざまな形態でによって推進されるものだが、高水準のステイタスを守りながら新しい分野で既存の枠組みを押し広げるようなチャレンジの模索には困難が伴う。ここ12ヶ月の間、ザ・マッカランは熱烈なファンが望むウイスキーへの高い期待にしっかりと応えてきた。だが同時に、世界規模のトラベルリテールでも革新的な表現の商品を発売し、ブランドの魅力をさらに幅広くアピールした。さらに最も特筆すべきは驚くべき新蒸溜所のオープンだ。サステナビリティとビジター体験の魅力において、新しい次元を切り開いたことは間違いない。新しい生産基盤を整えた大人気ブランドが、2019年にどのような展開を見せてくれるのか待ちきれない思いである。
入賞
ビジターアトラクション・オブ・ザ・イヤー
レイクス蒸溜所(イングランド)
夢を実現するのは容易いことではない。例えば、ウイスキー不毛の地とされるイングランドで、ワールドクラスのウイスキー蒸溜所をゼロから立ち上げるという夢。しかも建設地が国立公園の中という難問も加われば膨大な仕事が待っていることが想像に難くない。何年にも及ぶ候補地探しの末、ポール・カリーがケズウィック近郊で見つけたのは、不要になって放置されたままの農場の建築群だった。彼の積年の夢は、この地で実現に向けて動き出した。あらゆる困難を乗り越えて、ビクトリア朝時代から続くかつての農場は、ワールドクラスのウイスキー蒸溜所とビジターセンターに変貌を遂げたのである。
入賞
クラフトプロデューサー・オブ・ザ・イヤー
ケンタッキー・ピアレス・ディスティリング(アメリカ)
ケンタッキー・ピアレス・ディスティリングは、かつて禁酒法施行以前にはケンタッキー州で第2の生産規模を誇ったこともある蒸留所だ。数十年にわたって閉鎖されていたが、元々のオーナーの孫にあたるコーキー・テイラーが家業だった蒸溜所の再開を決心した。創業地であるヘンダーソンからルイビルに場所を移したのは、この地で巻き起こっているバーボン復興運動に参画するためである。操業に必要なケンタッキー州スピリッツ蒸溜工場番号は、ヘンダーソン時代のピアレス蒸溜所と同じ「Kentucky-DSP-KY-50」を申請して認められることになった。新しい生産拠点とかつての長い名声を力に、オーナーたちはブランド復活に向けて努力を続けている。
入賞
マスターディスティラー/マスターブレンダー・オブ・ザ・イヤー
ブライアン・キンズマン/ウィリアム・グラント&サンズ(スコットランド)
グラント家の偉大なファミリービジネスを維持する責任は、今やブライアン・キンズマンの双肩にかかっているといっても過言ではない。1887年からウイスキーをつくり始めた創業者のウィリアム・グラントを含め、わずか6人しかいないマスターディスティラーの1人として生産を統括。今やスコットランドで最も長い経験を誇るモルトマスターのデービッド・スチュワートと共に働いた後で、現在の重責を担うようになった。樽の選定、マリイング、貯蔵庫内での熟成、ブレンディングなどのあらゆる行程を管轄し、複数のウイスキーブランドの品質をしっかりと維持している。
入賞
ディスティラリーマネージャー・オブ・ザ・イヤー
ジョン・ロシュフォート/マクラーレン・ヴェイル蒸溜所(オーストラリア)
マクラーレン・ヴェイル蒸溜所は、2016年に設立されたばかりの新興メーカー。ジョン・ロシュフォートが蒸溜所の建設地をアデレードに定めた理由は、ここが素晴らしいワイナリーの密集地であり、ワインバレルの入手がしやすかったからである。ワールドクラスのワインを熟成した樽にスピリッツを貯蔵しているマクラーレン・ヴェイル蒸溜所は、そろそろ熟成が完了したウイスキーを発売してもいい頃だ。野心的な樽戦略を推進しているこの蒸溜所は、間違いなく注目すべき存在である。
入賞
アメリカンウイスキー・ブランド・アンバサダー・オブ・ザ・イヤー
ローレンス・シー/米国蒸溜酒評議会(中国)
自身も熱烈なアメリカンウイスキーの愛好家であるローレンス・シーは、世界中の人々にアメリカンウイスキーの魅力を知ってほしいと願っている。その普及活動を始めた場所は中国だ。2015年には北京に「バー・ムーンシャイン」を開店。禁酒法時代の潜り酒場であるスピークイージーをヒントにしたスタイルで、世界中のウイスキーとクラフトカクテルを提供している。2017年にはさらにウイスキー関連の業務を広げ、米国蒸溜酒評議会より中国国内ではただ1人のアメリカンウイスキーアンバサダーに任命された。
入賞
アイリッシュウイスキー・ブランド・アンバサダー・オブ・ザ・イヤー
ジェニファー・ニッカーソン/ティペラリー・ブティック蒸溜所(アイルランド)
2016年にティペラリー・ブティック蒸溜所を創設して以来、ジェニファー・ニッカーソンはアイリッシュウイスキー業界の強力な応援団として活躍してきた。元公認会計士でありながら、ジェニファーには正統なウイスキーの血が流れている。父のスチュアート・ニッカーソンはスコットランド最大の蒸溜所で働き、業界を代表するウイスキーコンサルタントとして活躍する人物。ウイスキーづくりを身近に感じながら育ったジェニファーは、大学での研究論文でもウイスキーを題材にしている。
入賞
スコッチウイスキー・ブランド・アンバサダー・オブ・ザ・イヤー
ジェマ・パターソン/バルヴェニー
ジェマ・パターソンはスコットランドのヘブリディーズ諸島で育った。グラスゴー大学でロシア語を学んだ後、バルヴェニーのガイドとして働きはじめる。その後、活躍の場を大西洋の向こう側に求めて渡米。ニューヨークを拠点としながら、東海岸全体を旅しながら仕事を続けた。現在はバルヴェニーのグローバルアンバサダーとして活躍し、世界中のウイスキーファンと共に上質なウイスキーへの愛情を分かち合っている。
入賞
ワールドウイスキー・ブランド・アンバサダー・オブ・ザ・イヤー
吉川由美/ベンチャーウイスキー
日本のクラフトウイスキーブームを牽引する秩父蒸溜所。創設者である肥土伊知郎と共に、小規模生産のウイスキーを世界的な人気ブランドに押し上げた功労者の1人が吉川由美だ。自社製品のみならず、ジャパニーズウイスキー全般の魅力を訴えてきた吉川。日本でウイスキーの美味しさに出会い、スペイサイドにある伝説のバー「ハイランダーイン」で働きながら世界のウイスキーに関する知見を深めた経歴も活かしてブランドアンバサダーの重責を担っている。
入賞
地区別の候補者も含めたアイコンズ・オブ・ウイスキーの全容はこちらから。