アイリッシュウイスキーの革命 【その2/全3回】

August 19, 2013

「エメラルドの島(Emerald Isle)」として知られるアイルランドには、かつて2000以上の蒸溜所が点在していた。再び盛り上がりを見せるアイリッシュウイスキー業界の最新レポートの第2回。

アイリッシュウイスキーの革命 【その1/全3回】
2. ウイスキーを故郷へ ― オルテックとカーロウ・ブルワリー

スタートに成功して進行中のもうひとつのプロジェクトは、アメリカの蒸溜業者オルテック社と有名なクラフトビールブルワリー「カーロウ・ブルーイング・カンパニー」のパートナーシップだ。
ケンタッキー州の蒸溜所で既にバーボンを生産しているオルテックは、ヴェンドーム社製スチルをルイビルから空輸し、同社初のアイリッシュウイスキーをおよそ3年のうちに準備する予定だ。
マスターディスティラー/チーフエンジニアのマーク・コフマンは、この動きについて、ひとつにはアイリッシュウイスキーに対する関心が高まっているためと述べた。
そしてこう付け加えた。
「ひとつはそういうことです。しかし、オルテックの社長兼創立者のピアーズ・リヨンズが、樽製造業者という家族のルーツに由来する伝統を故郷アイルランドに持ち帰りたいと望んでいることも大きいのです。そして、ビーム・グローバル社がキルベガン・グループ(クーリー蒸溜所)を買収したとの発表があったため、アイルランドにまた独立系の蒸溜所をつくるように、ケンタッキー州ルイビルのヴェンドーム・カッパー&ブラス・ワークス社にスチル2基を注文しました」

カーロウとのパートナーシップを成長させるべく、オルテックは将来にも目を配っている。
マークは続ける。「これはオルテックとカーロウ・ブルーイング・カンパニーの双方にとってとても良いパートナーシップです。私は今後拡張する必要があると確信していますし、近い将来、場所を検討するべきだと思います。一種の観光地になるようなところですね」
また同社は木材を社内調達する方針で、シーズニングした樽をケンタッキー州から供給する。興味深いことに、同社のバーボンそして今度はそのアイリッシュウイスキーの熟成には、以前にビール熟成に使用された樽が使われる予定だ。
さらにマークが説明する。「当社で最も人気のあるビールのひとつが『ケンタッキー・バーボン・バレル・エール』なので、このエールを熟成した後のバーボン樽を『ピアーズ・リヨンズ・リザーブ』とアイリッシュウイスキー両方の熟成に使うことができます。このエールは甘みのあるユニークな味で、とても魅力的なアイテムです」
同社は従業員がスコットランドにあるヘリオット・ワット大学の醸造・蒸溜科と強いつながりがあることから、教育もプロジェクトの重要な柱だ。今夏にはアイルランドで「クラフト醸造と蒸溜」教室を開催する計画もある。

3. ルーツに還る ― タラモアデュー

アイリッシュウイスキーがその原点に戻り始めているもうひとつの場所が、オファリー州タラモアだ。ウィリアム・グラント社は最近、3年前に買収したタラモアデューブランドの供給を確保するために、3,500万ユーロを投じて蒸溜所を建設すると発表した。同社は既にタラモアにあるビジターセンターの改造を済ませている。

タラモアの操業は1954年に終わったが、グラント社は、郊外のクロンミンチに位置する58エーカーの用地で2014年に蒸溜所が完成・操業開始すれば、この地域の60年にわたる生産停止に終止符が打たれるものと期待している。同社の願いは、タラモアの蒸溜所再建により製品の由緒正しさを高めることだろう。アイリッシュウイスキーに対する関心が高まるに伴い、60万ケースだったこのブランドの販売量は既に70万ケース近くまで増加している。

コラム:歴史 ― アイリッシュウイスキーの権勢はいかにして崩壊したか

19世紀後期、アイルランドに2,000以上の蒸溜所が点在していた頃、この国のウイスキーは世界一の販売量を誇っていた。
しかし、最大のシェアを享受していたこれらの蒸溜所に大災害が降りかかる。
1919年にはアメリカの禁酒法によりこの主要市場が閉ざされ、さらにその後間もなくアイルランド解放運動が始まって英連邦がウイスキーに法外な関税を課すことになった。
このふたつの出来事で、アイリッシュウイスキーは事実上世界の半分から遠ざけられた形になり、最後のとどめが第二次大戦でのアイルランドの中立だった。アイルランドが中立を維持したために米兵はスコットランドなど英国の他の地域に駐留し、スコッチウイスキーの虜になったのである。

【その3へ続く】

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