Jim Beam meets 山崎 【後半/全2回】

February 25, 2013

ジムビーム社マスターディスティラー フレッド・ノウ氏が山崎蒸溜所を訪れて、サントリーのチーフブレンダー輿水精一氏と対談を行った。後半となる今回は、山崎蒸溜所でつくられたウイスキーのテイスティングと両氏へのインタビュー。

Jim Beam meets 山崎 【前半/全2回】

ビーム社のバーボンウイスキー3種類をテイスティングしたあとは、山崎蒸溜所でつくられたモルト原酒とシングルモルトウイスキーを5種類テイスティング。
まず熟成樽の違う3つのモルト原酒―パンチョン(ホワイトオーク)樽原酒シェリー樽原酒ミズナラ樽原酒を比較する。

輿水氏がそれぞれのモルト原酒について説明する。
ブレンドのベースとなるパンチョン樽原酒、甘くふくよかなシェリー樽原酒、オリエンタルな香味のミズナラ樽原酒。フレッド氏は樽熟成の神秘を目の当たりにしたようだ。
バーボンでは十分に内側を焦がしたアメリカンオークの新樽しか用いない。もちろん大きさもバレル(平均的な容量は180リットル)のみ。樽材の種類や樽の大きさ、熟成回数の違いなどでモルト原酒をつくり分けるジャパニーズウイスキーと違い、バーボンには樽の違いによる原酒のつくり分けはあまりない。バーボンウイスキーにとって樽熟成の目的といえば、いかに樽由来の香りや色、成分などがスピリッツになじみ、時の経過とともにアルコールのカドをまるめてくれるかが中心となるであろう。それゆえ、フレッド氏は非常に興味深く輿水氏の話に耳を傾け、香りと味わいを確かめていた。

続いて、シングルモルトウイスキーの山崎12年山崎18年をテイスティングする。こちらでは熟成年数による違いと、先ほどのモルト原酒を中心としたブレンドによる絶妙のバランスが感じられる。フレッド氏は目を閉じ、深く香りと味の奥に隠れたものまで探り出そうとしている。そして「実に素晴らしい」と呟く。「複雑な層の厚みを感じる。ISCで最優秀ウイスキーに選ばれた理由がよく分かります」。ジャパニーズウイスキーならではの繊細なつくりに感心したようだった。
ひととおり両ウイスキーのテイスティングをしたところで、本日の感想を伺うことになった。

――まず、フレッドさんに伺います。山崎蒸溜所を訪問した感想をお聞かせ下さい。

フレッド・ノウ氏(以下フレッド氏) 非常に美しく、クリーンですね。歴史も感じられ、私の父が訪れたとしても同じ感想を持つでしょう。仕込みの段階からの香り、空気感も私たちの蒸溜所とは違いますね。特に、神社が隣にあるという点は印象的です。英語では「精神」と「蒸溜酒」は同じ「スピリッツ」という言葉ですから、とても良い組み合わせだと思いました。

――「ジムビーム」のつくりで最もこだわっていることはどういったことでしょうか?

フレッド氏  やはりいい水と高品質の穀物です。そして200年に渡って続いてきた伝統…「ジムビーム」が「ジムビーム」であり続けるために、伝統を守っていくことです。

――日本のウイスキーづくりと最も違いを感じた点はどこでしょうか?

フレッド氏  一番大きな違いは原料。そしてスチルの違いでしょうね。私たちは連続式蒸溜機を使いますから。そこが違えば、出来上がるものは同じ「ウイスキー」であっても全く別物…「フルーツ」でもリンゴとオレンジが全く違うようなものです。

――では逆に相通ずるところは?

フレッド氏  それはもちろん、ウイスキーづくりに対する情熱です。国は違っても、良いウイスキーをつくろうというつくり手の気持ちは同じだと思いますよ。

――日本のバーボン市場に対する印象はいかがですか?

フレッド氏  とても良好だと思います。サントリーと新たに提携したこともあり、今後に期待しています。日本のお客様はいろんなウイスキーを楽しんでいらっしゃいますから。

――日本のウイスキー愛好家にメッセージをお願いします。

フレッド氏  世の中にはたくさんバーボンがありますから、ぜひ色々試してみて下さい。その中でビーム社のブランドをお選びいただければ幸いです。ジムビームからブッカーズまで、幅広いラインナップがありますので、試しながら楽しんで欲しいと思います。とにかく「バーボンは自由に楽しく!」です。

――ありがとうございました。では、続いて輿水さんにお伺いします。バーボンのつくりと違いを感じたポイントはどこでしょうか?

輿水氏  やっぱり原料ですね。それから蒸溜の仕方、貯蔵に対する考え方。我々はいろんなモルト原酒をつくり分けて、それをブレンドで組み合わせていくやり方で…どちらがいいとかいう訳ではないですが、そこに大きな違いがあるかなと思いました。

――なるほど。

輿水氏  でも今日は、違いより共通する点を多く感じましたね。ひとつは…ファミリービジネスということ。マスターブレンダーが継承していくということは、ウイスキーづくりにおいては大きな意味がある。フレッドさんがおっしゃっていたように、先代、先々代からの伝統を守っていくというのは、両社で共通している点じゃないかなぁと。

――そうですね、それは強く感じられました。

輿水氏  伝統的な良いところを守り、またチャレンジもしていく。スモールバッチバーボンも非常に細かいこだわりがあって、そういうものづくりに対する姿勢というものも、共通するなと思いましたね。

――最も大切な部分は同じ、ということですね。本日はありがとうございました。

予定されていた時間を大幅にオーバーするほど、非常に白熱し充実した対談であった。
日本とアメリカの2大ウイスキーブランドは、全く別物でありながらも本質的には多くの共通点を持つ…素材や製法ではなく、ウイスキーに込められた、脈々と続く「つくり手の想い」。過去を尊び、今の最善を尽くし、将来を見据える。2人のつくり手はグラスを交えて、静かに、しかし大きなエール交換を行った。この出会いはきっとウイスキー界に新たな風を呼び起こすことだろう。

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