革新の再興 ― グレンキース蒸溜所 【後半/全2回】
閉鎖前から革新的なつくりを行ってきたグレンキース蒸溜所。昨年の操業再開にあたって改修を行い、シーバス社の中核として動き始めた。ガヴィン・D・スミスによるレポートの後半をお届けする。
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無事再開の時を迎えたグレンキース蒸溜所。しかし、操業にあたっていくつかの変更が行われた。
アラン・ウィンチェスターによると、「私たちは古いモルティング設備を取り壊しました −パゴダは残しましたが。そして既存の蒸溜所と別の棟となる新たなセクションを建設しました。交代用マッシュハウス(糖化室)を作り、新しいマッシュタンを入れて、発酵室を拡張しました」
新しい貯蔵設備を作り、拡張した発酵室にステンレスのウォッシュバック6基を設置して生産増加を可能にし、既存のオレゴン松製ウォッシュバック9基は新しい木製容器と交換した。「以前のウォッシュバックは人が容器の中に入って手作業で洗わなければならなかったため、‘衛生・安全’上好ましくなかったのですが、今では自動洗浄です」とウィンチェスターは言う。当初、スチル製と木製の容器で生産されたウォッシュのスピリッツは、シーバス社のチームが両者の性質に根本的な違いがないことを確認するまで別々にされていた。
「必要に応じてオリジナルのスチル6基の部品を交換しました」とウィンチェスターは言う。「そのため今ではスチルに液体を注ぎ込むスピード が以前より迅速になり、デッドタイムが削減されました。発酵を60時間に延長し、スチルへの充填量を以前より少なくしたため、銅との接触が多くなりました。しかし我々としては閉鎖前に近い性質のスピリッツを目指していますし、その希望に沿ったものが出来ています。スピリッツはここで熟成させず、全て近くのキース熟成庫に行きます」
シーバス社がグレンキースに投資した結果、生産量が250万リットル増加しておよそ600万リットルになる可能性がある上、シーバス・ブラザーズのスポークスマンは以下の点も指摘している。
「環境改善により、蒸溜中に発生する熱をプロセス内でリサイクルできるため、グレンキース蒸溜所は当社で最もエネルギー効率の良い蒸溜所のひとつになりました。また、最新のスチル熱圧縮システムを初溜と再溜の両方に初めて導入しました。このためシーバス・ブラザーズの現在最も効率的な蒸溜所と比べてさらに15%のエネルギー使用率削減になります」
シーバス・リーガル、バランタイン、パスポート、100パイパーズ、ロイヤル・サルートなどのブレンドのためにモルトウイスキーを供給するというグレンキース の地味な役割に鑑み、また隣接するストラスアイラが評判の良いビジター施設を抱えている上にシーバス・リーガルを宣伝するための蒸溜業者向け「ブランド本拠地」として機能していることもあって、グレンキースを一般公開する計画はない。
グレンキースシングルモルトを一般リリースする予定もなく、「カスクストレングス・エディション」シリーズからの17年モノのボトルがシーバス社のビジターセンターで入手できるだけだ。
しかし、多くの独立系ボトラーズのボトルが現存し、小数の専門小売店が旧シーグラム社体制下の1990年代に出た10年モノ「ハウス」エクスプレッションのボトルを供給する見込みだ。唯一の難点は、実現した場合の価格が100ポンドほどになることだろう。
ひっそりしていた蒸溜所が息を吹き返すところを目にするのはいつも嬉しいことだし、グレンキースがストラスアイラと並んで再びウイスキーをつくり、ディアジオ社のストラスミル蒸溜所が半マイル南のイスラ川の傍らで順調に進んでいる今、歴史的なキースの町はスペイサイドのウイスキーづくりにとってかつてないほど重要な中心地になっている。
蒸溜所インフォメーション
モルト:アンピーテッド (オプティック種とコンチェルト種のブレンド)
マッシング:フルラウター・マッシュタン、マッシュ8トン
発酵:オレゴンパイン9基とステンレス製ウォッシュバック6基 – 各36,000リットル、発酵 60時間
蒸溜:ウォッシュスチル3基、充填量12,000リットル、スピリッツスチル3基、充填量8,500リットル
テイスティングコメント
グレンキース 「ニューメイク」
甘く、花や果物の香り、まだ熟していない洋梨 、そして背景に微かに粉っぽい香り。少しスパイシーでもある。グレンキース 「17年 カスクストレングス・エディション」 54.9%
香り:バタースコッチとしなやかなバニラ、微かなオーク
味:フルーティ、洋梨とオレンジの皮を伴い、微かにリコリスもある
フィニッシュ:長く、柔らかい