ラベルを読む・3【農夫のウイスキー 後半/全2回】
時を経て蘇った2つの動物のラベル。このブランドのユニークなストーリーをご紹介しよう。
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1974年頃、グロスターシャー州オールドベリー・オン・セヴァーンのM.K. ダウズウエル社がウイスキーブランドとして「シープ・デイップ」を発売した。言っておくが、イングランドの会社だ。もちろん、オリジナルのラベル(トップ画像)に読み取れるように、中身はスコットランドで生産された。「シープ・デイップ」はヴァッテッド(あるいはブレンデッドと呼んでもいいが)モルトウイスキーで、当時はピュアモルトとも呼ばれた。1978年に同社は「豚の鼻のようにソフト」な2番目のブランドを発売し、「ピッグス・ノーズ」①が誕生した。
当初は地元の小売店がメインのターゲットだった。その独特な販売方法も話題となった。「ピッグス・ノーズ」を販売したい小売業者は「ピッグス・ノーズ」クラブのメンバーにならなければならず、その後に公式のメンバーシップ証明書を受け取ることができたのだ。
最初は地元のみでのマーケティングだったにもかかわらず、どちらのウイスキーも間もなく広く認められるようになり、カナダ、ニュージーランド、アメリカへと拡大した②。筆者がアメリカにいるとき友人宅を訪ねると、時折酒棚に奥深く仕舞い込まれたオリジナルラベル付きの奇妙なボトルに遭遇することがある。
現在の「シープ・デイップ」③は有名なマスターブレンダー、リチャード・パターソンがブレンドしているが、ニコルがかつてホワイト&マッカイで働いていた事実を考えると意外なことではないだろう。
パターソンは8年から12年熟成のシングルモルト原酒を選ぶ。伝統を重んじる彼は、オリジナル版が「8年熟成ピュアモルトウイスキー」として宣伝されていたことを認識しているのかもしれない。ダルモアが幾らかブレンドされていると見てまず間違いないだろう。
新生「ピッグス・ノーズ」もパターソンの創作で、ニコルによると、やはり豚の鼻のように滑らかだそうだ。彼は近い将来、自分でブレンディングを引き継ぐつもりだ。
著明なウイスキー・ライターのジム・マーレイは、かつて「シープ・デイップ」を「生まれたばかりの子羊のように若くて元気、新鮮で美味しそうな草っぽいスタイルで、微かにスパイスが効いている。嫌う人もいるようだが、私には魅惑的な複雑さの、完成された才気あるヴァッティングだ」と評した。彼の「ピッグス・ノーズ」の寸評も素晴らしい。「 ビッグで甘く、がっちりしていて不格好だが穀物感が押し寄せる。実に楽しめるブレンド」とコメントしている。
どちらのブレンドも、オリジナルのものはジョージ・ワシントンが1799年に亡くなった後の彼の蒸溜所と同様に忘れ去られていた。
しかし幸運なことに2世紀後、マウント・バーノン蒸溜所が再建されて、今ではアメリカン・ウイスキー・トレイル(WMJ註:American Whiskey Trail ― 2004年に合衆国蒸溜酒協議会がアメリカンウイスキーのPRのために作成したプログラム。操業中も含めた記念的な蒸溜所から成る)の一部になっている。スコットランドの農夫、ジェームズ・アンダーソンは墓の中で喜んでいるかもしれない。
アンダーソンの農夫仲間ともいえるアレックス・ニコルは象徴的なウイスキーブランドを蘇らせた。インヴァーカイシングの町が2つの出来事で重要な役割を果たしたという事実は、興味深い偶然なのかもしれない。