ウイスキーは、さまざまな工程を経てつくられる。蒸溜所内のレイアウトに、最善の形はあるのだろうか。スコッチウイスキーの識者たちに、各蒸溜所の事情を聞いた。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

蒸溜所の外観はさまざまだ。質実剛健な蒸溜所もあれば、絵葉書のように美しい蒸溜所もある。だが内部に入ると、どんな蒸溜所でも等しく美しい光景が目に飛び込んでくる。熱を帯び、艷やかに輝きながら仕事をする生産設備たちだ。

スピリッツづくりの設備をどう配置するかは、蒸溜所ごとに大きく異なっている。究極的に最善のレイアウトは存在するのだろうか。またレイアウトが変わると、スピリッツにどんな影響が出るのだろう。

スコッチウイスキーの蒸溜所で、設備の設計、製造、保守を手掛ける最有力企業がフォーサイスだ。会長のリチャード・フォーサイス氏が、蒸溜所のレイアウトについて次のように述べている。

1898年創設のベンリアック蒸溜所は、同じフロアで全行程が完結する。1人のオペレーターが粉砕、糖化、発酵、蒸溜を監視できるのは大きなメリットだ。メイン写真はキングスバーンズ蒸溜所。

「論理的に考え抜かれたレイアウトが、必ず生産効率を上げてくれることは間違いありません。しかしどんな蒸溜所でも、それぞれ固有の利点や問題があるものです。新しく建設される蒸溜所には、まず『年間どれくらいのアルコールを生産しますか?』と尋ねます。そこからマッシュタン(糖化槽)やポットスチル(銅製蒸溜器)のサイズが決まってくるのです」

機器の大きさが定まったら、蒸溜所が用意できる空間に配置するバリエーションの検討だ。空間のサイズと形状に合わせながら、生産効率を高められるように配置しなければならない。土地が余っている田舎の工場施設なら、広さが不足するという苦労はさほどないだろう。しかし都市部の蒸溜所となれば、空間上の制約と折り合いをつける必要が多くなる。

同様に、これから建設する蒸溜所なら、ある程度は生産の目的に沿った設計が可能になる。だが既存の建物を利用する場合は、あれこれ知恵を絞らなければならない。ただしこれはあくまで一般論であり、どんな空間にも共通する課題はあるのだとリチャード・フォーサイス氏が説明する。

「他のエリアとはっきり仕切る必要がある空間がひとつだけあります。それは大麦モルトを吸い込んで粉砕するミル(粉砕機)の部屋。モルトの粉塵が空中に舞いやすいので、他の設備と一緒にすると爆発のリスクが増してしまうのです」

大麦モルトは、機械で自動的にモルト貯蔵庫からミルへ送られる。そこで粉砕されたグリストは、やはり機械でマッシュタンへと送られる。そのためミルとマッシュタンはできる限り近くに配置しなければならない。糖化の後は、すべて液体の工程だ。ウォッシュバック(発酵槽)、スチル(蒸溜器)、樽詰めの部屋までは、ポンプの圧力でパイプを通って運ばれていくことになる。

この導管システムには、生産効率やスピリッツの特性に関わるパラメーターがいくつかある。グレンモーレンジィでウイスキー原酒の熟成を管轄するブレンダン・マキャロン氏が説明する。

「パイプワークは、基本的に高額な設備です。でも最終的には、長さよりもレイアウトが重要になります。屈曲部分などで流れが悪くなったり、あまり使用されない箇所のパイプに細菌が培養されやすくなると、衛生問題や感染の危険性につながってしまうからです」

 

厄介な制約もうまく活用する

 

蒸溜所のレイアウトが及ぼす影響は、手作業の多い旧式の蒸溜所でより顕著である。オペレーターが、各設備を直接操作するからだ。一方、自動化が進んだ蒸溜所では、もっぱらコンピューター画面のチェックが仕事になる。ベンリアック・カンパニーのグローバルブランドアンバサダーを務めるスチュワート・ブキャナン氏がこんな話をしてくれた。

「ベンリアックの生産現場は、基本的にすべて同じフロアでおこなわれます。それも、ほぼ仕切りのない単一の空間です。こうすることで、1人のオペレーターが苦もなく各工程を行き来できます。粉砕、糖化、発酵、蒸溜をすべて1人で監視できるようにするため、一度に2つ以上の作業を並行しなくてもいいようにスケジュールが調整されています」

生産エリアがフロア別に分かれているような蒸溜所では、階段を行ったり来たりする回数や時間が増える。シーバスブラザーズでエンジニアリング部門長を務めるユアン・フレーザー氏が語る。

「スキャパの古いレイアウトは、いくつかのフロアに分かれたものだったので、常に2人のオペレーターが必要でした。そこで2004〜2005年の改修時に、グリストビン、糖化設備、発酵設備をひとつのフロアにまとめました。こうすることで、手作業ながらオペレーター1人で管理できるように改善されています」

しかし、どうしても階層を分けなければ機器を設置できない蒸溜所も当然のように存在する。ポート・オブ・リース蒸溜所(2021年に完成予定)の共同創設者、パディ・フレッチャー氏もそんな苦労を経験した一人だ。

マッカランが蒸溜所を新設した理由のひとつは、既存の建物で規制の変更に追いつくのが大変だったから。新しい蒸溜所では、ビジター体験への配慮も完璧だ。

「純アルコール換算で、年間40万Lを生産する目標を立てていますがす。これをわずか3分の1エーカー(1,300平米)の敷地に建設する新しいビル内で実現しなければなりません。そんな制約が『縦型蒸溜所』のコンセプトに結びつきました。ミルが5階、マッシュタンが4階、ウォッシュバックが3階、スチルが2階と1階にあります。そしてビジター体験用のスペース(バー、テイスティングルーム、ショップなど)は、生産工程用のフロアの上にある最上階に収めているのです」

既存のビルにうまく設備を配置した蒸溜所は、もちろん制約も非常に大きいが、他にはないユニークな特徴が加わることになる。例えばキングスバーンズは、砂岩地に建てられたジョージ王朝時代の歴史的な農場建築を新しい蒸溜所にした。この建物はスコットランドの政府機関であるヒストリック・エンバイロメント・スコットランドが「カテゴリーB」に指定した歴史遺産でもある。キングスバーンズ蒸溜所長のピーター・ホルロイド氏が、その特殊な事情を教えてくれた。

「既存の建物が歴史遺産に登録されたことで、新築する生産施設用のビルも歴史遺産の建物より高くできないという制約が生まれました。これによって、ポットスチルの高さも最大で5メートルとなり、あれこれ悩まずに済んだのです」

すべての蒸溜所が遵守しなければならないのは、健康と安全に関する法令である。この法令による規制は継続的に変化しているが、エドリントン・グループのエンジニアリング部門長を務めるジョージ・マッケンジー氏を悩ませた。

「マッカランは既存の蒸溜所を改修するのではなく、新しい蒸溜所を建設しました。この理由のひとつが、既存の建物や設備の配置で規制の変更にあわせていくのが難しくなったことです。新しいマッカラン蒸溜所には、引火性の液体をすべて20秒以内に蒸溜所から排出できる排水システムも備えています。このシステムがちゃんと稼働するか、当局に実動作を確認してもらいました」

以上の考察から、設備のレイアウトに関してどんな結論が得られるのだろうか。ゴードン&マクファイルでオペレーションズ・ディレクターを務めるスチュアート・アークハート氏は語る。

「設備のレイアウトによって、生産量が影響を受けることはありません。ただし働きやすさに違いが出るのは確かですね」

またブレンダン・マキャロン氏も、同様の意見を述べてくれた。

「効率的なオペレーションや設備のメンテナンスなどの観点から、考え抜かれた合理的なレイアウトを採用することが大切です。レイアウトに欠陥があると、生産効率を犠牲にしなければなりませんから」

 

ビジター体験への配慮も大切

 

蒸溜所で捌かなければならないのは、大量のモルト原料だけではない。世界中から訪れるウイスキーファンの導線も考慮する必要があるとスチュアート・アークハート氏は指摘する。

「現代の蒸溜所は、観光施設としての価値も大切にしています。でも古い蒸溜所は、建てられたときに観光のことなどまったく念頭にありませんでした。これから蒸溜所を建設する場合は、アクセシビリティを考慮しなければなりません。すべての設備を1階にまとめる配慮や、エレベーターや階段の設置などもレイアウトを考える際に重要なポイントになります」

エディンバラのホリールード蒸溜所は、そんなレイアウトの好例といえるだろう。1839年に建設された細長いビルの中にあるため、さまざまな配慮が必要だった。ホリールード蒸溜所を創設したデービッド・ロバートソン氏は、次のように語っている。

「街の中心部に所在することが重要だったので、現存する3階建てのビルを再利用しました。ビジターがもっとも合理的なルートで見学できるよう、各階の片側に専用の通路を設けました。この通路の両側にはエレベーターも設置しています。このようなレイアウトによって、生産設備の大きさも影響を受けました。容器類の直径は、ビルの幅の半分以下に抑えられています。もう半分をビジター用の通路にあてるための制約です。だからこの建物自体が、年間生産量を決めてくれたということもできますね」