ウイスキー新勢力【1. フランス 後半/全2回】
ウイスキーづくりの新勢力を知る連載、フランス編の後半をお届けする。
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フィニステール県(ブルターニュ南部)のプロムランにある「ラ・ディスティラリー・デ・メンヒル」は、ウイスキーに参入する前から(そして今も)、アップル・ブランデーを生産していた。創立者のル・レイ家がブルターニュ地方の伝統的な穀物、ソバに興味を持ったため、実に独特な製品ができ、1998年にシャラント型ポットスチル(WMJ註:アランビック・シャランテ:コニャックの蒸溜に使われるスチル)で「エデュー(ブルトン語でソバ)」の蒸溜が始まった。フローラルでスパイシーなモルトのサクセス・ストーリーだ。
南に下ったベル・イルのカエリリ蒸溜所では、今年の末頃に最初のウイスキーをボトリングする予定がある。前半で挙げた2つを含む4つの蒸溜所とINAO(Institut national de l’origine et de la qualité:フランス国立原産地名称研究所)の間で現在、「Whisky Breton(ブルターニュ産ウイスキー)」のヨーロッパ地理表示定義に関する話し合いが行われている。
第二のウイスキー生産地がフランス東部のアルザス地方だ。ここの蒸溜所は全てフルーツ・ブランデーを生産している。主な蒸溜所はホーヴァルトのF・マイヤー蒸溜所、ウーベラッハのベットランド蒸溜所、リボーヴィレのジルバート・ホル蒸溜所、オベルネのレーマン蒸溜所。
イヴ・レーマンが所有するレーマン蒸溜所では、容量600リットル2基と1100リットル1基のポットスチルでフルーツ・ブランデーとウイスキーを蒸溜している。スチルはバン・マリー(湯煎/スチーム式)シャラント型ポットスチルだ。
ウォッシュは近くの醸造所から入手し、熟成にはボルドー地方からの白ワイン樽を好んで用いているが、ソーテルヌとコトー・デュ・レイヨン(ロワール地方の三大貴腐ワイン)の樽も使用する。ここのシングルモルト「エルザス」は8年モノで、2002年に生産開始した。
ミラベル(プラム)・ブランデーを産するロレーヌ地方のグラレット・ドゥピック蒸溜所も、2002年にウイスキーの蒸溜を始めた。興味深い点として、所有者のグラレット・ドゥピック家は穀物の栽培も専門にしているため、独自の大麦をベルギーでモルティングして使っている。
シングルモルトの「ロゼリュール(蒸溜所がある村の名前から)」は大きめのポットスチル(1000〜3000リットル)で蒸溜される。ここではコニャック、ソーテルヌ、フィノシェリーの3種類の樽(しかしバットよりは小型の樽)を使う。ライトリーピーテッド(6ppm)とミディアムピーテッド(20ppm)の2タイプがあり、5年以内には40ppmをリリースする予定だ。
2001年にはコルシカ島のシングルモルト「P & M」が発売された。これはユーカリに近い非常にバルサム系の特徴を持つが、蒸溜所を訪れてその理由が分かった。同じホルスタイン型スチルで、「ミルト(ギンバイカ)」を蒸溜してリキュールをつくっているのだ。その風味は実に強力なので、スチルをクリーニングしても中のウイスキーの蒸気に影響を及ぼすことは間違いない。
最後の興味深い蒸溜所は、アルプス山脈でオーガニックのスピリッツを生産している農場兼蒸溜所「ル・ドメーヌ・ドゥ・オート・グラス」だ。所有者らは「テロワール(WMJ註:風土・環境/作物にはその土地特有の性格が影響するという考え方)」を信じているため、オリジナルの大麦とライ麦を収穫した畑ごとに分けて蒸溜し、モルティングと醸造も蒸溜所内で行っている。2回蒸溜のスピリッツをつくり、ライ麦では3回蒸溜も行っている。そのままボトリングしているが、ウオツカとは呼んでいない。2015年には初めてのシングルモルトが発売される予定だから、これは追う価値があると言えるだろう。
フランスでは都心部を中心にジャパニーズウイスキーが流行している。熱心な愛好家はスコットランドよりも日本の蒸溜所を訪れることを思い描いているほどだ。そしてこのような自国のウイスキーの夜明けも喜ばしく思っている…いつかこれが逆転して、日本でフランス産ウイスキーがもてはやされる時が訪れるかもしれない。ブランデーの隆盛を思えば起こりえないことではないだろう。
長いブランデー蒸溜の技術に裏打ちされたフレンチ・ウイスキー、あなたもぜひ一度お試しを。