ウイスキー新勢力【5. 英国湖水地方 後半/全2回】
英国湖水地方、長い沈黙を経てこの地でのウイスキーづくりが始まった。レイクス蒸溜所では今何が行われているのか?最新レポートの後半をお届けする。
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レイクス 蒸溜所のチームは「ブリテン諸島ブレンドウイスキー」もつくり上げている。「ザ・ワン」と名付けられたこの製品はシングルモルトが熟成するまでの間の収入を確保するだけでなく、蒸溜所の名を広めるという点でも役立つ。
「『ザ・ワン』の売れ行きは実に好調です」と創業者のポール・カリー。「国際的なコンペティションで賞を獲得していますし、ジンやウォッカと同様に世界9ヵ所の市場に出ています」
「シングルモルトでは折に触れて実験的なボトリングをリリースする計画ですが、最終的にメインとなるアイテムは比較的少数になると思います」とカリーは説明する。
「ファーストフィルのバーボン樽、一部はシェリー、そして2、3のワイン樽を熟成に使っています。もっと早い熟成のために、50リットルの小さな樽も利用しています」
加えて、カリーは毎年数週間を実験に当てるつもりで、これを「マッド・マーチ(狂気の3月)」と呼んでいる。
「ピーテッドの生産、それに例えばクリ、アカシア、カエデを使用した樽をそれぞれ半ダースずつ使うといった樽の実験。ステンレス製コンデンサーも使ってみますが、これは実験に限らず使う予定です」
「スコットランドの蒸溜業者とは異なり、私たちはスコッチウイスキー協会(SWA)が定めるオーク熟成に縛られていませんから、好きなだけ実験できます。アメリカのクラフトディスティラーが既に使っているような伝統的ではない木材を使って、1年ほどで熟成がどのように進むか、どれが上手くいってどれがダメか、他の樽に移す必要があるのはどれかなどを調べるつもりです。コンパス・ボックス社のジョン・グレイザーが試みた、樽の内部に樽板を入れることや、新しいオークの鏡板を組み合わせた樽も試してみるかもしれません。SWAは樽内部での樽材の使用を禁止しましたが、イングランドでは問題ありません」
元ディアジオ社生産ディレクターの 高名な アラン・ラザフォード博士が、レイクス 蒸溜所役員会の主要メンバーとして非常勤取締役を努めているが、マスターディスティラーの役割はアイラ島生まれのクリス・アンダーソンが担当している。
アンダーソンは傑出したウイスキーの血筋を誇り、「曾祖父はカリラ蒸溜所で主任モルトマンとして働き、祖父はカリラとブルックラディ蒸溜所でも同じ職に就いていました」と言う。
クリスはアンダーソン家の伝統にならって1968年にカリラで働き始め、最終的に管理職に昇進して、1995年にはネアン近くのロイヤル・ブラックラ蒸溜所のマネージャーに指名された。ここからパースシャーのアバフェルディ蒸溜所に異動になり、ついにはバカルディ社が所有する5ヵ所のスコッチウイスキー蒸溜所全ての責任者になった。
その後、引退していたアンダーソンをポール・カリーがレイクス蒸溜所のチームに誘った。
「すぐにやりがいのあるプロジェクトだと思いました」と彼は言う。「全く新しい蒸溜所の設立に参加するチャンスはあまりありませんからね」
クリス・アンダーソンがウイスキー業界で一生を過ごした経験を持ち込むとすれば、蒸溜所マネージャーのジョン・ドレイクはかなり異色だ。
ポール・カリーによると、「地元出身のジョンは公務員として働いていましたが、ウイスキーに心を奪われ、アイラ島に別荘を持つほどでした。彼はヘリオット・ワット大学で蒸溜を学び、資格を取った後にスコットランドのさまざまな蒸溜所で修行しました。彼にはクリス・アンダーソンの元で経験を積んで、クリスの引退に合わせて徐々に引き継いでもらおうと思っています」
どの新興蒸溜所にも言えることだが、レイクスのシングルモルトがどれほど良くなるか、そしてランティ・スリーの伝説的な湖水地方のウイスキーに匹敵するかどうかは時が経ってみなければ分からない。しかし、ひとつだけ確かなことがある。ランティにはなかった問題がある。その1滴を味わう前に、政府に多額のお金を払わなければならないということだ !
もちろんこれは現代では致し方ない。我々はただ、その達人たちの新たなウイスキーを味わうときを、ゆっくりと待つこととしよう。
蒸溜所インフォメーション
- モルト…アンピーテッド(コンチェルト種)
- マッシング…セミラウター式マッシュタン(1トン)
- 発酵…ステンレス製ウォッシュバック4基(6,000L) 平均発酵時間90時間
- 蒸溜…ウォッシュスチル 5,500L
- スピリットスチル 3,500L