ウイスキー業界の原動力、北ハイランドの蒸溜所【前半/全2回】

May 6, 2016

ハイランド北部には、スコッチファンを魅了するウイスキーの生産拠点が点在している。おなじみのブランドから知る人ぞ知る蒸溜所まで、ウイスキーの今を知るグレートブリテン島最北部の旅。

文:ガヴィン・スミス

 

 

歴史あるハイランドの首都、インヴァネス。ここはグレートブリテン島最北部の蒸溜所を訪ねる旅の拠点として最適の場所だ。スコットランドでもほとんど観光化されていない地域を旅しながら、見事な風景と素晴らしいウイスキー体験を楽しんでみよう。

インヴァネスの25kmほど南、ハイランドを南北に貫く幹線道路であるA9を少し外れた場所にトマーティン蒸溜所がある。その起源は1897年にまで遡るが、1960年代に建設された現在の建物からは創設時の面影を偲ぶことができない。それでも蒸溜所を訪ねれば温かな歓待があり、トーマティンは今や世界中のシングルモルトマニアが買い求める人気銘柄となった。特にファンが多い市場はアメリカである。

トマーティンは近頃ブランドの全ラインをリニューアルした。新デザインのボトルは、すでに世界中で発売されている。さまざまなシングルモルト製品の他に、ピーテッドモルトのコレクションを「クボカン」のラベルでリリースしている。

トマーティンからA9で北のインヴァネスに向かう代わりに、B9090経由でロイヤルブラックラ蒸溜所に寄り道してみよう。海辺の町ネアンの少し南、のどかな田園の中に蒸溜所は建っている。残念ながらまだ一般公開はしていないが、親会社であるジョン・デュワー&サンズがビジターセンターの設置を計画中だ。

ブラックラの設立は1812年だが、トマーティンの影に隠れてあまりその名を知られていない。現在の蒸溜所設備は、1970年頃に建設されたスチルハウスの中にある。スチルの数が2基から4基に倍増したのもその頃のことだ。

ブラックラがその名に「ロイヤル」を冠するようになったのは1835年以来のこと。だが長年にわたってブレンデッドウイスキー用のモルトウイスキーとして重用されてきたため、知る人ぞ知る存在であった。それでも昨年、デュワーズが比較的無名な蒸溜所に光を当てた「ラスト・グレート・モルツ」というプログラムを始め、ロイヤルブラックラの12年、16年、21年のボトルをリリースしたことから徐々に知名度も上がっている。

 

インヴァネスからさらに北へ

 

今回の旅で訪問する蒸溜所は11カ所。インヴァネスを起点に、海岸沿いを北へ進もう。

ロイヤルブラックラからは、アバディーンとインヴァネスを結ぶA96でインヴァネスに向かう。ケソック橋を通ってA9を北へ進み、A832からグレンオード蒸溜所を目指そう。グレンオードもまた1838年以来の長い伝統を持つ蒸溜所だが、古風なガラスをあしらった玄関を持つ蒸溜所のスチルハウスは1960年代半ばに建てられたものである。

だがここにはロイヤルブラックラよりも多くの19世紀建築が残されている。古いキルンとモルトの貯蔵庫は、昨年になって新しい仕込み室に改装された。これまでサラディン式モルトティングをおこなっていた製麦室は第2のスチルハウスとなり、既存の6基を補う新たな8基のスチルが導入されてる。いまやグレンオードはスコットランドのモルト蒸溜所で生産規模トップ5に入り、年間1,100万Lのスピリッツを生産するようになった。

ディアジオの傘下にあるグレンオードは、そのスピリッツをさまざまなブレンデッドウイスキー用に供給している。だが2006年に12年ものを発売した「ザ シングルトン グレンオード」は、アジア市場におけるディアジオの特筆すべき成功例のひとつとなった。蒸溜所のそばには、1960年代からディアジオ傘下の蒸溜所へモルトを供給している製麦工場がある。この製麦工場は、第一級のビジターセンターと合わせてグレンオードの自慢である。

グレンオードから来た道をA9まで戻り、そこから一路北へ。クロマーティ湾にもほど近い、アルネスの町を目指す。海上にはたくさんの油田掘削装置が見える。あまり風光明媚な立地とは思えないアルネス工業団地の一画に、目当てのノーザンハイランド蒸溜所、別名ティーニニック蒸溜所はあった。

グレンオードと同様に、ティーニニックもまたディアジオ傘下の蒸溜所であり、ここにも1970年に建設されたガラス張りのスチルハウスがある。このスチルハウスが建てられたのは、新規の生産ユニット「ティーニニックA」が既存の生産ユニット(以降こちらがティーニニックBになった)の隣に設置されたときであった。やがてこのユニットは廃止され、2014〜2015年にグレンオードと同様の大規模な生産拡大プログラムを実行。3組6基の真新しいスチルがすでに導入され、生産量はほぼ年間1,000万Lに達しようとしている。

ティーニニックの生産拡大プログラムの他にも、ディアジオにはエルギン近郊にある同社のローズアイル工場に倣った第2の「スーパー蒸溜所」を建設する計画があった。だが世界的なスコッチウイスキーのセールスが縮小傾向を見せたため、この計画は2014年にお蔵入りとなっている。

ティーニニックは一連のジョニーウォーカー製品のブレンドにおいて重要な役割を担っているが、シングルモルトとして味わう機会を見つけるのはたいへん難しい。唯一のチャンスは、現在のところ「フローラ&ファウナ」というブランドでボトリングされている10年ものである。

(つづく)

 

 

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