「ニッカ セッション」新発売【前半/全2回】
文:WMJ
新型コロナウイルスの流行により、好調だったウイスキー業界も打撃を受けている。だが状況はやや複雑だ。アサヒビールの調査によると、国内のウイスキー市場は今年2月まで堅調な成長を続けてきた。ロックダウンが始まった3月以降も、家庭用市場は前年比115%とむしろ増加している。しかし業務用市場が前年比54%と低迷したため、1~7月は全体で前年比85%とブーム開始以来の下降線を描いた。
だが実はコロナ以前も、商品クラスによって明暗が分かれていた。エコノミークラスやスタンダードクラス(2000円未満)が伸長を続ける一方で、プレミアムクラス(2000円以上)は微減傾向にあったのだ。世界的なウイスキーブームで長期熟成原酒の在庫が逼迫し、高級銘柄が出荷制限に追い込まれているのが主な要因である。
そんな状況下で、ニッカウヰスキーは創業100周年となる2034年を見据えた増産計画を進めている。2019~2021年の設備投資は、総額約65億円を予定。余市と宮城峡の両蒸溜所で、原酒貯蔵能力を約120%(2019年比)、原酒製造能力を約210%(2015年比)にまで引き上げることになる。
「プレミアム」の条件を問い直す
増産計画と同時に、ニッカウヰスキーは将来に向けたファンづくりにも課題意識を持っていた。これからのプレミアムウイスキーに求められる価値を捉え直し、未来にわたって確かな成長を目指さなければならない。そこで2018年より、消費者のニーズや深層心理を掘り下げようと調査に乗り出した。
ウイスキーの市場調査は、これまでウイスキー愛好者への聞き取りが中心だった。だが今回は、あえてファン以外の層も対象にして、生活行動から「プレミアム」の条件を探ることにした。つまりウイスキー業界の外部に、プレミアムウイスキーの未来を問うという発想である。
この斬新な調査から明らかになったのは、既存のプレミアムウイスキーへのネガティブなイメージや未充足ニーズだった。知識なしでは楽しめなさそうな理屈っぽさもそのひとつ。伝統を重んじる価値観は、いつも代わり映えのしないイメージにむすびついて、発想の限界を感じてしまう人もいることがわかってきた。
同時に、人々が思い描く「プレミアム」のイメージも詳細にわかってきた。たとえば見知らぬ店に入って、新しい料理に出会い、初対面の人と会話すること。そんな刺激や発見によって、感性が磨かれるスマートな生き方を「プレミアム」という価値観に結びつけている人が多いのだ。
チームがたどり着いた結論は、「ウイスキーらしさからの脱却」というラディカルなもの。余市や宮城峡では表現しきれていないニッカウヰスキーの世界を提示し、今までのポートフォリオにはないウイスキーでニーズに応えなければない。未来のプレミアムウイスキー像は、ニッカに大胆な発想の転換を求めていた。
スコットランドと日本のモルト原酒をブレンド
従来の先入観を打ち破るような新商品の開発には、まったく新しい視点が必要だ。そこでビール類や焼酎の開発を経験してきた女川裕司氏(ブレンダー室主席ブレンダー)が、担当ブレンダーとして初めてのウイスキー開発を担当することになった。
使用するのは、スコットランドのモルト原酒と、日本のモルト原酒。 原酒それぞれの特徴を感じながら、心地よく味わえるウイスキーにしたい。ぴったりのイメージがあるとするなら、異なる個性がぶつかりあう音楽のセッション。前例のないコンセプトで、ブレンディングの試行錯誤は続いた。
モルトウイスキー同士のブレンドといえば、「竹鶴ピュアモルト」で何度も国際賞に輝いてきたニッカウヰスキーのお家芸でもある。だが今回は異なる個性が融合、協調するのではなく、互いの個性を主張しながらぶつかり合い、高め合う、なおかつ従来のウイスキー観を脱却することが大きなチャレンジとなった。
そしてこのたび誕生したのが、新ブランドのブレンデッドモルトウイスキー「ニッカ セッション」である。従来のウイスキーの世界観にとらわれない、既存の枠組みを飛び出した極めてユニークな存在であることは間違いない。
(つづく)
自由を歌う、モルトのセッション。新しいプレミアムウイスキーを体現する「ニッカ セッション」のブランドサイトはこちらから。